イランにおける春の新年ノウルーズ(2)
イランは、様々な民族が共存している国家といえます。
ノウルーズはイランの最も重要な国民的祝祭の1つとされ、イランの様々な民族が民族や宗教などへのこだわりを捨てて、新年を祝うのです。前回は、トルコ系や遊牧民のカシュガーイ族などの、イランの一部の民族が持つノウルーズの慣習についてお話しました。今回はさらに、トルクメン族、クルド民族、バルーチー族、バフティヤーリー族の間に広まっているノウルーズの儀式についてお話することにいたしましょう。
トルクメン族のノウルーズの慣習
イラン北東部に多いトルクメン族も。ほかの民族と同様に、新年を迎え、ノウルーズの儀式を実施することで、この祝祭に特に注目しています。イラン暦の最後の月に当たるエスファンド月には、豆類をぬらして発芽させ、サブゼと呼ばれる新芽の飾り物を作ること、年末の大掃除や絨毯の洗浄、室内の壁の塗装、新しい衣服の調達、特別なお菓子作り、来客をもてなすための乾燥ナッツ、ノウルーズ用の米や油の仕入れといった活動が見られます。
トルクメン族の一部は、古くからの習慣に従って、白と黒の糸を編み、それらの間にエスファンドと呼ばれる中東原産のヒシ類の多年生植物シリアンルーの種、嫉妬や羨望の視線を回避する、ナザルボンジュと呼ばれる青い目玉の形をした魔よけのお守り、ビーズの装飾品、塩、古代のトルクメン人の間で聖なる存在とされている樹木などをつけ、家の入り口の扉の上にかけます。また、馬などの家畜にも装飾を施し、ヒツジの首に鈴を吊り下げることも、新年の到来の吉報を告げるものです。
新年を迎える直前の木曜日と金曜日には、亡くなった先祖の霊を慰めるために、近隣の人々への寄付や施しが行われます。これは、亡くなった人々の魂が自分の家に帰り、子孫たちが清らかな状態にあるのを見届け、よい香りを感じたときには喜びを感じ、遺族のために祈祷をささげるが、そうでない場合には、悲しみにくれて戻っていく、と考えられていることによるものです。このため、ノウルーズの数日前には、各家庭でお香をたく習慣があります。
年が切り替わる前に、女性たちは麦芽のエキスでサマヌーと呼ばれるペーストをつくり、また地元独自のパンやお菓子を作ります。そして、恵みの象徴として2つの小さなパンを白と黒の糸を使って、壁にかけます。年が変わる瞬間には、家中の明かりをつけ、窓を開けて春の新鮮な空気を室内に入れ、より多くの恵みが得られるようにし、年長者がコーランに口付けし、コーランの節を朗誦して、新年が健康や成功、よい事に恵まれ、充実したものとなるよう祈ります。
この日には、家族全員がシャワーを浴びて体を清め、新しい服を身につけ、通常の礼拝を半分に短縮して感謝の礼拝を行います。各家庭は、新年の始まりに当たって先祖の墓にお参りに行き、羊を殺していけにえにし、感謝の施しを行い、神に祈りを捧げます。
このほかに、古くから行われてきたものの現在は廃れつつある慣習には、乗馬レース、伝統的なレスリング、高く飛び跳ねてハンカチを掴み取る競争、闘鶏、ヒツジの角突き合戦などがあります。
バルーチ族のノウルーズの慣習
イラン南東部に主に居住しているバルーチ族も、イランのほかの民族と同様に、つぼみが花開き、新芽が生えてくる春の新年ノウルーズを祝います。ノウルーズ期間中には、祝賀のイベントや、このシーズン独自の慣習が実施されます。
バルーチ族が住むイラン南東部のマクラーン地区で実施される、独自の春とノウルーズの儀式は、ナツメヤシやナツメヤシ園に関するものが多くなっています。年が変わり、春が始まるシンボルとして、この民族が住む集落では、家の扉の上の部分に緑の葉のついたナツメヤシの枝を飾ります。
また、マクラーン地区のバルーチ族の間に見られるノウルーズの儀式の1つに、新年の始まりの日にナツメヤシの苗木を植える植樹があります。この儀式では、年が切り替わった新年の最初の日に、年長者があらかじめ用意されたナツメヤシの苗木を、年少者にお年玉として贈呈し、農業用地にこの苗木を植えるよう教えるというものです。若者自身の手によって植えられるこのナツメヤシの苗木は、苗木の手と呼ばれ、地面に植えられた瞬間から、これを植えた人のものになります。
バルーチ族の人々は誰もが、ノウルーズ期間中、そして春を通して喜びにあふれ、喜びを表す手段を求めます。このシーズンには、結婚式が執り行われ、さらにそうした祝賀の儀式にちなんで、7日7晩にわたって郷土舞踊による独自の儀式が実施されます。
バルーチ族の住むバルーチェスターン地域で行われるノウルーズの儀式に、春の祝祭があります。これは、バルーチ族の遊牧民をはじめとする多くの人々により、厳密に実施されています。この儀式は、独自の規律に従って集団で行われ、またバルーチ族が数多くの部族により形成されていることから、それぞれの部族が部族長を招待します。
バルーチェスターン地域では、ノウルーズに男の子が生まれると、その子にノウルーズ、またはナブルーズという名をつけ、女の子が生まれると地元に生息する薬草や花の名前をつけます。
バルーチェスターン地域のサルハッド地区で行われる儀式の1つに、冬の越冬地から春、そして夏の放牧地へと移動するための儀式があります。この儀式では、それまで滞在していた地域から、黒いテントを片付け、一族全員を集めて丸くなり、特別な歌を歌い、その地に別れを告げるとともに、来年再びそこに戻ってくる事を祈願し、一族の族長の許しを得た後に、新たな春の放牧地へと向かいます。
春の放牧地に到着すると、コーラスにより春の儀式が実施され、春の喜びと新しい放牧地の緑豊かな自然を表現し、新たなテントが建てられます。
クルド族のノウルーズの儀式
クルド族によるノウルーズの祝祭も独自の方式により盛大に実施されます。この古くからの祝祭ではクルド人の文化と悠久の歴史を物語る特別な慣習が行われます。
クルド民族の住むコルデスターン地域でのノウルーズの儀式には、焚き火や年始回り、独自の伝統的なゲームなどがあります。この地域の人々は、ノウルーズの1ヶ月前から、先人たちのしきたりに倣い、小麦やヒヨコマメ、レンズマメ、ゴマなどの種子を大皿などの器の中で発芽させ、ノウルーズの到来を待ちます。コルデスターン州でのノウルーズの儀式と、イランのほかの地域との違いとして、クルド族はノウルーズの前夜に町や村を取り囲む山や、家屋の屋上などで焚き火をする事が挙げられます。
コルデスターン州で古くから行われているノウルーズの儀式に、年明けの前夜に行われるものがあります。これと類似した儀式は、トルコ系の言語であるアーザリー語圏で見られます。これは、一種の遊びであり、4人から6人のグループにより、春の到来と冬の終了、そして大地の蘇りのメッセージの伝達を目的に行われます。これは、ひげのない人物が鎌を持って出発し、その人の首に結びつけた縄を別の人が持ち、その人の先に立って引っ張るというもので、現在では集落部で行われています。
イラン南部のバフティヤーリー族のノウルーズの習慣
バフティヤーリー族はたいてい、ノウルーズの2週間ほど前から年末の大掃除を開始します。また、10日前からは、小麦やレンズマメなどを発芽させて、サブゼと呼ばれる新芽の束を作る作業をはじめます。
バフティヤーリー族の住む地域では、自然条件や気候が農業に適していることから、ノウルーズの縁起物の1つであるサブゼが非常に重視されており、この地域ではサブゼが特に農業への恵みや、緑豊かな年の始まりの象徴と見なされています。はるか昔には、このサブゼを砂漠から摘み取り、それを皿に載せてその根元に土を入れ、長持ちするよう水をかけておく習慣がありました。
この地域ではまた、年内の最後の火曜日の夜に焚き火を起こしてその上を飛ぶ、チャハールシャンベスーリーという儀式も非常に古い歴史を持っています。彼らは、焚き火の上を飛び越える際に、健康や恵み、日々の糧が与えられ、悲しみがなくなるよう願います。さらに、小麦の粒をあぶって香り付けしたお菓子を作る事も、この地域の古くからの習慣の1つです。
バフティヤーリー族のノウルーズの慣行儀礼
年が切り替わる前には、ハフトスィーンと呼ばれる7つの縁起物を飾ります。バフティヤーリー族は、年が明けると同時に、より緑の多い場所に移動し、黒いテントを建てます。年が変わるときには、一家の長がコーランを読み、ほかの人々は幸先のよい新年の始まりのためにコーランを読むか、あるいはコーランの章句に視線を投じます。一家の長は、コーランのページの間に新札をはさんで、家族のメンバーに配ります。このときの真新しい紙幣は、恵みや日々の糧のシンボルとされています。
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