視点;国際情勢専門家・ミールターヘル
キング牧師演説から60年 語った「夢」いまだ実現せず
キング牧師が主導した米公民権運動であるワシントン大行進から60年を迎えました。人権活動家らは、キング牧師が語った「夢」がいまだ実現していないことについて警告しています。
1963年8月28日、自由と平等を求めた人々がワシントン市内で大行進を行いました。この行進でキング牧師は、「私には夢がある。私の4人の子ども達がある日、肌の色ではなく人物の内容によって判断される国に住む夢だ」などと演説したことは、今日まで語り継がれています。
この行進はアメリカ社会に大きな影響を与え、翌年の公民権法成立に結びつきました。また、1965年には同じくキング牧師が企画したアラバマ州セルマからモントゴメリーまでの行進が行われ、これも同年の投票権法成立のきっかけとなりました。
キング牧師の子孫は26日に開かれた集会で、米国の将来について、「我々はこの国の行く末を案じている。本来なら前に進むべきところを、後退しているのではないかと感じている。我々は将来何をするのだろうか?」と語りました。
また、「60年前、キング牧師は我々に、人種差別、貧困、偏見の三大悪と闘うよう求めた。しかし今日、我々はいまだに人種差別を抱えている。いまだに貧困を抱えている。宗教施設や学校などでは銃による暴力が起きている」と語りました。
キング牧師はバプテスト教会のキリスト教徒で、1955年から暗殺されるまでの1968年にかけて公民権運動に従事し、米国の有色人種の中で最も有名な演説家・人権活動家でした。彼は、自らの信仰やインドのガンジーから着想を得た非暴力主義にもとづく運動により、有色人種の権利を向上させることに成功しました。
しかし、彼が暗殺されてから55年が経った今も、彼の目指した多くのものは実現していません。特に、警察による黒人への暴力はいまだに激化し続けています。バイデン米大統領も、人種差別との闘いを掲げていたにもかかわらず、警察による暴力は抑制できていません。そうした中、バイデン氏はキング牧師の誕生日にあたる今年1月、アトランタ市内のバプテスト教会を訪れ、演説するというパフォーマンスを行いました。これによりバイデン氏は、教会の日曜の説教を行った初めての現職大統領となりました。
広範かつ組織的な人種差別や暴力は、建国以来つねに米国社会の問題として取り沙汰されてきました。これに対し、有色人種らは常に抵抗してきましたが、彼らは常にそうした暴力の犠牲になってきました。それどころか、人種・教育・職業・社会的差別や有色人種に対する暴力は、日常の光景と化しています。1950年代から60年代にかけて公民権運動がうねりを見せましたが、今日の米国社会ではいまだに人種差別がはびこっています。オバマ元大統領はかつて「人種差別はアメリカのDNAだ」と語ったことがあります。
近年は、警察による黒人に対する暴力が激化し、悲劇に結びついた事例も数多くあります。2020年5月に起きたジョージ・フロイドさん殺害事件は、メディアやSNSで大きく取り上げられました。事件をうけて、全米各地で前例のない規模の抗議デモが開かれ、警察による際限のない暴力を非難しました。
公民権運動から60年以上が経っても、自由と人権をうたうアメリカではいまだに黒人に対する暴力がまん延しています。キング牧師の演説から60年となった28日その日にも、フロリダ州で白人の男が銃を乱射し、3人を黒人を殺害しています。