世界最大の平和的集会・シーア派3代目イマーム殉教40日忌アルバインとは?
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アルバインの通称で知られるシーア派追悼行事で聖地に徒歩で向かう人々
昨今において、世界のニュースの大半が緊張と戦争で占められる中、毎年世界中から数百万人もの人々が参集するシーア派の追悼儀式が行われています。これは決して抗議や権力誇示のためではなく、抑圧への抵抗という人間的な現実を想起することを目的としており、「アルバイン(アラビア語で数字の40の意味)」と呼ばれています。
世界中の多くの宗教行事は特別な儀式をもって祝われますが、アルバインはその簡素さ、共感、そして自己献身をもって、精神性の異なる側面を示しています。この儀式は、イスラムの預言者一門の信奉者だけでなく、何物にも隷属しない全ての自由な人間にとって、正義と真実の概念について深く考える機会となります。
【ParsToday国際】この記事では、シーア派3代目イマーム・ホサインの殉教から40日目を記念して行われる追悼行事・アルバインについてご紹介します。
アルバインとは?
アルバインとはアラビア語で「40」を意味し、イスラム用語では預言者ムハンマドの孫にあたるシーア派3代目イマーム・ホサインが現在のイラク南部の聖地カルバラーにて殉教してから40日目を指します。この日はイスラム暦サファル月20日にあたり、シーア派にとって忠誠、哀悼、そしてイマーム・フセインの人間的理念への忠誠を再び誓うことの象徴とされています。しかし、アルバインは決して単なる宗教行事ではなく、様々な国籍、言語、人種、宗教・宗派を持つ2000万人以上の人々がイマーム・ホサインの殉教したカルバラー市を目指し、徒歩でこの聖地を目指すという世界最大の平和行進へと徐々に発展してきています。

カルバラー殉教事件
アルバインを理解するには、カルバラーでイマームホサインが殉教した出来事を理解する必要があります。イスラム暦61年に当たる西暦680年、イマーム・ホサインは家族や教友らと共に、当時イスラム圏を支配していたウマイヤ朝という圧政的な腐敗政権に立ち向かいました。彼は当時のカリフで暴君たるヤズィードに忠誠を誓うことを拒否したため、カルバラーの砂漠でヤズィ―ド軍に包囲されてしまいます。そして、ホサインはイスラム暦モハッラム月10日のアーシュラー(アラビア語で数字の10の意味)の日に、生後6か月の子供を含む72人の教友らと共に殉教を遂げました。この事件は、イスラム教徒だけでなく、何物にも隷属しない自由なるすべての人々にとって、抑圧への抵抗、真実への忠誠、そして人間的価値観のための自己献身の象徴となっています。このことから、アルバインは宗教儀式であるだけでなく、倫理的かつ人間的な声明であるともいえるのです。

アルバイン追悼行事での徒歩による行進
イラクやその他の国々から数百万人もの人々が、カルバラーを目指して長距離を歩く光景を想像してみてください。実際に、イラクのもう一つの聖地ナジャフからカルバラーまで、80キロメートルもの道のりを3日間かけて歩く人々も少なくありません。その道中には、地元の人々によってムケブと呼ばれる数千ものサービスステーションのようなものがが設けられ、食料、水、休憩所、医療、マッサージまでが無料で提供されます。これらはすべては提供者の気持ちを込めたもので、そのために金銭を要求されることは一切ありません。この行進は、共感、自己献身、そして人間の結束を深く体験する場です。参加者らは国籍、宗教、言語を問わず誰とでも肩を並べて歩き、祈り、共に食事をし、カルバラーの殉教者たちを偲んで涙を流します。多くの人にとって、この旅は単なる巡礼ではなく、精神面での再構築ともいえるものです。

アルバインと異文化間対話
近年、アルバイン儀式は世界のメディアの注目を集めています。英BBC、米CNN、カタール国営衛星通信アルジャジーラといったメディアは、この儀式を「世界最大の人々の集結」と称して報道しました。特定の場所で行われることが多い他の宗教儀式とは異なり、アルバインは異文化間対話のためのオープンな場を提供します。しかも、この儀式にはイスラム教徒以外の人々も参加しており、その中にはこのユニークな現象を間近に見ようと訪れた研究者、ジャーナリスト、社会活動家の姿もあります。彼らの多くは、儀式の雰囲気に漂うもてなしぶり、秩序、そして精神性の高さに驚嘆しています。

アルバインが世界に伝えるメッセージとは?
アルバインが伝えるメッセージを一言で要約するなら、「人類は国境や宗教を超え、抑圧に抵抗する」ということになるでしょう。イマーム・ホサインはカルバラーにおいて決して権力のためではなく、真実のために戦いました。シーア派のこの偉人は、抑圧に直面して沈黙することは人類への裏切りであることを示すために、自らの命と愛する人たちの命を犠牲にすることも厭わなかったのであり、アルバインはこのメッセージを改めて思い起こさせるものです。数百万人もの人々が、情愛と涙に溢れた心で徒歩でひたすらカルバラーに向かい、「私たちは抑圧された人々と共に、そして真実と共にある」と訴えているのです。