コーラン、第18章アル・キャアフ章洞窟(1)
今回は第18章アル・キャアフ章洞窟を見ていくことにいたしましょう。
慈悲深く、慈愛あまねき神の御名において
さっそく、第9節をお聞きください。
「汝は、洞窟の教友たちとその碑文のことは、我々の驚くべきしるしだったと考えているのか?」
アル・キャアフ章は全部で110節あり、第28節を除く全ての節は、メッカで下されました。この章は、コーランの興味深い章のひとつです。この章では、神が称賛され、現世での生活と人間への試練が描かれると共に、唯一神の信仰と抵抗の精神を掻き立てるような、興味深い3つの物語が語られています。その3つとは、洞窟の教友たち、ムーサーとヘズル、そしてズルカルナインの物語です。
アル・キャアフ章の第7節で、神は次のように語っています。「我々は地上にあるものを飾り、見る者を魅了するような華やかな世界を創造した。それは、様々な動機を人間の心の中に生じさせ、そのような動機と華やかな輝きとの葛藤の中で人間を試し、それによって人間に、自らの美徳と精神性、意志の力、信仰の力を示させるためである」
実際、現世での生活は、この神の試練の場において、現世の表面的な美しさに欺かれ、それに心を奪われる代わりに、来世のための善い行いについて考えるようにという、全ての人々への警告です。現世は多くの美しさに溢れてはいるものの、永遠に続くわけではありません。最後には消滅するのです。
クライシュ族の首長たちは、イスラムの預言者ムハンマドの導きについて調査させるため、メディナのユダヤ教徒の学者たちの許に、仲間の2人を送りました。以前の啓典に、それについて何が書かれているかどうかを見るためです。彼らはメディナにやって来て、この町のユダヤ教徒の学者たちに会いに行きました。ユダヤ教徒の学者たちは言いました。「あなた方は3つの問題についてムハンマドに尋ねなさい。もし全ての問題について十分な答えを得たのなら、彼は神から遣わされた偉大な預言者である。しかし、もしそうでなければ、彼は偽者であり、あなた方は彼に関して、どんな決定でも下すことができる。3つの質問とは、まず、かつて民のもとから離れた若者たちの物語について、次に、地上を旅し、世界の東と西に達した人物の物語について、そして最後に、魂の真実についてである」
クライシュ族の使者たちは預言者ムハンマドのもとにやって来て、それらの質問を投げかけました。預言者ムハンマドは言いました。「明日、あなたたちにその答えを与えよう」 しかし、それから15日後に預言者ムハンマドのもとに啓示が下りました。神から、アル・キャアフ章がもたらされたのです。そこには、若者たちと世界を旅した男の物語、そして魂に関する節がありました。
アル・キャアフ章の節は、当時のイスラム教徒が強く必要としていた重要な事柄に触れています。それは、正当な少数派が、表面的には強いが、不当で堕落した多数派に対して屈し、腐敗した環境に埋もれてはならず、わずかな数の洞窟の教友たちのように、そのような堕落した環境から自分たちのことを切り離して考える必要がある、ということです。そして、もし力があるのなら、それに対抗して忍耐力を示すべきであり、もしそうでないのなら、移住しなさいと述べています。ところで、洞窟の教友たちとは、どのような人々だったのでしょうか? コーランは彼らの物語を次のように述べています。
アル・キャアフ章の第13節から16節には、次のようにあります。
「我々は、彼らの物語を汝のために正しく語る。彼らは、自分たちの主を信じる若者たちであった。そして我々は彼らへの導きを増やした。彼らは立ち上がって言った。『私たちの神は、天と地の主である。私たちが神以外のものに祈ることはない。もしそうしたら、不当なことを口にすることになる。私たちの民は、神以外に別の神々を立てた。なぜ彼らは、明らかな証拠を示さないのか?神に対して偽りを述べる以上に不義な人物がいるだろうか?』 [我々は言った。]あなた方は、多神教徒たち、そして神以外のものを崇拝する人たちから離れ、洞窟に逃げ込みなさい。そのときあなた方のために、神から慈悲が広げられ、安らぎが与えられる」
若者たちは、洞窟の中に入ると眠りに落ちました。コーランはこの物語を次のように続けています。
「汝は太陽が日の出の際に洞窟の右側に傾き、日の入りの際には彼らを過ぎて左側に傾くのを見ただろう。彼らは洞窟の中の広い場所にいた。汝は彼らが起きていると思っていただろう。だが彼らは眠りの中にあり、我々が彼らを左右に寝返らせ、彼らの犬が足を洞窟の入り口に向けて伸ばしていた」
コーランでは309年とも言われている長い年月が過ぎ、敬虔な男たちは再び目を覚ましました。彼らは1日か、あるいは昼間のうちの半分くらいの時間、眠っていただけだと思いました。その後、一人が知らない人のふりをして町に行き、銀貨を持って、清らかな食事を買って持ち帰ることになりました。彼らは言いました。「あなたが誰だか気づかれないように気をつけなさい。もし彼らが私たちの状況に気づいてしまったら、私たちは自分の宗教を捨てることを余儀なくされるか、あるいは殺されてしまうでしょう」
この男は町に入っていきました。しかし、町の様子はすっかり変わっており、人々は知らない人ばかりで、彼らの言葉すら、ほとんど分かりません。町の人々は、男に向かって、「あなたは誰ですか?どこから来たのですか?」と声をかけてきました。こうして、彼は自分の秘密を打ち明けました。
神を信仰するその町の王様は、側近たちと共に、その男の案内によって洞窟に向かいました。洞窟の入り口に到着したとき、神は彼らを驚かせ、男以外は誰一人、洞窟の中に入る勇気を持ちませんでした。男が洞窟の中に入っていくと、そこにいた人々は恐怖に震えていました。なぜなら、洞窟にやって来た人々を、偶像崇拝者であった昔の圧政的な皇帝、デキウスの仲間たちだと考えたからです。しかし、洞窟にいた人々は、自分たちが永い眠りについていたことを知り、神は彼らを、人々への教訓のためのしるしにしたと伝えられます。洞窟にいた人々は、心から喜び、涙を流しました。しかし、洞窟の教友たちは、目覚めたあと、それほど長くは生きず、この奇跡を知った後、神に対し、以前の状態に戻して欲しいと頼みました。アル・キャアフ章の第21節には次のようにあります。
「このようにして、我々は人々にその男たちの状態を理解させた。それは神の約束が真理であり、最後の審判の到来に疑いがないことを分からせるためである。彼らがそれについて互いに言い争ったとき、一部の人たちは言った。『そこに記念碑を建てよう。神は彼らの状態をよりよく知っておられる』 だが彼らのことを知った人たちは言った。『私たちは彼らの傍らに、礼拝所、マスジェドを建設する』」
アル・キャハフ章はこの後、預言者が、高慢で尊大な貴族や敵たちから、貧しい敬虔な人々を遠ざけるようにと圧力をかけられていた事実に触れています。神は、このような圧力に耐え忍び、決して彼らに屈してはならないと命じています。この章の第28節は、人間の価値の基準は、富や権力、地位にはないこと、真理の道を歩む上では、大臣も羊飼いも同じ位置にいることを述べています。そして預言者に対し、朝に夕に自分たちの主を呼び、神の清らかな性質のみを求める人々と共にいるようにと命じています。
安らかな暮らしを送り、堕落し、浪費に浸っている人々がいる一方で、最低限の生活をも送れない人々がいるような社会は、健全な社会とは言えません。なぜなら、イスラムは不公平や差別を受け入れていないからです。そのため預言者は、弱い階層の人々を重視し、貴族を脇に追いやることで、唯一神を信仰する社会を作りました。そして、そこに埋もれている能力を発揮させ、そこでの人格や価値の基準は、人間としての才能、敬虔さ、知識、信仰心、神の道における戦い、善い行いだったのです。