ラマザーン月、聖なる月(6)
-
祈祷
今回はまず、イスラム教徒が行う断食が苦行に当たるのか、そして宗教に関連しない修行とはどのように違うのか、という疑問についてお答えしたいと思います。それから、コーランの朗誦をお聞きいただきながら、その教えについてお話し、後半の部分では、ラマザーン月における医学的、栄養学的な奨励事項についてお話しましょう。
それではまず、断食が苦行の一種なのか、もしそうであれば、宗教的でない苦行とはどのように違うのか、と言う点について考えることにいたしましょう。
苦行という行為は、時には宗教の教えとは離れた形で行われることがあります。つまり、あらゆる方法を用いて、自分の体に苦痛を強いることで、精神的な技や力を獲得しようとする人もいれば、宗教的な教えや基準にそって、苦行をする人もいます。宗教的な苦行においては、その実行者は決して宗教から外れることはありません。そのため、宗教で定められた計画に当てはまらない力や能力を得ることは、賞賛されるべき事柄ではありません。
ラマザーン月の断食も、決まった時期に、宗教の戒律や計画にそって行われます。断食の背後にあるのは、神の僕としての地位に到達し、神に少しでも近づくというべきだという、宗教的な哲学です。
このことから、宗教に基づく苦行とそれ以外の苦行による結果や効果には、完全な違いがあります。戒律によらない苦行では、精神力や身体力をつけることが最終目的です。しかし、戒律で定められた苦行では、精神的、身体的な力を得ることを目的としているというより、悪いものに対する欲望をコントロールし、人間として完成する方向に進むことが目的とされています。
宗教的な苦行とそれ以外の苦行の間のもう1つの違いとして、その結果の活用方法が挙げられます。信心深い人は、宗教の教えを実践することでより成熟し、決してそれを悪用することはありません。しかし、宗教によらない苦行を行う人は、その結果としてある種の能力を獲得し、それを誤った方法で利用する可能性があります。
さらに、宗教によらない苦行では、長期間にわたり社会から遠ざかる隠遁生活を強いられます。しかし、イスラムの教えでは、こうした方法が奨励されていないのみならず、むしろ社会や実生活の場にいることの方が、精神的、道徳的な完全性に至ると考えられています。このため、イスラムの歴史を紐解くと、一部の英雄たちが戦場でも断食をしていたことが分かります。もっとも、現代においてもこうした実例が見られます。
これについて、次のような言い伝えがあります。現在のヨルダンにある町ムーテでの戦争において、シーア初代イマーム・アリーの兄、ジャアファル・ブン・アビー・ターリブは、殉教する中で、傷を負い、地面に倒れました。彼は明らかに激しい喉の渇きを抱えており、1杯の水の入った器が彼のもとに運ばれてきました。ジャアファルの肩を静かにをゆすると、彼はやっとのことで目を開きました。そこで、水を飲むかと問いかけられると、彼はこう答えました。
“日没まで、水をとっておいてくれ。そのときまで私が生きていたなら、その水を飲む。もし生きていなかったら、喉が渇いたまま神のもとにゆくつもりだ。私は今、断食中であり、途中で断食をやめたくないのだ”
それでは、ここからはコーランの朗誦をお聞きいただきながら、番組を進めてまいりましょう。まず、コーラン第3章、アール・イムラーン章、「イムラーン家」第164節をお聞きください。
“まことに神は、敬虔な者たちに恩恵を与え、彼らの中から預言者を選び出した。そして預言者が、彼らに神の節を伝え、彼らの汚れを清め、啓典と英知を授けるようにした。それまで彼らは、明らかな迷いの道の中にいた”
コーランのこの節は、イスラムの預言者ムハンマドが現世に遣わされたことと、その目的について述べています。預言者は、神の託宣の偉大さを明らかにし、それが正しいことの理由となるべく、読み書きのできない人々の中から指名されました。それは、深い内容を持つコーランのような書物が、人類、特に識字教育を受けていない人間の考え出したものではありえないからです。
この節はまた、預言者ムハンマドが神に遣わされたことについて、3つの部分に要約しています。最初の部分は導入部で、神の啓示が数多く下されていることについて語っています。そのほかの2つの部分は、教化、そして、書物と哲学の教育であり、これらは人間が完成し、現世の善いものを活用するために、預言者が遣わされた2つの大きな目的とされています。つまり、導きや、コーランの朗誦とその内容について考えること、そして倫理上の穢れからの浄化と、学識や哲学を身につけることの必要性を説明するものです。
断食をする人が、ラマザーン月に正しい食生活をしないと、断食により体重が減ることなく、逆に増えてしまう場合もあります。それは、糖分の多い食物を大量に取りすぎるからであり、さらには寝る時間が遅くなるといった生活の乱れが、太ってしまう要因となります。
今夜は、消化に時間がかかり、空腹をおさえ、他の食物をあまり必要としなくなるような飲み物についてご紹介することにいたしましょう。まず、コップ1杯の低脂肪の牛乳をお勧めしたいと思います。低脂肪の牛乳は、消化に時間がかかるため、腹持ちがよく、その間は他の食物を取らずに済みます。その結果、長時間空腹を感じないで済むのです。これについて、イランの栄養学の専門家であるキミヤーギャル博士は次のように述べています。
「乳製品は、6つの主要な食品群の1つとされ、この食品群のうちのもっと重要な摂取源は牛乳である。断食明けの食事を取る際には、牛乳やチーズ、米を牛乳で煮込んだものや、少々甘味を加えた、米の粉末と牛乳によるプリンの様なフェレニーを、まずはじめに食べるをお勧めする」
牛乳には、有益な栄養素が沢山含まれています。特に、低脂肪乳はストレスを和らげ、筋肉や神経を安定させる働きがあり、その結果体のリラックスにつながります。また、時として食べ過ぎにより倦怠感を感じたときなど、牛乳を飲むことで特別なエネルギーが補強され、元気が戻ることになります。
一般的に、乳製品の摂取は欠かせないものであり、多くの人々はラマザーン期間中には、断食を終える際にコップ1杯の牛乳を飲むことが多くなっています。また、ラマザーン月の終了後も、引き続き朝食に牛乳を飲むことをお勧めします。実際に、栄養学の観点からも1日に少なくとも、コップ2杯の低脂肪の乳飲料を飲むことが奨励されています。
伝統医学では、その日の断食を終える際に、牛乳を飲むことが奨励されています。牛乳には、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ビタミンB、リンなどが豊富に含まれています。イスラムの偉人たちの言行録にも、牛乳を飲むことに関する記述が多く出てきます。特に、シーア派初代イマーム・アリーは、断食明けに、好んで牛乳を飲んでいました。
さらに、断食明けの食事を取る際に、桑の実やナツメヤシのエキスとともに、米を牛乳で煮込んだおかゆを少し食べることで、血中の糖分や、カルシウムなど体に必要な栄養素が調節されます。このおかゆは、消化の良い軽食でありながら、栄養価が高く、また油や砂糖を使わずに作れます。特に、糖尿病や肥満気味の人などにとって、乳製品を使ったメニューとしては最も栄養価の高いものとされています。
このシールベレンジと呼ばれるお粥の最も重要な特徴は、米に含まれる炭水化物を腸内で消化しやくすくし、お菓子に含まれる各種の炭水化物よりも、血糖値の急激な変化を防ぐ上で効果があることです。また、このメニューにシナモンを使用することも、消化器官の強化に効果があるとして奨励されています。