カラスの蛇退治
遠くの森の高い木の上に一羽のカラスが住んでいました。
彼は大きな悲しみを抱えていました。その悲しみは、彼の毎日を、その羽のように暗いものにしていました。カラスの巣の近くに、大きくて見るからに恐ろしい蛇が住んでいました。カラスが卵を産み、雛がかえるたびに、意地悪な蛇は、カラスが餌を探しに巣を離れるすきを狙って、木によじ登り、雛を食べてしまうのです。この悲しみは、カラスをすっかり老け込ませてしまいました。
深い悲しみに沈んでいたある日のこと、カラスは、新しく生まれた雛をくちばしにくわえ、親しい友人の一人であったジャッカルのもとへと連れて行きました。ジャッカルの住処は、カラスの巣の近くにありました。ジャッカルは、カラスの様子を見て心配になり、尋ねました。「どうしたんだ?なにをそんなに落ち込んでいるんだい?」
カラスはさめざめと泣きながらジャッカルにこう訴えました。
「しばらく前から、いじわるで恐ろしい蛇が近くに住み着いている。この蛇は、僕の巣が木の上にあることを知ってから、卵がかえる頃を見計らっては、雛たちを襲って食べてしまうんだ。」
ジャッカルは励ますように言いました。
「それはなんともお気の毒だったね。でも、それなら、打つ手はあるさ。巣を変えればいいじゃないか」。
カラスは答えました。
「そうだ、それしか方法はない。でも、巣を変える前に、この意地悪な蛇から、子供たちの仇をとってやりたい。彼と戦ってやる。僕が死ぬか、あいつを殺すかのどちらかだ」
ジャッカルは諭すように言いました。
「君の気持はよくわかる。でもそれは賢い選択じゃないな。だって、頭に血が上っているときに下した決断だもの。結果は火を見るよりも明らかだ。頭を使わなくちゃ。力じゃ蛇には叶わないよ。蛇は君を簡単に打ち負かしてしまうだろう。君自身が命を落としてしまうだけで、子供たちの仇だって取ることはできないだろう」
カラスはジャッカルの言葉に、頷きながら言いました。
「君の言う通りだ。では、どうしたらいいだろう?」
ジャッカルはしばらくの間考えを巡らせていましたが、そのうち名案を思い付いて、その策をカラスに授けました。カラスはジャッカルから教えられた作戦に大いに満足しました。そして、連れてきた雛をジャッカルのもとに預け、彼らに別れを告げて飛び去って行きました。
カラスは自分が暮らす森から、村へとやって来ました。そして、一軒の家の庭に女の人がいるのを見つけました。女性は池の傍らで洗濯をしていて、きらきら光る金の指輪を池の縁に置いていました。カラスはこの家の屋根にとまって、その指輪を取る機会をうかがっていました。女性は洗濯を終えると、次の作業に取り掛かりました。女性が池から離れたのを見たカラスは素早く飛び立って、指輪をくちばしにくわえると、女性を誘うようにゆっくりと森に向かって飛行を始めました。驚いたのは女性でした。彼女の大きな叫び声を聞いて人々が集まってきました。
カラスが指輪を盗むなんて!男たちは手に手に木の棒をつかんで、カラスのあとを追いかけました。カラスはゆっくりと飛びながら、蛇の巣の近くへ男たちを誘導してきました。彼はジャッカルが知恵を授けてくれた通り、蛇の住む穴のすぐそばまで来ると、指輪を地面に落としました。指輪はちょうど蛇の住む穴の前に落ちました。
蛇は、空から何かが落ちてきた音に、いったい何だろうと穴から這い出てくると、指輪を見つけて、そちらへ近づいていきました。男たちが到着したのはちょうどそのときでした。彼らは指輪のそばに大きな蛇がいるのを見つけ、指輪を飲み込まれては大変とばかりに木の棒で蛇を叩き始めました。そしてとうとう一人が、大きな石で意地悪な蛇を打ち殺してしまったのです。
木の上で成り行きを見守っていたカラスは、蛇がもう二度と彼の雛を脅かすことができなくなったのを知りました。カラスは大きく羽を広げ、ジャッカルと雛が待つねぐらへと向かいました。ジャッカルに厚い感謝の言葉を伝え、そして雛を巣に連れて帰るために。