ファジル映画祭授賞作品
第36回ファジル映画祭は、イランイスラム革命記念日の2月11日に各賞の授賞作品を発表して幕を閉じました。
この閉会式で、「アブーゴライブ峡谷」と「シープル」という2つの作品が最優秀賞を授賞しました。ここからは、今年の映画祭の優秀作品についてみていきましょう。
第36回ファジル映画祭の閉会式には、映画界の関係者が出席しました。サーレヒー・イスラム文化指導大臣は、ローハーニー大統領のメッセージを読み上げました。
このメッセージには次のようにあります。
「映画は、現代の人間が文明的な成果を紹介したり、メッセージを伝えるために発見した最も機能的な文化や芸術の手段である。人々は、映画の中で、生活、アイデンティティ、夢、苦痛、喜び、希望を追い求める。このような特徴が、人々を惹きつける重要な理由になっている」
「アブーゴライブ峡谷」は、最優秀音声賞や主演男優賞など、6つの部門で、最優秀作品に贈られるクリスタルスィーモルグ賞を受賞しました。
アブーゴライブ峡谷は、バフラーム・タヴァッコリー監督の作品です。アブーゴライブの物語の語り手は、エネルギーに溢れた若者であり、カメラを片手に、前線の出来事を記録するために戦場に向かいました。彼は一日の出来事を語ることで、苦しみと同時に、勇気に溢れた出来事を伝えようとします。アブーゴライブ峡谷は、1980年代のイラン・イラク戦争当時、イラン南西部フーゼスターン州の国境で、イラク軍の侵攻に対し、イランを守ろうとした人々の物語です。
アブーゴライブ峡谷のワンシーン
この映画には敵は登場しませんが、その存在を感じることができます。アブーゴライブ峡谷では、物語の主人公たちが、この戦略的な峡谷を守るために殉教したり、怪我を負ったりします。それによって、彼らは英雄となっているのです。
アブーゴライブ峡谷で、監督のバフラーム・タヴァッコリーは、反戦映画を製作しています。彼は、多くの醜さ、悲しみ、破壊、別れを伴った戦争を描いています。しかし、祖国や宗教を守ろうとした過去の若者たちを決して非難してはいません。そのため、タヴァッコリー監督の映画は、防衛に反対する映画と見なすことはできないのです。
アブーゴライブ峡谷は、近年の戦争映画の中でも重要な作品だと言えます。
シープルという映画は、脚本賞など4つの部門で、最優秀賞に贈られるクリスタルスィーモルグ賞を受賞しました。
フーマン・セイエディ監督の作品、シープルは、犯罪が多い都市の郊外にあり、これまでに犯罪が起こったことのない地域のお話です。この映画の面白いところは、その中で犯罪が起こることと犯罪がなくなることについて描かれていることです。
シープルのワンシーン
シープルという映画は、3人の兄弟についての物語です。シャクール、シャーヒーン、シャフルーズの3人は、スラム街に暮らしています。この映画は、激しく動くカメラの映像から始まります。その後は、監督の社会的な関心事によるコラージュが映し出され、新たな世界が描かれます。
シープルでは、争いなどの困難なシーンで、それぞれの人物のキャラクターがコントロールされています。
この映画の監督は、次のように語っています。「社会に対するイメージダウンを図るつもりはなく、苦い出来事について語りたいと思った。ラストシーンも希望を残すものだ」 監督はまた、映画を観た後に、笑いながら映画館を去らなければいけないわけではなく、涙や悲しみもまた、笑いや喜びと同じ一つの感情だと話しています。
「シャームの時間」という映画は、監督賞など、3つのクリスタルスィーモルグ賞を受賞しました。シャームの時間は、イブラヒーム・ハータミーキヤー監督の19本目の作品となっています。シャームとは、現在のシリアの昔の名称で、この国の首都ダマスカスを指します。
シャームの時間では、テロ組織ISISについて描かれています。そのため、映画に登場する俳優の多くは、アラブ人です。ISISは2014年、イスラム世界の支配を主張しました。しかし、2017年には、シリア、イラク、イランからその消滅が宣言されました。この映画は、ISISがシリアを支配していた時代の物語です。
ハータミーキヤー監督の作品では、登場人物が信条の対立で争うシーンがよく出てきます。この映画も、こうした抗議の場面によって始まります。実際、それはこの映画の最大のテーマにもなっています。この映画は、さまざまなイデオロギーの対立によって進み、その分類が行われます。監督は、ISISの間でも人々を信条によってグループ分けし、それぞれのグループの代表者を置いています。
撮影技術と監督の技術のすばらしさが、シャームの時間の2つの重要な特徴です。同時に、イラン人以外の俳優の演技も、この映画の優れた点のひとつに挙げるべきでしょう。
シャームの時間のティーザー
「水の中の糸杉」という映画は、舞台装置など、3つの最優秀賞を授賞しました。この映画の監督は、モハンマドアリー・アーハンギャルで、戦争に対して特別な見方を持っています。
水の中の糸杉は、殉教した人の遺体を見つけ出そうとする人が、殉教者の遺体は間違って別の家族のもとに届けられたのではないかとの疑問を抱き、真実をつきとめるための旅に出発するシーンから始まります。この旅は、イスラム教とゾロアスター教という、異なる宗教を信じる2つの民族の姿を描き、この2つの家族の殉教に対する考え方を伝えています。
水の中の糸杉で、アーハンギャル監督は、魅力的な場面を作り出し、3つの異なる場所での物語りを語っています。
水の中の糸杉は、宗教少数派の殉教者の遺族を取り上げ、ゾロアスター教徒の殉教者について描いたイランで初めての映画です。
「爆弾、愛の物語」は、審査員特別賞など2つの最優秀賞を受賞しました。
ペイマーン・マアーディ監督は、この映画によって、イラン・イラク戦争のときの爆撃に対して、これまでとは異なる見方を持つよう訴えかけています。
「爆弾、愛の物語」は、夫婦の物語によって始まります。映画は、夫婦の愛情を描くと同時に、社会問題についても取り上げようとしています。この映画の重要な点は、出演者、特に学校の生徒たちの演技がすばらしいことです。
爆弾、愛の物語のティーザー
概して、今回のファジル映画祭に出品された作品は、専門性を高めていると言えます。これらの映画は、社会問題、コメディ、聖なる防衛、抵抗といったテーマの物語を、アニメーション、ドキュメンタリーといった形で示し、映画界の明るい未来を伝えました。
今回の映画祭は、イラン映画が今後、若者たちを中心に、これまで以上に世界レベルで輝く兆しを感じさせるものとなりました。