コーラン第105章アル・フィール章象
今回は、コーラン第105章アル・フィール章象についてお話しましょう。
慈悲深く、慈愛あまねき、神の御名において
アル・フィール章はメッカで下され、全部で5節となっています。
アル・フィール章は、あるひとつの歴史的に重要な出来事に言及しています。その驚くべき出来事の中で、神は、イエメンからやって来ていた象の群れの悪から、カアバ神殿を守りました。この物語が出てきたことは、高慢で頑なな不信心者に対する警告であり、彼らは神の力に対しては無力であり、非常に些細な存在であることを覚えておくべきなのです。
アル・フィール章の第1節から5節までを見てみましょう。
「汝は見なかったのか。汝の主が象に乗った人々をどのように扱われたかを。彼らの陰謀は台無しにされなかったか? そして彼らの頭上に鳥の集団を送り、彼らの頭に、固い泥でできた塊を投げつけた。その後、彼らを噛み砕かれた藁くずのように散らばせた」
イエメンの統治者であったズノワスは、イエメンの近くに暮らしていたナジュランのキリスト教徒を迫害し、彼らに信仰を捨てさせようとしたのです。この中で、ダウスという名の男性は無事に助かり、キリスト教を信仰していたローマのカエサル2世のもとに逃げ込みます。そこで全ての出来事を彼に語って聞かせました。カエサル2世は、エチオピアの王であるナジャーシーに書簡を送り、ナジュランのキリスト教徒の無念を晴らし、ズノワスに報復しようとするのです。
ナジャーシー王は、アリヤートという人物を司令官とする7000人の大きな軍隊をイエメンに送りました。司令官アブラハもこの軍隊を率いる一人でした。ズノワスは敗北を喫し、アリヤートがイエメンの支配者になりました。しばらく後、アブラハがアリヤートに対して立ち上がり、彼を亡き者にし、自分が支配者となりました。そのことがナジャーシー王に知らされました。ナジャーシー王は、アブラハを倒そうと決意しましたが、アブラハはすぐにナジャーシー王への忠誠を誓いました。王は彼を許し、そのままイエメンの支配者でいることを認めました。
このとき、アブラハは自分の誠意を示すため、イエメンに美しく重要な教会を建てました。この教会はその時代において類を見ないものでした。それに続き、彼はアラビア半島の人々をカアバ神殿ではなく、この教会に招き、そこをアラブ人のメッカ巡礼の中心地として、人々にそこを巡礼させようとしました。そのため、アラブの民族の間やヒジャーズの地に、多くの伝道者を送りました。
それにも拘わらず、アブラハは人々の注目をカアバ神殿から教会へと惹きつけることができませんでした。そこで、カアバ神殿を完全に破壊してしまおうと考えました。象に乗った大きな軍勢と共にアブラハはメッカに向かいました。メッカの近くに到着したとき、多くの人を送り込んで、メッカの人々の財産やラクダを強奪させました。この中で、預言者ムハンマドの祖父だったアブドルモタッレブの200頭のラクダが強奪されたのです。
アブラハは、メッカの有力者を自分のもとに連れてこさせるため、メッカの内部に人を送りました。誰もがそれはアブドルモタッレブだと言いました。そして、その人物がアブラハの許に連れて来られました。アブドルモタッレブがアブラハの前に現れると、アブラハは思わず、敬意を表して立ち上がりました。それほど印象深い人物だったのです。アブラハは彼に、何か言いたいことがあるかと尋ねました。アブドルモタッレブは言いました。「200頭のラクダが強奪されました。それを返すよう命じてください」
アブラハは驚いて言いました。「あなたに会った瞬間、あなたの偉大さに感銘を受けました。しかし、あなたの今の言葉のせいで、偉大さは失われてしまいました。あなたは200頭のラクダについて語っていますが、あなたとあなたの祖先の宗教に関係し、私が破壊しようとしているカアバ神殿については、なぜ何も言わないのですか?」
アブドルモタッレブは言いました。「ラクダは私のものですが、カアバ神殿は私のものではなく、それを守る所有者がいます」 この言葉を聞き、アブラハは衝撃を受けて考えに沈みこみました。アブドルモタッレブはメッカに戻り、人々に周辺の山に避難するよう伝えると共に、自分は何人かと一緒にカアバ神殿の傍らにやって来て、神に助けを求めました。
アブラハは象に乗り、カアバ神殿を破壊するために、大勢の兵士たちと共にメッカになだれこみました。ちょうどそのとき、海の方から鳥の集団がやって来ました。鳥たちはそれぞれ、3個の小さな石を携帯していました。ひとつはくちばしで加え、あとの二つは足でつかんでいました。鳥たちはその小石を雨のように軍勢の頭上から落としました。小石の雨により、アブラハの軍勢は粉々になった藁のように地面に倒れ、消滅しました。小石はアブラハにも当たり、彼も負傷しました。彼はイエメンに戻り、そこで亡くなりました。
この教訓に満ちた重要な出来事は、西暦570年に起こりました。イスラムの預言者ムハンマドはこの年に生まれたと言われています。この出来事により、その年は、「象の年」と名づけられました。
アル・フィール章は、軍勢や軍備の点で、どれほど数が多く完全であろうとも、神の無限の力の前には無力であることを警告しています。興味深いのは、敵たちが、その時代の最も優れた軍備である象を利用していたにも拘わらず、神は小さな鳥たちと小石によって、力に酔いしれた兵士たちを消滅させたということです。