12月 04, 2016 17:43 Asia/Tokyo
  • 中東における砂塵
    中東における砂塵

中東地域の自然環境に対する砂塵の影響について考えます。

前回お話したように、中東地域は世界のどの地域よりも、数十年前から砂塵という現象に悩まされています。この地域の環境問題の原因となっている重要な要因の1つは、イラクのチグリス・ユーフラテス川とその水源が、この河川の利権にかかわる国々により不当に分配され、誤った管理のもとに置かれていることです。このことから、イラク、シリア、そしてイランの一部で砂漠化が進み、こうしてできた砂漠が砂塵や土ぼこりの発生源となっているのです。今夜は、この問題について詳しくお話することにいたしましょう。

 

自然環境の専門家の多くは、中東地域における砂塵の発生源は、イランとイラクの国境地帯にまたがる、チグリス・ユーフラテス川流域で枯渇したメソポタミア湿原であると考えています。その理由は、湿地帯が空気中の湿度を上げ、砂塵や砂嵐を防ぐ重要な役割を果たしているからです。しかし、この40年間、チグリス・ユーフラテス川流域の湿地帯の開墾が進んだ結果、その90%が破壊され、砂塵や砂埃の発生地と化しています。

 

この数十年間にわたる専門家による調査の結果、中東での砂塵が一大問題となったのは、チグリス・ユーフラテス川流域で唯一残っていた、メソポタミア湿原が干上がった時のことです。この湿地帯は、総面積がおよそ11万8000ヘクタールにおよび、イラクとの国境、そしてキャルヘ川の河口に面したイラン南西部フーゼスターン州西部・アーザーデガーン平原にかかっています。この湿地帯の枯渇により、イランとイラクの両国で砂嵐が多発し、その地元では風が吹く際に砂塵や砂埃を伴うことが多くなっています。

 

こうした砂塵に対して行われた複数の実験の結果からも、イランの南部と西部で最近発生した大規模な砂塵は、砂漠ではなく干上がった湿地帯が発生源であることが判明しました。その理由は、細かい砂粒の中に淡水や塩水に見られる単細胞性の藻類・ケイソウ(確認済み)が見つかったからです。さらに、節足動物の一種である貝虫(カイムシ、確認済み)も存在していました。

 

ROPME・湾岸海洋環境保護機構が撮影した衛星写真からも、これらの砂塵の多くの発生源が、枯渇したメソポタミア湿原のある地域だったことが分かっています。この湿地帯は、つい最近までは中東最大の規模を誇っていましたが、現在では乾燥した荒地となり、農業用地としては使用できません。湾岸海洋環境保護機構のイラン常任調整官を務めるモハンマディ氏は、これについて次のように述べています。「メソポタミア湿原の枯渇は、この数年間におけるトルコとイラクによるチグリス・ユーフラテス川でのダム建設によるものである。この湿原が干上がったことから、地域では砂嵐が発生するようになった」

 

UNEP・国連環境計画はこれ以前に、中東地域における自然環境の危機の発生について警告していました。この国際機関の報告には、次のように述べられています。「21世紀の始まりにおいて、メソポタミア湿原の消滅の悲劇は、世界最大の自然環境の大惨事とされている。ダムや排水網の建設により、かつては地上の楽園とまで謳われ、世界で最も重要な生物の多様性の中心地とされていた、世界最高の湿原の1つが、今や干上がった砂漠と化してしまった」

 

国連環境計画はまた、報告の中で、次のように表明しています。「メソポタミア湿原の消滅は、人為的な自然環境の大惨事の1つであり、その結果は永遠に世界の歴史に刻まれるだろう。メソポタミア湿原の90%が失われたという事実は、破壊的な危機の1つの例であり、地域における戦争や衝突の多発、自然環境汚染の増大、地元民の社会への脅威、古代遺跡や動植物の生息地の破壊、自然環境難民の増加、そして人権の侵害につながる可能性がある」

 

世論ではメソポタミア湿原の消滅は1990年代におけるイラクの旧サッダーム政権のみに関係があると見なされていますしかし専門家の見解ではメソポタミア湿原に大きな変化が起こったのは、1990年から95年までの間であり、この5年間でメソポタミア湿原のうち、イラン領内にある部分の多くが破壊され、残存しているのは本来の湿原の30%のみです。ここで注目すべきことは、この湿原の枯渇には、トルコ政府が大きく関わっていたことです。

 

国連の報告から、チグリス・ユーフラテス川の流れをせき止めてのダム建設に最も関わっていたのはトルコ政府だということが明らかになっています。イラクとシリアの湿原と湖が枯渇した重要な原因の1つは、トルコでのGAP・南東アナトリア計画の実施です。このプロジェクトによれば、2023年までにチグリス・ユーフラテス川上流域に、22のダムと19の発電所を建設し、電力開発と同時に、170万ヘクタールと見込まれる灌漑農地の開発が、トルコ政府の事業に掲げられていました。これまでに、灌漑プロジェクトの21%、そして電力開発の74%が完成していました。現存する資料では、ユーフラテス川にトルコ政府が建設したダムの貯水容量は、この河川の水量全体の1.5倍近くに上るということです。

 

専門家の話によれば、チグリス・ユーフラテス川に入ってくる水の量は480億立法メートルであり、トルコ政府はそのうちの320億立方メートルが自国に分配される仕組みを作りました。しかし、その一方でイラクは水の需要の98%、シリアは86%をこの河川に依存しています。情報筋は、トルコ在住のシオニストが費用の80%を出資したこのプロジェクトによりイラクとシリア東部の砂漠化が進んだことを認めています。チグリス・ユーフラテス川でのこうしたダム建設計画は、この河川の水の利権に関係する国々の間で、政治、軍事、外交面での緊張を引き起こしました。そうした例として、シリア・トルコ間の緊張や、シリアとイラクの緊張が挙げられます。

 

このプロジェクトによる自然破壊についても、1973年と2000年に撮影されたイランとイラクにまたがるメソポタミア湿原の航空衛星写真が国連により発表されており、この2つの写真を比較した結果、このプロジェクトがこの地域に大惨事をもたらした事実が認められています。この大惨事により、かつてはバビロニア文明やシュメール文明をはじめとする、数多くの文明をうちたてた、言葉では表現できないほどの絶景を誇っていたメソポタミア湿原は、跡形もなく消滅し、塩分を含む50万ヘクタールほどの荒地だけが残っていました。この地域が塩分を含む荒地となったため、2001年から現在までに、砂塵の発生回数は10倍以上に増えています。砂塵がもたらすちり芥により、地域諸国の数百万人の住民は困難な生活を強いられています。

 

中東地域における砂埃の複数の発生源が、干上がった湿地帯、あるいは荒地のいずれだったにせよ、この問題を抱えている当事国間の協力が必要になります。これまでに、イラン、イラク、サウジアラビアの3カ国が土壌の表面をプラスチックシートで覆うマルチング措置の費用を負担するなど、共同で、砂塵の対策措置を講じました。こうして、1年のうち特定の時期には、砂埃の発生原因となる全ての地区にマルチングが行われています。

 

この措置に使われるマルチシートは、石油系で粘着力があり、荒地で風とともに舞い上がりやすい砂を押さえるために使用されます。しかし、イラク戦争や2000年代における各国の政策の変更により、マルチングが徹底されなくなり、その結果地域には砂塵が多発するようになりました。それ以後も、外交レベルで一部の措置が講じられ、また複数の協定が締結されたにもかかわらず、残念ながら、砂塵の発生源となっている国々を初め、この問題に悩む国の間では、それほど本格的な協力は行われていません。

 

現在、中東諸国で、自然環境を脅かす最大の危険要素の1つは砂塵とされています。この問題に対処するための策を考えなければ、近い将来、この問題を抱える国々は、確実に健康や衛生のための莫大な費用の支払いを余儀なくされるのです。この問題が多国間にまたがる問題であることから、この問題の当事国が行動を起こし、この問題の解決に向けて互いに善後策を考えなければならないのです。

 

東南アジア諸国も、これと類似した危機を経験していることから、自然環境の問題の解決には地域単位での協力が必要であることがわかっています。それは、自然環境問題が本質的に多国間にまたがるものだからです。このため、砂塵の対策に効果的と思われる措置には、近隣諸国間で調印された協定の迅速な実施、砂塵をはじめとする自然現象への対策を目的とした、地域諸国間の協力プロジェクトの草案の作成などが挙げられます。