6月 10, 2022 04:51 Asia/Tokyo

今回ご紹介するのは、イラン南東部ケルマーン州にある奇岩の村、メイマンドです。この村は、2005年、文化的、歴史的な自然の遺跡として、世界で7つ目のメリナ・メルクール賞を受賞しています。この賞については、後程お話します。

●奇岩の村、メイマンド

 

メイマンド村は、ケルマーン州の郊外、シャフレバーバク行政区の東、26キロのところにあり、古代の最も壮大な人類の定住地とされています。この村は、少なくとも3000年の歴史を有し、現在も昔の生活習慣が見られる、世界でも数少ない村のひとつで、現代の、人間と自然の共存を目にすることができます。メイマンドの歴史的な村には、世界でも数少ない奇岩建築が見られ、この建築は、村のすべての建物において、幅広く使われています。奇岩建築の例は、他国でも見られますが、メイマンドほどの文化的、歴史的な魅力を有したものはありません。もちろん、以前、ご紹介したキャンドヴァ―ン村も、岩の建物に人が住んでいるという点で、メイマンドと同様です。言い換えれば、イランのこの2つの村は、未だに昔の構造や生活がそのまま残されており、これは、当時の文化が、今日の生活に引き継がれている、ということを意味しています。

メイマンドは、山の中に、374世帯の岩の住居が集まるという、独自の建築を有しています。この村の人々は、遊牧民のような生活をしており、一年に3度、移住しますが、このことが、この村への関心を高める要素のひとつとなっています。メイマンド村の住居は、山の中腹の、高度2200メートルのところにあり、現代建築の資材は、一切使われていません。実際、数千年前に、山の中心に掘られた住居を、そのまま使用しています。メイマンドのすばらしさは、この村の古い家々が、山の中の洞窟のように掘られているのを目にしたときに分かるでしょう。山は、石が堆積し、非常に硬く、そこに掘られた部屋は、非常に頑丈なものとなっています。当時の道具を考慮すると、これは非常に大変な作業であり、この村独自の建築は、この地を訪れた観光客を魅了するものとなっています。この歴史的な村の住民は、住居が建てられてから数千年が経過するにも拘わらず、窓も換気口もない穴の中での生活を続けているのです。

メイマンド村は、機械を使うことなく、手で掘られた家の集落であり、そこには、2000以上の部屋、モスク、殉教儀式を行う集会所・ホセイニーエ、公衆浴場、学校などがあります。これらはすべて、山の中心に、人の手によって掘られたものです。メイマンド周辺の自然もまた、素晴らしい景観を作り出しています。ここでは、多くの孔を持つ自然の岩が見られます。メイマンド村の住民は、独自の慣習を持ち、彼らの話す言語、方言の中には、いまだに、サーサーン朝時代の古代ペルシャ語の単語が残っています。さらに、病気の治療に薬草が使われたり、伝統料理が食べられたりしています。治療法や食事の伝統が残っているのは、この村の住民が、都市の住民と接する機会が非常に少なく、その影響を受けていないためです。この村には、健康で元気なお年寄りも見られます。これは恐らく、伝統的な地元の料理を食べ、美しい自然の中で生活しているためでしょう。彼らの料理のひとつに、『スィーロバンド』というものがあります。バンドとは、この地域で豊富に見られる野生のピスタチオで、このピスタチオを粉々に砕き、そこから取れる油を使って調理されます。

 

●メイマンドの人々の生活

 

メイマンドの住民は、1年の間に3つの場所で生活します。メイマンドで4ヶ月を過ごした後、次の4ヶ月は放牧地で牧畜を行い、残りの4ヶ月は、果樹園で園芸を行います。この村と、村の人々の特殊性は、メイマンドの住居の集中と、彼らの生活様式の多様性にあります。メイマンド村は、その昔、広大なピスタチオとアーモンドの林に覆われていました。現在は、村のはずれに、桑の木が見られます。メイマンドの平原には、蛇、とかげ、はりねずみ、亀といった砂漠の生き物が見られます。さらに、山岳地帯には、鹿、ひょう、狼、キツネ、やぎ、野鳥などの野生動物が生息しています。メイマンドの周辺にある雨季にできる季節の川、カナートと呼ばれる地下水路、そして泉は、この地域で農業が繁栄する要因となっています。

 

●メイマンドの自然と人々の住居

 

メイマンドの農業は、ここにある自然と同様、この村の魅力を増しています。メイマンドが最も美しい姿を見せるのは、春です。メイマンドの平原の新緑、心地よい気候に、周辺の町や村から、多くの人々がメイマンドを訪れ、この村の泉や川の流れを見ながら、ゆっくりとしたひと時を過ごします。実際、メイマンドは、人工的に掘られた岩の家が集まった村落ですが、住民は、遊牧民がほとんどで、春と夏を、この村周辺の緑豊かな渓谷で過ごします。村の人々が夏を過ごす家は、『キャパル』と呼ばれ、木材でできています。キャパルは、夏、非常に涼しい住みかとなります。そして、この建築の一方で、『ギャンベ』と呼ばれる住居もあります。ギャンベは、円筒形の石垣の壁で、円錐形になった天上は木でできており、この天上の上は、土や泥で覆われています。ギャンベは、キャパルよりも暖かくなっています。キャパルは、メイマンド村の住居の周りに散在しています。また、村の人々の中には、パラースと呼ばれる、白い色の天幕を利用する人もいます。

 

●メイマンド村の建築

 

さて、メイマンド村の建築は、そのシンプルさが魅力ですが、特にモスクの建築は、独特の特徴を有しています。メイマンドのモスクの建物の歴史は、現存する資料から、19世紀に遡るとされており、メイマンドの他の建物と同じように、山の真ん中に掘られ、住居を改造して作られました。このモスクは、村にある建物の中では、最も新しく、これまで、内部で火が使われたことがないため、唯一、もとの白い色のまま残っています。メイマンドの石膏は、モスクの壁や天井に、その作業の跡を色濃く残しており、岩を削って壁棚や聖壇・メフラーブ、説教壇・メンバルを作りました。このモスクは、面積およそ120平方メートルで、いびつな球形をしており、幅1.5メートルの廊下を抜けると、中庭に出ます。モスクの天上は、高さ2メートルの3本の石柱の上にあり、メフラーブは岩を削って作られ、その高さはおよそ1メートルとなっています。また、モスクの床は、通常の建物に使われる木材やセラミックなどは一切なく、岩の上に直接、手織りの絨毯が敷かれています。メイマンドのモスクには、光を取り込む穴などが一切なく、唯一、モスクの入り口から光を取り入れています。

 

●メイマンド村の観光

 

メイマンド村の多様性や魅力を理解するには、この村を実際に目にすることです。この村を目にした外国人観光客からは、驚きの声が上がっています。メイマンド村には、観光客を受け入れる宿泊施設が1軒あり、部屋は5つで、山の中の、洞窟のような形をしています。またこの部屋には、村の人々が生活に使う道具が一式揃えられています。メイマンドの家のひとつは、伝統料理のレストランとなっていて、完全に昔からの方法が用いられ、自然の素材、歴史的な建築様式が使われています。

メイマンド村は、現在でも、昔ながらの空間を維持し続けていることから、ユネスコのメリナ・メルクール賞を受賞しています。この賞は、ギリシャの文化大臣、女優であり、景観保護と持続的開発の分野での先駆者であるメリナ・メルクールの名を取ってつけられ、ギリシャ政府から、ユネスコなど、国際文化機関の協力を得て、独自の文化、自然を有する史跡に対して送られるものです。今後、メイマンド村の世界遺産への登録が期待されています。

 


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