西側の思想家が考える預言者ムハンマド(29)
フランスの著名のオリエント学者、ジャン・ブロワは、無知な人々の侮辱や傲慢な態度がイスラムの預言者ムハンマドの崇高な魂にはふさわしくないと考えています。
ブロワは、次のように述べています。「預言者ムハンマドは、決して人間を超越した特質を有すると主張しなかった。彼は、啓示を受け取った人間であり、メッカの無知な人々から奇跡を起こすよう求められた時、自分の奇跡とは神の啓示をアラビア語で受け取り、それをコーランという、ほかに例のない形で全ての人々に対し明らかにしたことであると語っている。預言者ムハンマドは、自分が神の啓示を人々に伝える仲介者であることを認知していた。彼が自分の同国人から、自らのもたらすメッセージの正当性を奇跡によって証明するよう求められたとき、彼に次のような啓示が下されたのである。『言うがよい、人間と精霊が集まり、このようにコーランをもたらそうとすれば、たとえ一部の人々がほかの人々を背後から助けたとしても、それは不可能である、と』 アラブ民族は、文化人で、詩を作ることにおいて長い経験を有しているにもかかわらず、コーランに記されている章句に似た内容の一文すら語れなかったのだ」
ジャン・ブロワはまた、自らの著作において、美しい語彙を用いて預言者について次のように述べています。「神のの預言者は、全ての人々の指導者であり、自由な意思を有している。彼は神の啓示に従っており、その啓示は人類の幸福と同調のために、神によって下された。預言者ムハンマドは、あれほどの力を有しながらも、一生涯を通して多くの事柄を寛大な心で赦したほか、メッカやその周辺の人々による迫害をも大目に見た」
ジャン・ブロワは、預言者ムハンマドの寛大さについて語る中で、そのほかの実例をも引き合いに出し、次のように述べています。「あるとき、預言者ムハンマドは自らの衣服を洗い、それを日に干した後、樹木にもたれかかり、そのまま寝入った。そのとき、敵の1人がその隙を狙ってムハンマドを襲撃した。彼は、剣を預言者の頭上に振り上げ、こう述べた。『預言者ムハンマドよ、今いったい誰がお前を私の手から救おうとしているか?』この時、ムハンマドは冷静さを保ち、次のように述べた、『それは、神である』 ムハンマドのこの言葉に、敵は震え上がり、その手から剣が地面に落ちた。預言者はその剣を拾い、敵の顔面にかざしてこう述べた。『さて、今あなたを私から救う人はいるか?』 敵は、次のように述べた。『あなたの寛容さである』 預言者ムハンマドは、この敵を殺すことをやめ、この行為をもって寛大な心で赦すという、もっとも優れた教訓を敵に示してみせたのである」