ズメリア
今回は、イランのペルシャ湾岸に生息するシソ科の薬用植物の1つである、ズメリアをご紹介してまいりましょう
イラン南部に横たわるペルシャ湾の北岸には、ホルモズガーン州という州があり、ここには25万ヘクタール以上にわたって850種類以上の植物が自生しています。これらの植物の生息地域には、マングローブ樹林や砂丘、山岳地帯、海域、泉の周辺、湿り気の多い地域や塩分を含む土壌などが挙げられます。
ホルモズガーン州に生息するこれらの植物のうち、292種類は薬草とされ、さらに生息が脅かされている植物は83種類となっています。ICUN国際自然保護連合の統計によれば、この組織の基準に照らし、準絶滅危惧種に当たる植物が11種類、それよりもさらに深刻さの度合いの高い危急種に相当する植物が71種類、そして、絶滅危惧種とされる植物が1種類となっています。
今回ご紹介するシソ科の薬草ズメリアは、絶滅危惧種とされている植物です。この植物は、ホルモズガーン州の中心である港湾都市バンダルアッバースの北方100キロの山岳地帯やその周辺に生息しており、イランや世界の両方において希少な植物とされています。
ズメリアには、ズメリア・マジダエという学名がつけられていますが、これはこの植物が1966年にイラン南部でズメール・マジダエという名のノルウェー人女性により発見され、それまでになかった新種の植物として紹介されたことによります。この功績を称え、この植物は発見者の名前がそのまま学名となり、世界の薬草のリストに登録されました。
この植物は、よい香りを放ち、独自の薬用効果があることから、香料の生産に利用されています。
ズメリアは多年生植物で、成熟すると高さ50センチほどに及びます。また、表面に短い毛の生えた卵型の葉を持ち、全体の配色は、白または灰色のかかった緑色で、紫色または青紫色の花を咲かせます。この植物は、海抜520メートルから1450メートルの山岳地帯や、岩肌の多く傾斜の大きい地域に生息しています。
ズメリアは、春の終わりに花を咲かせます。この植物の部位のうち、利用できるのは葉の部分のみですが、この植物の葉から取れるエキスのうち、これまでに30種類の成分が確認されており、非常によい香りを放つことから、この植物はイラン南部の地元民の間で利用されています。
ズメリアの生息は、自然環境にも大きな効果を発揮します。その例として、加湿効果に加え、二酸化炭素を酸素に転換し、空気清浄機のような機能を持つ事が挙げられます。さらに、この植物により塵などの空気中の微粒子や毒ガスが抑制され、気候条件が調節されることから、生活環境が他の生物により適したものとなります。
さらに、ズメリアの花も非常によい香りを放つことから、ミツバチが集まります。また、この植物の生息地域全体が、家畜や野生の草食動物の牧草地となっています。
ズメリアは、昔からイラン南部の伝統医学で多く利用されており、ホルモズガーン州の人々により、この植物の摘み取ったばかりの葉を粉末にしたり、煎じるといった形で利用されています。
ホルモズガーン州の地元民での間では、ズメリアの葉が一部の病気の治療に使われています。彼らは、ズメリアの葉を摘み取った後、これをきれいに洗い、乾燥させてから薬として使うために保存しておきます。ズメリアの葉は、下痢や腹部の張り、腹痛といった消化器官の不快な症状を緩和する際に使われ、主に粉末にして水とともに服用されます。
イラン南部の人々はまた、風邪を引いたときにズメリアを煎じて服用し、また外傷の手当ての際に、摘み取ったばかりのズメリアの葉をつぶし、柔らかくして傷口に当てます。学術的な調査からも、ズメリアには消毒、殺菌作用がある事が証明されています。
ズメリアに最も多く含まれる重要な成分は、モノテルペンアルコールの一種であるリナロールです。この成分には、疼痛抑制作用や炎症を抑える効果があることから、様々な医薬品の生産に利用できます。複数の実験の結果からも、この植物がモルヒネへの傾倒を抑制することが証明されています。
ズメリアをはじめとするイランの薬草が自然界に自生していることから、その一部は乱獲や密採の影響により絶滅の危険にさらされています。
ズメリアの生息を脅かす他の要因として、気候の変動や災害が挙げられます。この薬草を保護するため、イラン貿易振興機関は、2017年からズメリアを含む33種類の薬草の輸出を禁止しました。
一方、伝統医学や現代医学におけるズメリアの重要性から、この植物の人工的な栽培や養殖が急務となっています。このため、遺伝的多様性の維持のために植物の種子や苗木を保存するシードバンクの設立により、この植物の絶滅を防ぐための努力がなされています。これに加えて、研究者に対する適切なサービスの提供、薬草の栽培の普及拡大、そしてこの植物の適切な保護管理も、常に重視されています。
次回もどうぞ、お楽しみに。
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