ペルシャ語ことわざ散歩(227)「あなたからはアッバースィーを、私からは踊りを」
皆様こんにちは。このシリーズでは、イランの歴史や文化、宗教など様々な由来を持つペルシャ語のことわざや慣用表現、言い回しなどを毎回1つずつご紹介してまいります。
今回は、今から500年ほど前に栄えたサファヴィー朝時代のアッバース大王の時代にまつわることわざをお届けしましょう。
本日ご紹介するのは、「あなたからはアッバースィーを、私からは踊りを」ということわざです。
ペルシャ語での読み方は、Az to Abbaasii, az man raqqaasiiとなります。
この慣用表現は、文章の中ほどと文末で韻を踏んでおり、ラッカースィーとは、ペルシャ語で踊ることを意味しています。また全体としては、お金のためなら踊ることさえも厭わない、つまりは「お金のためなら何でもやる」ということを意味しています。
また、このことわざは多くの場合、相手に対して「あなたが私たちの望むものをかなえてくれれば、私達もあなたの命令に従い、あなたのいうことを何でもやる」と言いたいときに使われています。
このことわざに出てくるアッバースィーというのは、サファヴィー朝時代のイランの為政者アッバース大王の時代に定められた貨幣の単位、即ち金銭を意味しています。
アッバース大王が現在のイラン中部の町イスファハーンに都を定め、国を治めていた時代のある日のこと、宮殿のそばをみだりに屯している男が、現在で言うスパイ行為を理由に捕らえられ、アッバース大王のもとに連れて来られました。大王はこの男に対し、「一体何のために我々の宮殿の周りをうろついているのか?誰にスパイ行為を命じられたのか」と問いただしました。
この男は、このようなことになろうとは予想もしておらず、とっさに意味のないことばをあれこれと並べたてました。しかし、アッバース大王はこの男の胸の内はもっと取り乱していることを見抜き、「私の目の前で踊って見せよ」と命じました。
すると、この男はすかさずこう答えました。「実は私も、まさにこのことをしたくてイスファハーンの都に来ました。ですから、あなたさまからは1アッバースィーの金銭を頂戴したく存じます。さればこのわたくしめも朝までずっと踊り続けましょう」
このことから、自分の目標達成やニーズの確保のためなら、どのような卑劣な物事にでも手を出すことを、「あなたからはアッバースィーを、私からは踊りを」と表現するようになりました。
当時の都イスファハーンは、サファヴィー朝時代には「世界の半分」とも評されたほど、きらびやかな王朝文化や芸術、手工芸、通商貿易などが栄えました。その名残は、イスファハーンに今なお残るユネスコ世界遺産などに見て取れます。皆様にもぜひネットで気軽に、華やかなサファヴィー朝時代の王朝文化に触れていただければと思います。それではまた。
この番組は、IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信パールストゥデイがお送りしています。