約束を守ること
今回は、約束を守ることについてお話することにいたしましょう。
皆様も、これまでに約束を守らない人を何人か見たことがあるかと思います。私たちの周りにも、約束を守らない人は少なからず存在しており、常にそうした人に悩まされることも多いのではないでしょうか。例えば、後で連絡しますと言っておきながら何の連絡もしてこない人などはその一例でしょう。また、ある決まった時間に会い、あることについて話し合う約束をしておきながら、約束の時間が過ぎても来ない人もいます。さらには、ある決まった時期までにあることをする約束をしておいて、それを実行しない人も存在します。このように、あることをすると約束しておいて、実際には約束を実行しない人に遭遇した場合、どのように感じるでしょうか?
それではここで、最近自分がどのような約束を交わしたか、そしてそれをきちんと守ったか、またそれを守れなかった場合、その原因は何だったかについて、少々考えてみて下さい。
保健衛生の専門家から見て、約束を破ることの最大の要因となるのは、誰かから何かをするように頼まれた際、本心では気が進まないものの、相手に悪く思われないために承諾の返事をしようとしてしまうことだと考えられています。そうした専門家は、人間関係を築く中で、自分にできないことは断る技術を身に付けるべきだとしています。それは、人間関係における重要な柱は信頼であり、それが崩れてしまうと修復が難しくなり、孤立してしまうからです。約束を守らない人は大抵、時間の経過とともに周りの人々からの信用を失い、その人の発言や約束したことはもはや価値はありません。
もっとも、約束や取り決めは自分と他人の関係のみに限定されず、時には自分との約束も含まれることがあります。その例として、タバコを止めると何度も決心しておきながら、これを実行できない人が挙げられます。また、配偶者や家族との約束、さらには市民としての義務など、社会に対する約束、そして友人との約束なども、そのほかの約束に含まれます。
倫理学者によれば、約束を守ることは人間として最も道徳的な性質の1つとされ、犯罪を抑止する効果があるとされています。また、社会学者の見解では、(カット)社会を活性化し、その社会の全ての人々を近づける効果を持つ、といわれています。心理学者や教育学者も、幼少期の人間にとっての最初の学びの場は家庭であると見なしています。また、家庭環境を好ましいものにすることは、親の責務であるとともに、親は子どもが約束することの意味を理解したときから、このことを言葉や行動によって子どもに教え、これを習慣として身につけさせる義務があるとしています。
イスラムの聖典コーランは、人間社会に対し、自分が交わした約束を常に守るよう求めています。例えば、コーラン第2章、アル・バガラ章、「雌牛」第177節では、善良な人々について述べており、彼らの特徴として約束を守ることを挙げ、そうした人々は約束をしたならば、必ずこれを守る、としています。
コーランはまた、最後の審判の日に、イスラム教徒を初めとする人間が、約束を実際に、どれほど忠実に守ったか、また約束を守ることが自分にとってどれほど必須事項なのかについて問われるとしています。例えば、コーラン第17章、アル・イスラー章、「夜の旅」第34節では、次のように述べられています。エ;“約束を果たすがよい。全ての約束は、最後の審判の日に問われる”
神は、コーラン第3章、アール・イムラーン章、「イムラーン家」第76節においても、敬虔な人になるための要素は約束を果たすことだとし、約束を果たし、敬虔である人は、神の慈しみと恩恵にあずかれると述べています。また、約束を果たす人には、神からの素晴らしい報奨が待っており、彼らは相応しい行いの結果として、神の満足を得て、楽園に入る、としています。
この素晴らしい性質を身に付け、約束を果たすことを習慣づけるためには、自分に正直になって自分との約束を果たし、自分にできないと思われることは約束しないことにより、可能となります。
また、何か他に優先すべきことがあれば、約束をせず、自分に出来ると確信できるまではこれを表明しないことです。そのような場合、相手にあえて約束せずに、相手が期待していないところでそれを果たし、相手を喜ばせてみてはどうでしょうか。
また、自分が好意を持っている相手との約束を果たすことは、ちょっとした仕事をしたことになります。それは、この小さな行動により、自分に対する相手の不信感などを最小限に抑えたことになるからです。そして、その行動により、世の中には信用できる人もいるのだということを、相手に理解させたことになります。おそらく、約束を果たすことで、人々が自分や自分の発言した内容をどれほどまともに受け止めてくれたかということに、皆様は驚かれるかもしれません。そして、結果的に自分の家庭生活もさらに素晴らしいものになると思われます。