4月 23, 2016 20:57 Asia/Tokyo
  • 飲料水の汚染
    飲料水の汚染

今回は、現代の世界の大きな問題の1つである、飲料水の汚染についてお話しすることにいたしましょう。

人間により破壊された「天然の浄水システム」

環境学者の間では、水質汚染とは水の質や構成が乱れることにより、自然界における重要な役割を果たせなくなり、その被害の度合いからして水資源として使用できない状態に陥り、水の経済的な価値が大幅に失われることを意味します。しかし、自然界が持つ驚異的な力の1つは、土壌がこうした汚染の多くを浄化できるということです。

環境学者は様々な研究調査により、地表面の驚くべき存在、即ち地層が分解者としてのバクテリアや微生物による規則的なサイクルとともに、最も精巧なリサイクル・浄化システムを地球にもたらしていることを突き止めています。こうしたメカニズムにより、過去数百年にわたって、天然の下水は様々な地層を通り抜けた後、地下水を含む層に到達すると、透明で健全な水に生まれ変わっています。このパターンに従い、地球は数百年にわたり、その偉大な営みによって汚染から人間を遠ざけてきました。しかし、私たち人間は自らの誤った行動により、世界で最も大きく、効果的な浄水システムを破壊し、現代世界の最大の課題の1つである水質汚染の問題を引き起こしてしまったのです。工業排水や家庭廃棄物、さらには家畜のし尿や産業・化学廃棄物は、最終的に河川や湖沼、海洋に流されており、飲料水を汚染する最大の要因となっています。

数々の調査からは、現在特に人口が集中する大都市において、地下水を含む帯水層が多大な問題を抱えています。産業排水の流出、生活排水が溜まる溝の存在(汲み取り式のトイレの使用)、化学物質を含んだ洗剤や漂白剤の過剰な使用、地面の奥深くにまで有機質肥料や化学肥料が浸透することなどが、地下水源の汚染の原因です。

河川や湖の水、さらに氷雪が溶解してできた水も、産業汚染物質を大量に含んでいます。これらの汚染物質は水中に溶け込んでおり、除去するにはナノフィルター(逆浸透膜)のような複雑で費用のかかるろ過技術が必要です。しかし、発展途上国を含めたいずれの国においても、このような技術は大量の水を浄化するには極めて不経済です。このため、現在各国は塩素を用いた浄化により、最低でも清潔な水を確保しようとするのみに留まっています。一方で、水中に解けている汚染物質の問題は今なお根強く残っています。

 

世界で人々の健康や生命を脅かす水質汚染

国連開発計画は、淡水の利用は基本的な権利、かつ各国の国民の平和に欠かせないものであるとしています。2001年、当時の国連のアナン事務総長は安全な水の利用は基本的なニーズ、および自明の権利であるとし、汚染された水により人々の身体的、社会的な健康が脅かされるとして、これを人間としての尊厳への侮辱であるとしています。

複数の資料によれば、現在全世界における最も重要な死亡原因の1つは、水質汚染とされており、1日におよそ1万4000人が水質汚染により死亡しています。飲料水の汚染やそれによる疾病により、毎年500万人以上の人々の命が失われています。統計データによりますと、現時点で世界の総人口のうち10億人以上が安全な飲料水を得られない状態にあり、毎年およそ20億人が飲料水の汚染と関係のある疾病に罹患している、ということです。また、全世界で1日当たりおよそ5000人の子供が、汚染された水を利用したために命を落としています。なお、水源を汚染している最大の国は中国で、アメリカがこれに続いています。

複数の統計によりますと、インドでは7億人が衛生的なトイレを使えず水質汚濁の問題が発生しており、1日に1000人の子供が下痢や嘔吐により死亡しています。また、中国の都市のおよそ90%が水質汚染に苦しんでおり、およそ5億人が清潔な飲料水が得られないとされています。WHO・世界保健機関は、世界における死亡者の6%、そして10種類の疾病のうち1つは、不衛生な水が原因であるとしています。腸チフスやマルタ熱は、不衛生な水の利用により起こる代表的な疾病であり、脳や神経システム、目などの人体の最も重要な部位を冒します。この報告ではまた、先進国では水質を原因とする死亡理恵は1%に満たない一方で、発展途上国ではこの割合は12%から23%に及ぶとされています。

 

汚染の元凶としての硝酸塩

産業都市で最も普通に見られ、人間や自然環境に甚大な被害を及ぼしている汚染原因の1つは、大気中の硝酸塩の濃度の増加です。特に人口の多い都市で旧式の浄水システムが採用されていたり、近代的な浄水システムがないこと、地下の帯水層にまで産業排水や廃棄物が流出していること、硝酸塩を含む化学肥料が土壌深くに浸透していることから、帯水層に含まれる硝酸塩の濃度が上昇します。このため、降水量が少なく乾燥した熱帯地域の国々では、都市の飲料水の80%から95%が帯水層や井戸から調達されており、そうした水に含まれる硝酸塩の濃度は許容範囲を超えています。

専門家の見解では、地表面であれ地中であれ、硝酸塩はエコシステムに好ましくない影響をもたらします。実際に、土壌や水中における硝酸塩の増加は、人間や動植物の健康に悪影響をもたらします。硝酸塩は、人間の体の細胞に酸素を送り込むプロセスに支障をきたし、特に子供や妊娠中の女性に取り返しのつかない影響を及ぼします。さらに、ガンへの罹患率を高め、特に抵抗力の弱い乳児の体内での血流を妨害します。硝酸塩は、水中に溶けている汚染物質の1つであり、それは通常のろ過装置や塩酸ではろ過できません。

 

パレスチナ・ガザ地区での硝酸塩による水質汚濁

現在、硝酸塩による水質汚染に苦しむ地域のひとつは、パレスチナのガザ地区です。パレスチナとドイツの研究者のグループは共同調査を行った結果、この事実を確認しました。この研究調査によりますと、ガザ地区の水源から採取されたサンプルの90%は、許容範囲とされる量の2倍から8倍の硝酸塩を含んでいたということです。これらのサンプルは全て、ガザ地区内の地下水から採取されたもので、この地区の住民の見解では、この地区の飲料水のほとんどは、地下の帯水層から調達されるということです。

この調査では、ガザ地区で生まれた640人の新生児に対しても、硝酸塩中毒に関する検査が行われており、残念ながらこれらの新生児の半数がこの疾病に罹患していました。専門家によれば、この疾病の主な原因は農業における有機質肥料の使用とされています。ガザ地区はエジプト、被占領地パレスチナ、地中海に囲まれており、人口密度は1平方キロメートル当たり2600人です。しかし、生活条件が厳しいため、この地区の人々は生活上のニーズを近代的でない旧式の方法で満たさなければならず、このことがこの地区の水質汚染を招いています。現在、ガザ地区の農業用地の75%は、鶏や牛のし尿により作られた肥料が利用されており、これがガザ地区の水の汚染の原因になっています。2001年から2007年までの間に、ガザ地区にある165の井戸の水に対するサンプル調査が行われましたが、その結果152の事例において硝酸塩の濃度が許容量を上回っていたことが判明しました。

 

ヨーロッパでの硝酸塩による水質汚濁

飲料水の汚染は、発展途上国のみに限られず、多くの先進工業国もこの問題に直面しています。EU圏では、15カ国が自国内で硝酸塩による地下水の汚染が見られると報告しています。その原因の多くは化学肥料の使いすぎとされ、このために郡部にある小規模の井戸水の汚染が報告されています。例えば、ベルギー国内にある5000の井戸の29%は、1リットル当たり50ミリグラム以上の硝酸塩が含まれていました。さらに、ハンガリーやスロバキアなどのヨーロッパ中部や東部においても、地下水は硝酸塩や微生物により汚染されています。EU議会環境委員会は、一部の改革措置によりEU圏内での地下水中の硝酸塩の濃度は、2004年以来上昇しておらず、多くの地域では低下していると発表していますが、それでも硝酸塩による水質汚染は今なお残っています。

 

自然環境、特に水資源の復元には綿密な監督と資源の管理が必要であり、環境の除染に加えて、天然のリサイクル循環が始まるまで、自然界に葉ある程度の時間が必要です。しかし、欲深な現代人たちは果たして自然界にそのような猶予を与えられるでしょうか?