アラスカはウクライナ戦争の終着点か、それとも新たな情勢不安の始点か?
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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とアメリカのドナルド・トランプ大統領が近く米北部・アラスカで会談する、という発表がさまざまな憶測を巻き起こしています。
(last modified 2025-08-11T08:35:06+00:00 )
8月 11, 2025 12:33 Asia/Tokyo
  • アラスカはウクライナ戦争の終着点となるか?(右はトランプ米大統領、左はプーチン・ロシア大統領)
    アラスカはウクライナ戦争の終着点となるか?(右はトランプ米大統領、左はプーチン・ロシア大統領)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とアメリカのドナルド・トランプ大統領が近く米北部・アラスカで会談する、という発表がさまざまな憶測を巻き起こしています。

【ParsToday国際】現状では、アラスカで今月15日に予定されているプーチン・トランプ両大統領の会談が流血を減らし外交への道を開く機会となると見る向きもある一方で、和平はおろかヨーロッパの政治・安全保障地図に新たな線を引く可能性のある取引の兆候だとの見方も少なくありません。こうした中、ハンガリーのオルバーン首相は「和平交渉においてヨーロッパが周縁化される可能性があり、そのような状況はヨーロッパ大陸の安全保障と将来にとって危険だ」と警告しました。このような警告が、ロシア大統領府と緊密な関係を持ち、EU欧州連合内で様々な立場を表明することで知られる人物から出ていることは注目すべきものです。

この警告を受けて、ISW・米戦争研究所は「このような会談の開催そのものを、プーチン大統領の真の戦争終結への意欲と解釈すべきではない」と鋭く指摘しました。同研究所によれば、プーチン大統領がこのような会談に出席する目的は、公正な和平の受諾ではなく、その思惑は相互間の譲歩を引き出すこと、制裁圧力の軽減、ウクライナ領土におけるロシアの軍事的優位の強化にあると見られています。この分析は事実上、オルバーン首相の懸念にさらなる重みを与える警告となっており、同首相は実際に「もし欧州がこのプロセスに参加しなければ、欧州大陸の利益と安全保障を無視したまま重要な決定が下される可能性がある」とコメントしています。

米シンクタンク・大西洋評議会は、元米国務省ウクライナ経済復興担当副特別代表のタイソン・バーカー氏へのインタビューにおいて「ロシアが占領している地域の同国への引き渡しに関する合意はいずれも、直ちにウクライナ側に拒否されるだろう」と警告しました。バーカー氏はまた「ウクライナは現地の困難な状況下においても占領の正当性を認める意思がなく、そのような合意は新たな戦争を招くだけだ」と見ており、この見解はウクライナ側の公式見解と一致しています。

英紙ガーディアンは、ゼレンスキー・ウクライナ大統領が同国としては決して領土を放棄しないと宣言し、ウクライナの直接介入のない合意は全て正当性がなく持続不可能である、と述べたことを大きく取り上げました。英紙フィナンシャル・タイムズも「ゼレンスキー大統領は領土譲渡が選択肢に含まれる合意さえも全面的に阻止するため、欧州各国の首脳と集中的に協議している」と報じています。そして、米紙ワシントン・ポストも「プーチン大統領を米国領土に迎え入れること、及び『領土交換』といった計画は事実上、ロシアの侵略を事実上正当化し、現状維持を容認しかねない。このような合意は、たとえ一時的な停戦につながったとしても、欧州の安全保障に全く奏功しない可能性がある」という欧州の懸念ぶりを伝えています。

こうした分析や報告書は、英王立国際問題研究所チャタムハウスやCEPA欧州政策分析センターといったシンクタンクによる過去の評価と一致しています。両シンクタンクは以前にも「欧州は自らの安全保障を損なわないよう、『安全保障面での自立』アプローチを強化し、和平プロセスにおいて積極的な役割を果たす必要がある」と警告するとともに、「ウクライナ危機は単なる地域戦争ではなく、EUの政治的意思と結束力の試金石である。この危機を無視し、他国に指導力の座を明け渡すことは『押し付けられた和平』を生み出す危険性がある。それは短期的な平和をもたらすかもしれないが、欧州の地に長期的な情勢不安の種を蒔きかねない」と強調していました。

欧州とウクライナの積極的な参加がないままのアラスカ会談の開催は、交渉の成果が安定しない不完全な合意に終わるという深刻なリスクをはらんでいます。結局のところ、ウクライナ戦争の終結が近いか否かという当初の疑問への答えは依然として複雑なままです。アラスカ会合は停戦ラインに関する暫定合意を生み出す可能性こそあるものの、恒久的な平和の実現にはより広範で透明性が高く、包括的なプロセスが必要であり、プーチン・トランプ両大統領の会談ではそのようなプロセスは踏襲されていません。そのため、欧州諸国やオルバーン・ハンガリー首相をはじめとするロシア寄りの要人らは、近く予定されているアラスカでの米ロ会談を懸念の目で見ているのです。

欧州は、米国との屈辱的な貿易協定の後は再び敗北を喫する可能性が高いと思われます。その理由は、欧州は米国抜きではウクライナ戦争の現場と政治の舞台において役割を果たせないからです。ヨーロッパ諸国政府は、政治的にも戦場においても、ウクライナ戦争に全面的に関与する力を持っていません。こうした中で、トランプ大統領にもそのような力はなく、その証拠にウクライナ政府とヨーロッパ諸国の支持がなければ、トランプ大統領はアラスカでの米ロ首脳会談でプーチン大統領に対抗する魔法のカードを持っていないも同然です。これらの要因を総合すると、アラスカでの米ロ首脳会談では驚くべき成果を期待してはならない、という結論が導き出せるのです。

 

 

 

 


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