8月 26, 2018 21:14 Asia/Tokyo
  • 猫とネズミ
    猫とネズミ

昔々、ある食料品店にネズミたちが巣を作っていました。

昔々、ある食料品店にネズミたちが巣を作っていました。

夜になって、店の主人が家に帰ってしまうと、ネズミたちは、店の中でやりたい放題に振舞っていました。チーズの袋をあさる者もいれば、油の入れ物を襲う者もいました。米や豆の入った袋に穴を開け、それを巣に持ち帰るネズミもいれば、満腹になるまでクルミやアーモンドを食べるネズミもいました。哀れな店の主人は、ネズミ捕りを仕掛けたり、毒団子をまいたりと手を尽くしましたが、全く効果はなく、2匹が死んでも、すぐに4匹が生まれる、といった具合でした。

 

同じようにネズミに悩まされている同業者たちの勧めで、店の主人は太った猫を連れてきて、店番をさせることにしました。毎日猫は、肉やチーズ、バターを塗ったパンを食べ、店の前でうたた寝をし、夜になると、鋭い目を光らせてネズミを追いかけました。猫の登場によって、ネズミはこれまでのように、店の食べ物に近づけなくなってしまったのです。

 

猫は毎日、十分な食事を与えられ、ゆっくりと休むこともできるので、主人に満足していましたし、主人もまた、ネズミの略奪行為を防いでくれるので、猫に満足していました。しかし、そのうち、猫がうたた寝をしている隙を狙っては、袋の端をかじって食料を盗んでいくネズミが現れるようになりました。店の主人は、猫にもっと働いてもらおうと、日中、猫に与えるえさを減らし、夜までに腹を空かせて、もっとたくさんのネズミを捕るように仕向けました。

 

この主人の思いつきは、最初のうちはうまくいっていました。太っていた猫はだんだんやせていき、それを補うために夜になると多くのネズミを捕るようになりました。ネズミの被害もパタリとやみました。しかし猫は、昔のように喜んでも、満足してもいませんでした。猫はネズミも良いけれど、同時にチーズやバター、肉も口にしたかったのです。猫は自分が日々、やせ細っていくのに、主人が自分のことをまったく気にかけてくれないと不満を募らせるようになりました。

 

主人と猫の様子をつぶさに観察していたネズミたちは、知恵を出し合って、ある計画を立てました。一匹のすばしこくて賢いネズミが選ばれてその計画を実行に移すことになったのです。夜がやってきました。このネズミは、米や豆、チーズが入った袋の間から顔をのぞかせて、猫に話しかけました。

「ねぇ、僕を襲う前に、ほんの少しだけ、一分で構わない。僕の話を聞いてくれないか。これは君のためにもなる話だと思うよ」

 

猫は、突然ネズミから話しかけられ、驚きました。とっさにネズミをつかまえようとしたもののネズミの話とやらを聞いてみよう、と思い直したのです。猫は言いました。

「よし、話を聞こうじゃないか」。

ネズミは言いました。

「君がこの店に来てから、僕たちの状況は最悪だ。このままではみんな、飢え死にしてしまう」

猫はそこでネズミの言葉をさえぎって言いました。

「それ以外のことを望んでいたとでも言うのかい?僕は猫で君たちはネズミ。僕たちの運命は実にはっきりしている」

ネズミは答えました。

「その通り。でもちょっと頭を使ってみるのも悪くないと思うよ。店の主人は人間で、僕たちは動物。ひょっとしたら、動物同士、お互いにうまくやることもできると思うけど」

 

猫は、ネズミが自分をあなどっているのか、と不愉快になって思わず立ち上がりました。ネズミはすばやく袋の陰に隠れ、顔だけのぞかせて続けました。

「もう少し僕の話を聞いてくれ。この2、3週間、主人はほんの少ししか君に食べ物をくれなかったじゃないか。もう何日かしたら、君は僕たちを捕まえる力さえも無くしてしまうかもしれないよ」

猫はネズミの言い分にも一理あると考えました。

「で、何が言いたいんだ?」。

 

脈があると見たネズミは話を続けました。

「君だって、店の食べ物をもらいたいと思っているんだろう?例えば、君はチーズやバターをしばらく口にしていないよね。もし僕たちネズミがよそへ移ってしまったら、君は飢え死にしてしまうよ。そこで提案なんだけど、毎晩、僕たちが食べ物を頂戴して巣に持っていくまで、30分だけ寝たふりをしてくれないか。そうしたら、君の好きなものを何でも、どこかその辺のすみっこに置いておくよ」

 

「この提案は悪くない、今夜一晩だけでも試してみるか」と猫は思いました。

そこでネズミに言いました。

「君が望もうと望むまいと、僕は今夜は疲れていて、眠りたかったところだ。君たちもしたいようにするがいい」。

 

猫が自分の提案に同意したのを確信したネズミは巣に戻ってそのことを仲間に伝えました。その夜、ネズミたちは久しぶりに、食べたいだけ食べ、好きなだけ巣に持ち帰り、そして猫のために取り置くことも忘れませんでした。それからというもの、夜になると猫とネズミたちの計画は注意深く実行されました。彼らはどちらも、大いに満足していました。しかし可哀想なのは店の主人です。彼は猫とネズミが仕組んだ計画の代償を支払っていることにしばらくは気が付きませんでした。

 

このように、2つの敵が互いの利益のために手を組み、その共謀によって別の人が損害を蒙るようなとき、こんな風に言うようになりました。

 

「猫とネズミが手を組んで、さあ、店の主人は大変だ!」