コンピュータ・ゲームが子供にもたらす弊害
前回は、現代においてほとんどの家庭に見られる先進技術の1つが、コンピュータ・ゲームであることについてお話しました。
実際に、コンピュータ・ゲームはほかの文明の利器と同様に、諸刃の剣のようなものとなっています。即ち、正しく使用すれば進歩発展に役立ちますが、使い方を誤った場合には様々な側面からユーザーの家庭的、文化的な価値観や精神性に反するものとなります。今回は、コンピュータ・ゲームが子供にもたらす弊害について考えていくことにしましょう。
コンピュータ・ゲームが子供に及ぼす弊害としてまず考えられるのは、肥満です。かつては、子供の最も安全な遊び場所は家の庭であり、子供たちは体を動かす遊びの中で集団行動や社会との接し方を学んでいました。こうした遊びは、生きた勉強であるとともに、彼らが摂取したカロリーの消費を促し、子供たちの間に肥満はそれほど見られませんでした。
しかし、人々の生活様式が変化している現在、私たちの周りを見てみると、肥満体の子供たちが非常に多いことに気づきます。こうした子供たちは、食べることやタブレット、コンピュータ・ゲーム以外の世界を知らないのです。彼らが先進技術やコンピュータ・ゲームにかじりつこうとすればするほど、彼らの食習慣もファーストフードのような不適切な飲食物の宣伝の影響を受け、好ましくない方向に変化していきます。この問題は、子供があまり体を動かさないことに加えて、現在と未来の子供たちを身体的な問題に直面させています。
研究者による調査からは、アメリカでは過去30年間で肥満と診断される子供の数が2倍に増加していることがわかっています。今や、アメリカ人の子供の3人に1人は肥満児であり、その原因はコンピューターに夢中になりすぎていることだとされています。専門家によりますと、子供は1日に2時間以上、インターネットなどの先進技術に時下を費やしてはならないとされています。しかし、アメリカ人の子供は1日に7時間以上インターネットを使用し、テレビを視聴し、あるいはコンピュータ・ゲームで遊んでおり、体を動かして遊ぶ時間は1時間以下となっています。もっとも、こうした現象はアメリカのみに限られず、今日先進技術の普及している社会の全ての子供たちが、多少なりとも肥満やその弊害に苦しんでいます。
複数の研究調査によりますと、コンピュータ・ゲームは頭脳にも弊害を及ぼすことが分かっています。コンピュータ・ゲームは、人間の大脳のうちでも視覚と運動をつかさどる部分のみを刺激し、脳のその他の部分の発達を助けることはありません。このことから、長時間にわたりコンピュータ・ゲームで遊ぶ子供は、大脳のうちで記憶力や知覚、学習能力などをつかさどる部分が十分に発達しないことになります。専門家によれば、こうした子供は暴力的になりがちで、自分の行動を制御する力が劣っているとされています。
一方で、画面上の動きの多いコンピュータ・ゲームは、腕や手の骨や神経の病気を引き起こします。子供の夜尿症の原因の1つは、恐怖感をさそうコンピュータ・ゲームとなっています。首や背中、手首の不快な症状は、コンピューターを長時間使用する子供を脅かします。それは、何時間も一箇所に座ったままでいると、その人の背骨や骨格に異常が現れるからです。そのほかの症状としては、首筋や手首の硬直や肩こりなどが挙げられます。
過去においては、遊びは子供たち同士の交流を通して行われていましたが、現代では子供はデジタル機材のゲームによる一人遊びに最も多くの時間を費やしています。しかし、こうした遊びは決して、感情を伴う人間関係を築くものではありません。こうした状況のがもたらすものは、情緒に乏しい機械化された子供たちであり、彼らは人間関係や他人への思いやりに無関心であることが多くなっています。
もっとも、問題はこれだけでは終わりません。こうした子供たちは、感情をコントロールすることを教えられていないため、当然ながら家庭や同年齢の子供たちの集団において、ひいては将来の様々な社会生活や配偶者との共同生活において、様々な問題に遭遇すると考えられます。複数の調査からは、常にデジタルゲームで遊んでいる子供は、内向的になりがちで社会で孤立し、他人との健全な人間関係を築けなくなることが分かっています。
子供は、たいてい、1人でコンピュータゲームで遊び、時にはこれといった計画もなく何時間もゲームを続けます。こうした遊びにおいては、他人の作ったものやプログラムに向き合い、自分で何かを作り出すことはないため、どうしても受動的になり、新しいものを生み出すことへの自信を失い、また他人の進歩を目の当たりにして劣等感を感じるようになってしまうのです。
子供が将来的に成功するための第1歩として、想像力を育むことは極めて重要ですが、一方で現実に空想を持ち込むことは非常に危険です。現実の問題を、自分が空想の中で作り出すものとして扱う子供は、現在、そして未来の実生活において多くの問題に直面します。このように、空想を現実に持ち込むことは非常に危険であり、子供が現実と向き合ったときに心身の健康、さらには自分の生活までも失うことがあります。例えば、多くのコンピュータ・ゲームでは困難に遭遇したときに、子供が勇者の役を演じますが、その問題が現実の世界で起こった時に、ゲームの中でする反応をそのまま示した場合、自分の生命が危険にさらされるかも知れません。このため、コンピュータ・ゲームを論理的にとらえず、その正しい使い方を教えないことは、子供にとって危険なものです。
コンピュータ・ゲームの製造者は、より多く販売するために、怒りを誘う要素をゲームに組み込みます。研究調査の結果、苛立ちをかき立てるゲームをすることは、特に子供のかんしゃくを助長することが分かっています。こうしたゲームは、他人を攻撃して被害を与える方法をユ-ザーに教えます。さらに、こうしたゲームに出てくる刃物などの武器といった暴力的な要素は、実際の環境においてのそうした武器による暴力につながる可能性があります。
もう1つの重要な点は、ゲームを通して得られた興奮や激しい感情が、ゲームを終えた後にも残るということです。子供の世界が空想やファンタジーの世界であることから、子供はゲームが終わった後も何時間も空想にふけり、自分がゲームの主役を演じて、ゲームに出てくる戦いの場面を自分の両親に向かって実演しようとします。子供を持つ親からの数多くの報告からは、自分の子供が暴力的なシーンのあるコンピュータ・ゲームをしたことで、怒りっぽくなり、自分たちが苦しめられていると感じる親がいることが分かっています。
コンピュータ・ゲームが非常に刺激的であり、また殺害の場面が出てくることから、こうしたゲームをする子供は当然、人道的な問題に対して無神経になります。この点はまさに、子供を持つ親が、自分の子供たちには人道上の問題や大惨事に対して冷淡であると報告していることに一致します。
一方で、恐怖感による興奮は、体内にも変化をもたらし、これにより人間は防衛あるいは逃避という反応を示す構えを作ります。恐怖感や怒りを誘うゲームでは、子供は恐れに対し身体的な反応を示すことはないため、精神的なエネルギーのみを失うことになります。このため、こうしたゲームをした後で、子供は物理的には何もしていないにもかかわらず脱力感や疲労を感じる可能性があります。このため、恐怖感を誘うゲームをする人が深刻な精神障害や心臓病にかかるリスクは、普通の人の2倍から3倍に高まります。
子供の学習方法の1つは、観察によるものです。即ち、人間は他人の行動の観察により、行動の仕方を学ぶのです。子供のそばに信用できる人が数多くいればいるほど、子供が模倣する可能性が高まります。このため、コンピュータ・ゲームに出てくる主人公が不適切な言葉を使ったり、不適切で乱暴な行動を見せた場合、ユーザーである子供がそれを模倣した実例が数多く報告されています。こうした乱暴な言葉遣いや行動は、その子供の家族や友人、同級生との関係に悪影響を及ぼし、さらには友達から仲間はずれにされる原因となる可能性があります。
精神科医や社会学者の見解では、遊びは子供の生活と密接に結びついており、子供の精神や人格形成に根底的な影響を及ぼします。子供は、遊ぶことで自分の住む社会の習慣やモデルに触れ、自分の内面を形成し、それによって社会性を身に付けていくのです。
コンピュータ・ゲームの社会的、文化的な影響は非常に大きく、もはやこのデジタルゲームに対して、余暇を過ごすための健全な手段であるという単純な捉え方をすることはできません。コンピュータ・ゲームは、その製造企業にとっては大きな収益をもたらします。しかし、残念ながら利潤追求のあまり、子供の人間的な成長のための、こうしたゲームのモラル的な側面や教育面が注目されなくなっているのが現実なのです。