トランプ氏のホームレス排除決定:治安確立への道か、それとも新たな危機か?
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トランプ氏のホームレス排除決定で米の治安確立なるか、それとも新たな危機か?
ドナルド・トランプ米大統領は、同国首都ワシントンD.C.における「制御不能な犯罪」と称する事態に対抗すべく、首都に800人の州兵を派遣し、地元警察の統制を一時的に連邦政府に委譲します。
トランプ大統領は、ワシントンD.C.からホームレスの人々を立ち退かせ、首都から遠く離れた場所に移住させると約束しました。この決定はホームルール法(地方自治体が、州政府などの外部からの干渉を最小限に抑え、自らの問題を自らの力で解決できる権限)に基づいて行われたものの、地方当局や人権団体、そしてアナリストから広く批判されています。
では、なぜこの決定が下されたのでしょうか?そしてこれは果たして、ワシントンの都市問題の解決に役立つのでしょうか?
トランプ氏は、この措置の目的は「首都を無法の波から解放し」、「ワシントンに美しさと安全を取り戻す」ことだと述べています。また自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿では、ワシントンを「犯罪、残虐行為、そして汚物」に溢れた都市と表現し、この問題の一因としてホームレスの存在を挙げています。
トランプ氏のこの発言が提起されたのは、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.が象徴的な重要性を持ち、その外観が連邦政府にとって最優先事項となっている中でのことです。首都ワシントンの警察を連邦政府の直接管理下に置くこと及び州兵の配備という決定は、特に伝統的に民主党の影響下にあったワシントンD.C.において、民主党色の強い地方自治体に対する共和党のトランプ氏の権力行使と政治的立場の強化を狙った試みという可能性もあります。
もっとも、ワシントンD.C.は数多くの都市課題に直面しています。ある調査によれば、人口70万人のこの都市では推定3800人がホームレス状態にあるとされています。こうした人々は仮設避難所や路上で生活することが多く、街の景観や社会問題に深刻な影響を与えています。
ワシントンにおける暴力犯罪は、2024年には約35%、2025年の最初の7ヶ月間で約26%減少しましたが、2023年には大幅に増加し、ワシントンはアメリカで最も危険な都市の一つとなってしまいました。こうした歴史と、中心部地区におけるホームレスの存在と相まって、トランプ大統領の最近の決定の口実を作った形となっています。
ワシントンDCはホームレスや犯罪に加え、経済格差や手頃な価格の住宅不足、連邦政府と地方自治体間の政治的緊張といった問題にも直面しています。また連邦特別区という特別な地位にあるため、議会の直接的な監視下に置かれ、自治権も制限されています。そのため、トランプ大統領の最近の措置のような連邦政府の決定は、地方当局との緊張を生み出しています。
これらの問題を考慮すると、トランプ大統領の計画の成功はいくつかの要因にかかっています。まず、州兵の派遣および、警察を連邦政府の直接管轄下に置くことで、一時的に秩序を強化できる可能性があります。ワシントンD.C.の州兵は大統領の直属の指揮下にあり、地方当局の承認を必要としないため、計画の実施は容易です。しかし、ホームレスを立ち退かせ、他の場所へ移住させることは、多くの法的および倫理的な課題を伴います。
ワシントン・ホームレス法律相談所などの人権団体は、この措置は違法であり人権侵害に当たると主張しており、訴訟を起こす可能性が高いと思われます。一方、ワシントンDCのミューリエル・バウザー市長(野党民主党)をはじめとする地元当局者は、この措置は大げさ且つ不必要だとして反対しています。
近年の犯罪率の低下は、「無法地帯が蔓延している」という主張が誇張されている可能性を示唆しています。さらに、手頃な価格の住宅や社会サービスといった、持続可能な解決策を提供せずにホームレスを強制的に他地域に移住させることは、他地域の問題を悪化させる可能性が大です。結局のところ、トランプ大統領の決定は短期的、表面的に治安を向上させるかもしれませんが、貧困や住宅不足といった問題の根本原因に取り組まない限り、永続的な効果は望めないでしょう。政治的・法的緊張は市民社会の抵抗とともに、トランプ氏の打ち出したこのプログラムを深刻な障害に直面させる可能性があるのです。