母乳による新生児の栄養
今回は、イスラムの教えから見た、母乳による新生児の栄養についてお話することにいたしましょう。
母乳は、新生児の栄養を確保する上でもっとも優れたものです。母乳には、子どもの成長に必要なミネラルやビタミンが豊富に含まれています。さらに、白血球や酵素、ホルモンや免疫グロブリンも含まれており、これらは子どもの成長を促し、病気から守る上で決定的な役割を果たしています。これらの成分は、摂氏50℃以上になると消滅してしまいます。
イスラムの聖典コーランにおいても、第2章、アル・バガラ章、「雌牛」第233節、第46章、アル・アフガーフ章「砂丘」、第15節、第31章、ログマーン章「ルクマーン」、第65章、アッタラーク章「離婚」、そして第28章、アル・ゲサス章「物語り」第7節の各節で、母親による授乳、授乳の期間、そして母と子の権利が注目されています。
コーラン第2章、アル・バガラ章「雌牛」、第233節には次のように述べられています。
“母親は、乳児に満2年間授乳する。これは授乳を全うしようと望む者の期間である。父親は、彼らの食料や衣服の経費を、公正に負担しなければならない。しかし誰も、その能力以上の負担を強いられることはない。母親はその子のために不当に強いられることはなく、父親もその子のために不当に強いられてはならない。また相続人もそれと同様である。また両人が話し合いで合意の上、早めに離乳をさせても、かれら両人に罪はない。また、あなた方が乳児を乳母に託すよう決定しても、約束したものを公正に支給するならば、あなた方に罪はない。自ら約束した事柄をきちんと履行し、神の責め苦に合わないようにするがよい”
母乳は、乳児のニーズに合わせて時期ごとに成分が変化します。乳児が生まれて間ない時期で、より多くの栄養を必要とする時期には、母乳の成分もその状況に適合したものとなります。
出産の直後に分泌される母乳は初乳と呼ばれ、様々な免疫物質や栄養素がその後の成乳の5倍から10倍も多く含まれています。母乳はまさに、神から与えられるこの世での最初のワクチンに等しいものです。新生児にいきなり人工的なワクチンを摂取させることは、新生児の身体的、精神的な悪影響への懸念から奨励されていません。このため、イスラムは新生児に母乳を与えることを義務付けています。おそらくはこうした理由で、コーラン第28章、アル・ゲサス章、「物語り」第7節に述べられているように、預言者ムーサーの母親はムーサーへの授乳を命じられ、不安がある場合には彼を川に流すよう告げられています。
母乳に含まれている免疫物質は、特殊な要素でもあり、また通常の要素でもありますが、いずれも子どもを各種の病気や弊害から守るはたらきをします。例えば、母乳に含まれる免疫グロブリンは、胃酸に対する抵抗力があり、病原体の成長を阻止します。免疫グロブリン中のアミノ基も、様々な病気への感染の危険から子どもを守ります。
生まれてから6ヶ月間、乳児に母乳を与えることで、呼吸器系の病気に感染する可能性は5分の1に、また、こうした病気による死亡の可能性は4分の1に減少します。また、この時期に母乳を与えられなかった乳児は、下痢を起こす可能性が15倍、それによる死亡の可能性が25倍にはねあがります。
母乳に含まれる栄養素には、他にはない特徴があります。母乳には、カゼインなど消化に時間のかかるたんぱく質よりも、消化されやすいたんぱく質がより多く含まれています。一部のたんぱく質は、脳の発達に効果があり、思春期にこれが不足すると知能指数の低下を引き起こします。人間の体は、一部のこうしたたんぱく質を自ら作り出すことは出来ません。
また、母乳に含まれる脂肪分は、中年期における悪玉コレステロールの増加や高血圧、心臓病の危険などを減らします。さらに、母乳に含まれる糖分は、乳児にとって、もっとも適した単糖類とされ、腸内でのカルシウムの摂取を促すと共に、骨の成長を促進し、便秘を防ぎます。
また、母乳を与えられた乳児が下痢のために入院する期間は、人工栄養児よりも短いことが証明されています。母乳に含まれる鉄分やカルシウムは、牛乳に含まれている鉄分やカルシウムよりもはるかに消化されやすくなっています。
母乳は、乳児が大人になってからも大きな効果を発揮します、専門家の間では、母乳を与えられた子どもは、成人してから糖尿病や食物アレルギー、ガンにかかる可能性が低くなり、より高い知能指数を持ち、肥満になりにくいといわれています。
さらに、初乳を初めとする母乳を与えられた子どもは、病気に対する抵抗力も強く、精神的な安定や自分に対する自信の点でも優れており、環境面でのストレスにもうまく対応できます。
新生児に母乳を与えることは、母親にとっても大きな効果があります。そうした効果としては、子どもが病気に罹りにくくなること、母乳を与えることによる満足感、妊娠中に体内に蓄積した脂肪分の減少、出産後の子宮の回復、乳がんの予防などが挙げられます。
ある実験によれば、一生を通しての授乳期間が平均して1年半というアメリカ・ニューヨークの女性は、平均授乳期間が6年半にも及んだ日本人女性と比べて、乳がんにかかる率が5.5倍も高かったとされています。
情愛に溢れた健康な人々が存在する社会は、より幸福に近づくことになります。母乳は、外的な要素に頼る必要がなく、また安価で完全な栄養を子どもに与えられるものです。しかも、政治や経済、文化的な要因には関係がありません。家庭における母親の位置づけや家族体制の強化は、社会にとって一見見えづらいながらも、非常に価値のある母乳に端を発しているのです。
コーラン第31章ログマーン章、「ルクマーン」第14節によれば、授乳すべき期間は2年間とされています。一部の医師の間では、この授乳期間は9ヶ月とされていますが、1993年には2年間にわたり完全に母乳を与えた方がより好ましい、との提唱がなされています。
今日、ユニセフやWHO世界保健機関といった国際機関の調査によれば、母乳を与える機関は2年間が望ましいとされています。このことは、1990年に出された母乳栄養に関するイノチェンティ宣言でも提唱されており、世界の先進国の多くがこれを批准しています。
コーランが乳児に母乳を与えることや母と子の権利の尊重を指摘していることは、コーランが特に幼少期の栄養に注目していることを物語っています。現在、科学の発展により、母乳が持つ特徴が明らかにされると共に、母乳の秘密が解明されています。母乳に関して現代の学問が解明した事柄が、既にコーランに述べられていることは、コーランの学問上の奇跡、或いは少なくともコーランが提唱する学説といえるものです。