視点
また起きた黒人市民の殺害、終わりなき米警察の暴力と専門家の見解
今月27日、テネシー州メンフィス警察による黒人男性タイリー・ニコルズさん(29)殴打事件の様子を収録した生々しい動画が公開され、アメリカの警察の暴力に反対する市民や政府高官から非難の声が上がりました。
警察による残虐な黒人男性の殺害を受け、首都ワシントンをはじめアメリカの複数都市で抗議デモが行われました。
黒人男性のタイリー・ニコルズさん(29)は、今月7日に危険運転をした疑いで警察に呼び止められ、激しい暴力を受けた結果、3日間の入院の末、今月10日に死亡しました。
ニコルズさん逮捕の様子を収録した動画には、警察官が3分間にわたり29歳のこの黒人男性を唐辛子スプレーやスタンガンで攻撃し、複数回殴打している様子が映されています。また、殴打されている間にニコルズさんが母親を呼ぶ声も聞き取れます。ニコルズさんの死に関与した2人の警察官はともに黒人で、先週メンフィス警察を解雇され、第2級殺人などの罪で起訴されました。
アメリカにおける人権侵害の最もよく表すものの1つが、これまで数百年にもわたり人権と自由の擁護を主張してやまない同国にはびこる、黒人に対する人種差別と差別的扱いです。その証拠に、同国では黒人に対する教育的、職業的、社会的差別がもはや日常茶飯事と化し、オバマ元米大統領は、「人種差別はアメリカ人のDNAに組み込まれている」と語っています。
近年さらに深刻になっているこの問題の一例として、黒人に対するアメリカ警察の際限のない暴力が挙げられます。複数の統計からは、アメリカ警察による暴力の主な犠牲者が黒人であり、こうした暴力の起源がアメリカ社会の人種差別の深層にまでさかのぼることが見て取れます。
特に、2020年5月25日にミネソタ州ミネアポリス市でデレク・ショービンという白人警察官が黒人のジョージ・フロイドさんを正当な理由なく残忍に殺害した事件は、全米規模での抗議行動に発展し、これまで以上に黒人に対するアメリカ警察の極度の暴力が世界規模でますます注目されることとなりました。
統計によりますと、アメリカでは黒人が警察により殺される可能性は白人より3倍も高いことが分かっています。実際、 アメリカ社会での白人による人種差別的暴力の大部分は、黒人を含む人種・宗教的少数派に対するものです。加えて、人種差別主義者の白人警官は、これらの少数派の人々に対する暴力行使に大きく関与しています。
この問題は、アメリカの各都市でしばしば発生する抗議や暴動の主な理由の1つです。
アメリカ警察は市民に対する行動や対応の改革など多くを約束したにもかかわらず、この点に関して効果的な行動は講じられておらず、多くの場合、警察官による暴力の継続は黒人の負傷や残忍な殺害に発展しています。この点に関する最新の事例が、今回のタイリー・ニコルズさん殺害事件であり、この事件について公開された動画は、この若い黒人男性の死につながった残忍な殴打の生々しい様子を示しています。FBI米連邦警察のクリストファー・レイ長官は、「悲しい出来事だった。この動画を見てぞっとした。まさに恐怖という以外に表現方法はない」と語りました。
今回の事件については、アメリカ連邦議会議員らも反応を示しています。バーモント州選出の無所属上院議員であるバーニー・サンダース氏はツイッターで、「この残忍な殺人の加害者は罰せられるべきだ。しかし、そうした処罰・制裁をもってしても、タイリーを生き返らせることはできない。有色人種に対するアメリカ警察の残虐行為の停止に向け、我々はできる限りのことをする必要がある」と述べました。
人権団体による多数の報告からも、米国における人権侵害の指標の 1 つである組織的な人種差別、そして有色人種に対する警察の暴力行使が継続されていることがわかっています。
バイデン米大統領は、タイリー・ニコルズさん殺害事件が公になった後、通称「ジョージ・フロイドの正義」として知られる米国連邦警察改革法案の可決を議会にに迫る考えを示しました。
アメリカの警察署は多くの場合、暴力を行使したり、正当な理由もなく黒人を殺害したりする警察官を軽視しています。アメリカの司法制度もまた多くの事例において、殺人を引き起こした警官への対処に当たり寛大な判断を示しており、これが黒人に対する警察の暴力の継続を引き起こしていると言えるのです。