ラマザーン月、聖なる月(3)
ラマザーン月の厳粛な雰囲気の中では、誰もが神に近づくためのよい方法を見つけようとします。今回は、イスラム教シーア派4代目イマーム・サッジャードによる美しい祈祷の一部から始めることにいたしましょう。
"崇拝するにふさわしい存在は、我らにイスラムを下され、我らを善なる道へとお導きになった神のみである。おお、神よ、ラマザーン月にめぐってくる昼夜を我らの礼拝で満たしたまえ。そして、この月の昼間には断食をし、夜はそなたの下で祈祷をささげて次の日の朝を迎えられるよう、我らを助けたまえ”
ラマザーン月には、イラン国内の各市町村には独特の雰囲気が漂います。イランの人々はこの月に入る数日前から、ラマザーン月に必要な品物の調達に走り、自宅やモスクなどの清掃をしてこの聖なる月を迎えます。
ラマザーン月には、コーランの朗誦を行う集会は、厳粛な雰囲気にあふれるとともに、意欲的な数多くの若者たちが詰めかけ、独自の活気がみなぎっています。こうした集まりの場は、モスクなどの宗教施設で開催され、聖職者や宗教の専門家がコーランの節の解説のほか、倫理や教育、社会的な内容について演壇を行います、
一方で、モスクやそのほかの宗教施設で、断食をする人々の集会が設けられることから、恵まれない人々を支援すると言った慈善活動にふさわしいチャンスが生まれます。企業や役所、作業所などは、断食をする人々に考慮し、就業時間をずらしたり、職員が円滑に断食ができるよう配慮した措置を講じます。
イランでも他のイスラム諸国と同様に、断食をした人に対し日没後の食事エフタールを与える習慣が、人々の間に広まっています。また、その日の断食を終了して軽食を取るとき、或いはその後に親類縁者や友人・知人を訪問することも、イラン人の家庭でごく普通に見られる光景です。また、この月に初めて断食をする年少者には、断食の実施を奨励するとともに、ラマザーン月によい思い出ができるよう、沢山の贈り物が渡されます。
また、このシーズンには伝統的なお菓子類を扱う市場が繁盛します。もっとも、イランの各都市には郷土銘菓が存在しています。さらに、飲食店もラマザーン月限定の特別なメニューを用意します。断食が始まる前の早朝には、イスラム教徒は親密感にあふれた雰囲気の中で、サハリーと呼ばれる朝食をとります。
断食をする人々は、飲食を済ませて、朝の礼拝の合図が聞こえてきた後に体の一部を水で清め、朝の礼拝を行います。また、中には集団礼拝に参加するためにモスクに赴く人もいます。
それではここで、コーラン第2章、アル・バガラ章「雌牛」、第185節をお聞きください。
”ラマダーン月こそは、人類の導きとして、また導きと善悪の識別の証としてコーランが下された月である。これゆえ、あなた方のうち、自分の国や家にいる者は、この月に断食をしなければならない。病気にかかっている者、または旅路にある者は、断食ができなかった日数分を、後日に行い埋め合わせるものとする。神はあなたがたに易きを求め、困難を求めない。即ち、神はあなたがたが定められた期間を全うして、導きに対し、神を讃えることを望んでおられるのだ。恐らく、あなた方は感謝するであろう”
平常時における時間や場所には、それほど重要性がないかもしれませんが、聖なるラマザーン月が到来した時期や場所は重要性を帯びてきます。先ほどお聞きいただいたコーランの節では、この聖なる月が重要であることの理由について神が語っており、それはコーランが下された月であるからだとしています。ところで、この節は、コーランの卓越した特性をいくつか指摘しています。その1つとして、コーランが導きの書であること、そしてさらに重要なこととして、コーランが人類を導くと共に、人間が真実を見出せるよう善悪を識別する力を人間に与えたと述べています。
また、この節はイスラムの掟が厳しいものでないことにも触れています。このため、病気にかかっている人や旅行中の人は断食をしてはならず、後日にできなかった日数分の断食を行い埋め合わせをすればよいとしています。
神への信仰心を持つ人は、自分を導いてくれたことについて神に感謝する必要があります。コーランのこの節の最後の部分では、神をたたえるよう命じており、断食が崇高なる神の偉大さを認める行為であるとし、導きという恩恵に感謝すべきだと述べています。
それでは、ここからはラマザーン期間中の健康管理についてお話することにいたしましょう。前回お話したように、神は断食を呼びかけるとともに、病気やそのほかの理由により断食ができない人に対して、これを免除しています。このため、一部の人々はそれほど後ろめたさを感じることなく、断食を行わないで済みます。一方、神はコーラン第2章、アル・バガラ章において、信者たちに困難を求めていないこと、人類の本質や精神に注目していることを指摘し、それに基づいて人類に断食の義務を定めています。このため、信者たちにとって断食をしたほうが良い、と言う意味であることに注目する必要があります。
現在、断食が保健衛生上、また心と体の健康にも有益な効果があるとともに、精神衛生をも確保できることがわかっています。過去の経験や学問的な研究からも、断食が多くの病気において問題とならないのみならず、病気の進行を抑え、緩和し、さらには治療効果もあること分かっています。
アメリカのある医師は、次のように述べています。
「病気療養中の人は誰もが、毎年一定の期間は食物の摂取を控えるべきである。それは、食物が常に人間の体内に摂取されると、一連のばい菌が増殖するからである。だが、食物の摂取を控えれば、ばい菌は弱体化する。イスラムで義務付けられている断食は、健康の最大の保証人である」
医学的な視点から、断食は体の衛生につながるとともに、特に消化器官を初めとする体内を洗浄してくれます。即ち、健康を新たに作り出し、毒素を排除してくれるのです。病気の多くが腸内における食物の残留により起こることから、この問題は断食により解消されることになります。
イランの食物栄養学の専門家ザハラー・アブドッラーヒー博士は、次のように述べています。
「複数の研究結果から、様々な病気の治癒に断食が効果を発揮することが判明している。誤った食生活や肥満、体重オーバーが関係している病気の多くにとって、断食は有益である。多くの研究の結果、断食は血中コレステロール値を下げる上でも非常に効果があることが明らかになっている。それは、断食により血液内に含まれる悪玉コレステロールが調整され、善玉コレステロールが増えるからである」
もう1つの重要な点としては、断食をする人は喉の乾きを懸念することから、ラマザーン月には塩分の摂取を減らすようになります。その結果、ラマザーン月のもう1つの効果として、高血圧症が緩和されることが挙げられます。ラマザーン月が終わっても、再び塩分を取りすぎることがなければ、高血圧症に悩まされることはなくなると思われます。
ラマザーン月に正しい食生活の習慣を守ることは、特に大切であり、それによって誤った食習慣を改め、この聖なる月の精神面での恩恵にあずかることができるのです。