ファールス州;貴重な歴史遺産(1)
このシリーズではは、ファールス州にあるイスラム期の歴史遺産についてお話しすることにいたしましょう。
これまで数回に渡り、イラン南部のファールス州を訪れ、この州の州都シーラーズについてご紹介しました。ファールス州の歴史遺産は、イスラム以前とイスラム期のものに分けられます。シーラーズとその周辺の行政区にあるイスラム以前の貴重な歴史遺産については前回のシリーズでご紹介しました。このシリーズではは、ファールス州にあるイスラム期の歴史遺産についてお話しすることにいたしましょう。
シーラーズの歴史は、紀元前6世紀から4世紀のアケメネス朝に遡りますが、都市として確立され、名声を得たのは7世紀のイスラム期に入ってからです。この時期、シーラーズは繁栄を遂げ、4つの時代に首都に選定されました。シーラーズの町も、イランの他の町と同じように、歴史の中で数多くの出来事を経験してきました。この町は、支配者の拠点、都に選定されるたびに繁栄を遂げ、外部の支配者の怒りに触れるたびに、苦難を強いられ、停滞に陥っていったのです。
シーラーズの建物は、それぞれの時代に、その時代独特の様式で建てられてきました。そのため、それらを通して、イランの歴史の変遷を見ることができます。シーラーズには、イルハン朝、サファヴィー朝、ガージャール朝、ザンド朝の各時代から、非常に価値のある建造物や遺物が残されています。中でも、ザンド朝の遺物や建造物が特に多く、特別な重要性を有しています。ザンド朝を打ち立てたキャリームハーン・ザンドは、1750年から79年まで、イランを支配していました。彼はシーラーズを都とし、数多くの貴重な建造物を残しました。キャリームハーンの城塞、モスクやバザール、公衆浴場などのヴァキール群、美しい庭園を持つパールス博物館、その他の貴重な建造物は、多くの旅行家の関心を集めています。
今回のこの時間は、可能な限り、ザンド朝の歴史的建造物をご紹介してまいりますが、その前に、ザンド朝の建築の特徴について簡単にお話ししましょう。ザンド朝の建築は、サファヴィー朝の建築を受け継いでいますが、よりシンプルで、より斬新なものになっています。ザンド朝時代の建物の特徴は、頑丈であること、シーラーズの気候に合わせて造られていることであり、イランの建築に新たな様式をもたらしました。また、内部を重視していること、他に類のない独自のものであることも、この建築の特徴です。建物の内部が外観よりも重視されており、内部の装飾には、しっくい細工、絵画、タイル細工が用いられています。ザンド朝時代の建物は、大きな地震がきても耐えられるように頑丈に建てられています。シンプルな柱、あるいは渦巻文様が刻まれた美しい2本の柱と、その柱に合ったエイヴァーンと呼ばれるテラスがあることも、ザンド朝時代の建築の特徴です。
それでは早速、ザンド朝の建造物をご紹介してまいりましょう。まずは、キャリームハーン城砦です。キャリームハーン城砦は、ザンド朝の創始者、キャリームハーン・ザンドの宮殿で、1766年ごろ、彼の命によって建てられ、現在のシーラーズの北東部に位置しています。キャリームハーン城砦の壮大な建物は、類まれなるイニシアチブ、堅固さ、優美さ、シンプルさを兼ね備えたものとなっています。この城砦は長方形をしており、4000平方メートルを超える面積を有しています。この城砦の四方の角には、高さ15メートルのレンガの塔が建っています。北、南、西の角の間には、ホールと2つの大きな部屋から成る、広いテラスがあります。この聳え立つ4本の塔には、レンガによって美しいレリーフが作られており、建物に、壮大さと独特の優美さをもたらしています。
18世紀末、ガージャール朝がザンド朝時代のタイル細工などを破壊し、そこに自らの装飾を施しました。1979年のイスラム革命勝利後、本来の建物を保護するためにその復興が行なわれ、壁にあったしっくい細工による美しい模様が明らかになっています。
ヴァキール・バザールも、ザンド朝を代表する建物で、1936年、イランの世界遺産に登録されました。このバザールは、注目に値する建築を有しており、外観はイランの古い建築とは異なり、サファヴィー朝の王、アッバース1世の時代のラール・バザールにヒントを得ていると言われていますが、このバザール自体も、ザンド朝以降に建てられたバザールに影響を与えています。バザールの建築には、高い天井や採光のための窓が取り入れられ、光や温度を調節することができるようになっています。そのため、バザールの内部は、冬は暖かく、夏は涼しくなっています。シーラーズのヴァキール・バザールは、数多くの隊商宿と共に、常に町の経済、流通の中心地となってきました。この伝統的なバザールは、今もかつての活気を失っておらず、伝統工芸品や布を中心に、様々な商品を提供する場所となっています。
ヴァキールモスク、あるいはヴァキール・ジャーメモスクと呼ばれるモスクも、ザンド朝を代表する建造物です。このモスクの敷地全体の面積は1万1000平方メートルで、そのうち9600平方メートルが建築面積となっています。モスクの中庭は、全体に石畳が敷かれ、中央には石でできた長方形の池があります。モスクには、冬と夏の礼拝所やテラスがあります。また、テラスの入り口の上部や脇には、美しい筆致によるコーランの節の碑文が置かれています。ヴァキールモスクのすぐ近くには、ヴァキール公衆浴場があります。この公衆浴場・ハンマームは、様々な点から、イランで唯一のものとなっています。ヴァキール公衆浴場は、イラン史上、最大かつ最も貴重なハンマームです。
このハンマームは、4つの部分から成っています。入り口を入ると、天井に興味深い様相のしっくい細工が施された八角形の空間に遭遇します。中央には大きな浴槽があり、その周りを小さな浴槽が囲んでいます。天井のしっくい細工は、イスラムの預言者ムハンマドの天界飛行や、イランの神話を表現しています。ヴァキール公衆浴場は、当時、最も進んだ建築様式で作られ、内部の空間の温度を保ち、外部の寒い空気が入ってこないように考慮されていました。この場所は現在、伝統芸術を展示する場所として利用するために修復されています。
パールス博物館も、ザンド朝時代を代表する建築物です。現在、パールス博物館が建っている場所には、かつて、ナザルと呼ばれる広大な庭園があり、その敷地には、この博物館の建物とキャリームハーン城砦も含まれていました。
コラー・ファランギーという名の美しい八角形の建物は、ナザル庭園の中に建てられています。キャリームハーンの時代、この壮麗な建物は、外国の使節を招いたり、公式な儀式を催したりする場所でした。キャリームハーンザンドの遺志に従い、彼の遺体は建物の東にある王の部屋に埋葬され、そこがヴァキールの墓地と名づけられました。この建物は八角形をしており、一枚岩やタイル細工によって、唐草模様、鶏や花、狩猟の様子、イランの古い物語りを表す様々な場面の装飾が施されています。建物の内部の装飾は皆、鶏や花、唐草模様になっており、ホールの中央に、大理石でできた池が置かれています。この建物は、1936年に博物館となり、パールスという名に変更されました。そこには、先史時代、古代、イスラム期の時代の遺物が展示されています。その例としては、陶器、青銅器、写本、絵画などを挙げることができます。
ザンド朝時代の史跡は、これまでお話ししたものに限られません。ジャハーンナマー庭園やシャー・ショジャーの墓など、シーラーズには、ザンド朝の栄光を示す多くの場所があります。ラジオをお聞きの皆様、今夜はここで時間がきてしまいました。次回のこの番組では、シーラーズの宗教施設やその他の歴史的建造物についてお話しする予定です。