イスファハーン州;イマームモスク
これまで数回に渡り、イラン中部にある歴史的な美しい町、イスファハーンについてご紹介しました。前回は、「全世界の図・ナグシェジャハーン」とも呼ばれる、イマーム広場について詳しく見てまいりました。今回は、まず、イラン・イスラム建築の象徴である、イマームモスクをご紹介しましょう。
イマーム広場の南の角に、サファヴィー朝時代の建築を代表する、イマームモスクがあります。このモスクは、王のモスク、あるいはアッバースィーモスクとも呼ばれ、4つのテラス・エイヴァーンと4本の尖塔・ミナレットがあります。このモスクの建設は、1611年、サファヴィー朝のアッバース1世の時代に開始され、およそ26年の歳月が費やされました。イマームモスクは、17世紀における建築、タイル細工、彫刻の傑作であり、1932年、イランの国家遺産に登録されました。また、宗教的、民族的な誇りとして、イマーム広場と共に、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
イマームモスクのメインの入り口の扉は、美しい詩のレリーフで飾られています。この扉は、金と銀で覆われ、美しい模様が施されており、サファヴィー朝時代の芸術の傑作とされています。そこにある碑文は、サファヴィー朝時代の著名な書道家、アリーレザー・アッバースィーによって書かれたものです。この扉は、優れた建築様式やタイル装飾が用いられており、タイル一枚一枚が美しい絵画のようになっています。イマーム広場の入り口にある三角形のエイヴァーンは、空色をした高さ27メートルの2本のミナレットと共に、広場をのぞんでいます。その後ろには、高さ52メートルのメインのドームがあります。モスクを入ったところにある廊下にも、優れた建築芸術が施されています。この建築の特徴は、入口の門に対し、モスクが45度の角度をつけて配置されて いることです。それは、イスラム教徒が礼拝を行う際に向く方角・キブラにあわせるためです。イマーム広場の軸とメッカの方向が45度、ずれているため、このように調節することで、モスクの建物とメッカの方角のバランスが取られています。
イマームモスクの中庭には、非常に大きな美しい池があり、モスクの東と西の角には、左右対称に2つの礼拝所が見られます。東側の礼拝所は、西側のそれよりも広くなっていますが、飾り気のないシンプルなものです。それに対し、西側の礼拝所は東側よりも狭くなっていますが、7色のタイルで装飾され、そのメフラーブと呼ばれる壁がんも、イスファハーンにあるモスクのメフラーブの中で、最も美しいものとなっています。モスクの南側の礼拝所の広い空間にある大きなドームは、イランのモスクのドームの中でも最大の高さを誇ります。このドームは、二重構造になっており、二つの層の間は12メートル離れています。外側のドームは、高さ52メートル、空色のタイルで覆われており、遠くから見ると、独特の輝きを放っています。ドームが二重になっているため、礼拝所の音はよく響き渡り、礼拝所やメフラーブの前で話をする人の声が、モスク全体に鮮明に聞こえるようになっています。
イマームモスクのドームやエイヴァーン、四方の壁に、非常に美しい七色のタイル細工と共に見られる碑文は、サファヴィー朝時代の書道家や芸術家の作品です。モスクの南西と南東には、ナーセリーとスレイマーニーエと呼ばれる2つの神学校が左右対称に建てられています。神学校の庭の周りにある、神学生の寮として使われる部屋、そして花壇にあるクワの木は、心地よい空間を生み出しています。モスクの南西にある学校には、石の日時計があり、一年を通して、イスファハーンの正確な正午の時間を示します。この日時計は、アッバース1世の時代の著名な数学者、イスラム法学者であった、シェイフバハーイーによるものです。
イマームモスクは、バランスとアンバランスが融合されており、それが、他のモスクと異なる点です。モスクには、同じ箇所が二つとして存在しません。例えば、天井と壁のタイル細工には共通性がなく、まったく異なっています。それが、モスクの魅力や美しさをさらに増しています。モスクの入り口の両側には石でできた大きな杯がありますが、冷蔵庫のような役目を果たし、水や飲み物を冷えたままに保ちます。この杯は、一枚岩でできており、この建物の彫刻芸術の象徴となっています。
イマームモスクの壮麗さは、建築芸術に関心のある人や有識者の多くを惹き付けています。アメリカのイラン学者、ポープ博士は、イラン建築に関する著書の中で、イマームモスクについてこう記しています。「この歴史的建造物は、千年に及ぶイランのモスク建築を代表するものである。入り口やドームの模様の美しさにも驚かされるが、建物の様々な要素の均整、例えば、左右対称になった柱のある廊下、バランスの取れたエイヴァーン、建物の表面に使われている印象的な色、それらが、建物の美しさへの理解を促している」
さて、イマーム広場には、この他、アーリーガープー宮殿という建物があります。広場の西の角に位置し、シェイフロトフォッラーモスクの向かいにあるアーリーガープー宮殿は、外観の美しさだけでなく、主に、建物の内部に使われている模様の多いタイル細工や建築により、特別な魅力を有しています。ここからは、アーリーガープー宮殿をご紹介してまいりましょう。
アーリーガープーは、非常にしっかりとした驚嘆に値する宮殿です。建設からおよそ500年が経過しており、奥行き386メートル、横140メートル、高さはおよそ48メートルです。この建物は、サファヴィー朝時代の宮殿建築の希少な作品であり、17世紀初め、サファヴィー朝のアッバース1世の命によって建てられました。サファヴィー朝の王たちは、外国の要人や使節をこの宮殿に招いていました。アーリーガープー宮殿は6階建てで、それぞれの階には、使用目的に合わせた独特の装飾が施されています。例えば、1階は守衛の部屋、2階は台所、3階は応接間、そして6階は美しい漆喰細工の施された音楽堂となっています。建物の屋上からは、イスファハーンの町やイマーム広場が一望できます。
アーリーガープー宮殿の特徴の一つは、各階に小部屋があることです。サファヴィー朝時代のイタリアの著名な旅行家、ピエトロ・デラ・ヴァッレは、旅行記の中で次のように記しています。
「小部屋や互いにつながっている廊下の数は非常に多く、守衛たちによれば、そこには500を超える扉があるということだ。ただしそれらは非常に小さいものである」
アーリーガープー宮殿の真の美しさは外観に限られません。建物の内部に使われた、多くの模様が施されたタイル細工や建築も、独特の魅力があります。精巧なデザイン、金色で覆われた壁の漆喰細工、そしてミニアチュール、これらは皆、著名な芸術家とその弟子たちによるものです。花や木、自然などが描かれたこれらの装飾は、建物のアーチや天井、廊下や階段に残されています。
この他、アーリーガープー宮殿の特徴に、壮麗で大きなエイヴァーンがあります。このエイヴァーンは、宮殿の上の階に、イマーム広場を望む形で設けられています。エイヴァーンの周りは、木製の大きな柱で囲まれており、その柱の上には非常に美しい天井がかけられています。このエイヴァーンでは、祝祭行事や儀式が行われていました。また、広場で行われる乗馬やポロなどの競技を観戦する場所でもありました。このエイヴァーンの中央には、大きな長方形の池があり、その周りは、大理石で装飾され(、柱の間の空間を埋め)ています。
アーリーガープー宮殿の6階には、建物の中でも最も美しく最も大きなサロンがあります。このサロンの特徴は、壁やアーチに施された漆喰細工にあり、この部屋はコンサートホールとされていました。このサロンの芸術家がこのような装飾を施したのは、美しさを表現するためだけでなく、演奏家たちの奏でる音楽がなるべく反響せず、生の音が楽しめるように、という配慮からでした。