4月 04, 2018 18:46 Asia/Tokyo
  • カスピカイアザラシ
    カスピカイアザラシ

前回は、カスピ海に住む稀少動物の1つである、カスピカイアザラシについてご紹介しました。今回は、この稀少動物を脅かす要因について考えることにいたしましょう。

カスピ海

 

前回は、カスピカイアザラシがカスピ海に生息する唯一の哺乳動物であり、1年を通してほぼ定期的にこの海域内で住処を変えていることについてお話しました。また、カスピカイアザラシは、この湖における食物連鎖のピラミッドの頂点に位置する高次捕食者であり、基本的に天敵が存在せず、陸地に上がった際にその子どもがワシやオオカミに狙われる可能性があるのみです。しかし、残念ながらこの数十年間において、カスピカイアザラシは人間がもたらしているいくつかの危険にさらされています。今夜は、この問題にスポットを当てていくことにいたしましょう。

 

カスピカイアザラシ

 

少し前まで、カスピカイアザラシはこの湖の沿岸に住む住民の経済にとって非常に価値あるものでしたが、それはこの動物の命の値段そのものでした。カスピ海の北部の地域では、年間数万頭のカスピカイアザラシが捕獲されていました。この動物の毛皮は保温効果と共に値段が高く、またこの動物から取れる油は照明器具に使う燃料として、また薬用として利用されていたのです。また、アザラシの肉はキツネの飼育に利用され、そのキツネの毛皮はさらに高額の衣服の製造に使われていました。1930年から1965年にかけて、カスピカイアザラシの乱獲が進んだため、カスピ海の沿岸諸国はこの動物を殺すことを禁じました。

 

 

しかし、問題はこれだけにとどまらず、カスピカイアザラシは乱獲以外の理由でも殺され続けました。コスピカイアザラシに関する国際的な調査の結果、この稀少動物が絶滅しうる重要な原因の1つが、人間による自然破壊であることが判明しています。河川を通じてカスピ海に流れ込む農薬などの毒物のほか、全ての建築物に含まれる有機塩素化合物が、カスピ海に生息する魚の体内に入り、その魚を食べた結果、それらがカスピカイアザラシの皮下脂肪に貯蓄されます。この蓄積された毒物は、カスピカイアザラシの体の細胞に弊害を及ぼし、免疫システムが破壊され、その結果この動物がウイルスや感染症により命を落としやすくなるのです。また、船舶や漁網の洗浄に使われる物質や、工場の配水に含まれる化学物質も、カスピカイアザラシの死亡原因となっています。

 

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシの生存を脅かすもう1つの原因は、漁獲に使われる網です。1年間に多数のカスピカイアザラシが漁網にかかり、水上に上がれずに窒息してしまいます。一部の漁網は、カスピカイアザラシの体を傷つけ、またこのときの傷がもとでカスピカイアザラシが感染症にかかり、すぐさま命を落としてしまうのです。

 

過去においては、カスピカイアザラシにより魚が食べられてしまうと考えられており、このために漁師たちはこの動物を銛(もり)や棍棒で追いまわし、傷つけ、殺していました。しかし、幸いにも近年においては漁業関係者を対象とした数多くの講習会が開催され、正確な説明がなされたことにより、そうした誤った考え方がかなり改善されました。現在のイランでは漁民の暴力によりカスピカイアザラシが殺されることは非常に少なくなっています。もっとも、カスピカイアザラシにとっては、漁民よりもさらに恐ろしい危険が存在します。

 

その危険因子とは、水中に生息する有櫛動物(ゆうしつどうぶつ)・クシクラゲの一種である、ムネミオプシス・レイディです。このクシクラゲは、船舶のバラスト水と共にカスピ海に流入したもので、この湖に天敵がいなかったことから急速に個体数を増やしました。今では、カスピカイアザラシのみならず、この湖に生息する全ての生物に、危機的な状況をもたらしています。ゼリー状のクシクラゲの主なエサとなるのは、カスピカイニシンをはじめとする魚の卵やその稚魚です。このことにより、カスピカイアザラシのエサとなるニシンの個体数が減少し、ひいては冬の寒い時期におけるカスピカイアザラシの抵抗力の低下とともに、この動物の寿命が縮み、死亡数が増加することになります。

 

カスピカイアザラシ

 

 

カスピ海沿岸地域における都市の拡大により、安全な生息場所が失われ、カスピ海に浮かぶ島々に人間の手が及んでいること、そしてカスピ海北部における貿易船の往来も、カスピ海の氷の上で暮らすカスピカイアザラシに深刻な問題を引き起こしています。

 

 

 

一方で、カスピ海の沿岸地域では、今なおカスピカイアザラシの乱獲が続いています。例えば、ロシアやカザフスタンの乱獲グループは冬になると、高額で売れるカスピカイアザラシの白い毛皮を目的に、この動物の子どもを大規模に捕獲しています。現代では、こうした問題によりカスピカイアザラシの個体数が減少するという、由々しき事態を引き起こしています。これについて、カスピカイアザラシ調査・救急センターの責任者は次のように述べています。

 

「過去50年間においては、カスピカイアザラシの個体数は100万頭と推定されていたが、2008年の時点では10万頭、現在では7万頭にまで激減してしまった。このことから、この稀少動物を絶滅から救うには、この動物を配慮しての用意周到な措置を講じる必要がある」

 

イランは、カスピ海沿岸5カ国の1つであるとともに、その中で唯一、カスピカイアザラシの保護活動を開始した国でもあります。また、イランは漁網にかかったカスピカイアザラシの救出方法を、漁業関係者に指導し、初めてこの哺乳動物の絶滅を阻止した国でもあります。このため、イランの漁民たちは、そのほかのカスピ海沿岸諸国にとって、カスピカイアザラシの救助の模範とされています。

 

一方で、イランは他のカスピ海沿岸諸国に先駆けて、カスピカイアザラシの調査・救助センターを設置しました。もっとも、この稀少動物を救うためには、イランの講じた措置だけでは不十分であり、カスピ海に面した全ての沿岸諸国の協力が欠かせないと考えられます。

 

 

 

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