ラマザーンへのいざない(10)-隣人の逸話
今回は、隣人に関するお話の1つで、レバノンの有名なシーア派イスラム法学者のセイエド・ジャヴァード・アーメリーにまつわる逸話をお届けしましょう。
ある日、このイスラム学者が夕食を食べていたときのこと、扉の音が聞こえました。扉の向こうには、彼の師匠であるセイエド・メフディー・バフロルオルームの使いがいました。セイエド・ジャヴァードは、飛んでいって扉を開け、師匠がどのような伝言を伝えてきたかを聞こうとしました。師匠の召使は次のように述べました。
「あなたの先生が、あなたに今すぐ来るようにとおっしゃっています。先生の夕食はすでに用意されていますが、あなたが来るまでは食事に手をお付けにはならないでしょう」
そこで、セイエド・ジャヴァードはすぐさま、師匠の自宅に向かいました。彼を目にするや否や、彼の師匠はこれまでにないほど強く憤慨し、次のように告げました。
「セイエド・ジャヴァードよ、お前は神を恐れないのか。神に対して、恥ずかしく思わないのか」
この言葉に、セイエド・ジャヴァードは大変驚き、いったい自分が何をしたのかという思いにかられました。それまで、彼はこれほど叱責されたことはなかったのです。そこで、師匠に向かって、自分がいったいどのような過ちを犯したのかとたずねました。
そこで、師匠バフロルオルームは次のように告げました。
「お前の隣人のシェイフ・モハンマド・ナジムアーメリーとその家族が、これまで7日間も小麦や米がないまま暮らしている。彼らはこの7日間、ナツメヤシをつけで買い、それで食いつないでいる。今日、彼はまたその店からナツメヤシをつけで買おうとしたが、彼は自分から何か言おうとする前に、店の人から未払いの金額が増えすぎたといわれた。彼は、この言葉に恥ずかしくなって、それ以上つけで買うことができなくなった。それで、手ぶらで帰宅し、今夜は、彼とその家族は夕食なしになった」
セイエド・ジャヴァードは、心配そうにこう告げました。
「神に誓って私は、このことをまったく知りませんでした。もし隣人がそんな事になっているとわかっていたなら、必ず何か困っていることはないかと伺っていたはずです」
師匠バフロルオルームは、次のように述べました。
「私がここで言いたいのは、なぜお前が隣人の今の状況を何も知らないままでいたかということだ。隣人が、7日間も苦しい生活をしているというのに、なぜお前はそれに気づかなかったのか。だが、お前がもしそれに気づいていながら彼らに何の助けも施さなかったならば、お前はイスラム教徒ではなかったという事になる」 セイエド・ジャヴァードは、うつむきながら、それでは自分はどうしたらよいのか、とたずねました。
セイエド・バフロルオルームは、次のように告げました。
「私の召使が、この盆に食べ物を載せて運ぶから、お前も一緒にその隣人の家に赴くがよい。お前がその家の扉をたたいて、今晩夕食を共にしようと申しいれるのだ。そして、この金も持っていって、そこの家のじゅうたんかムシロの下に隠し、これまで彼らの困窮に気づかなかった怠慢を詫びるがよい。私は、ここに座って、お前が帰ってくるまで夕食に手をつけずに待っている」
召使は、いろいろな食物を乗せた大きな盆を持ち、セイエド・ジャヴァードと共に隣人の元へと向かいました。召使はそこで、その場を立ち去り、セイエド・ジャヴァードが扉をたたき、隣人の許可を得て中に入りました。そして、それまで彼らの状況に気づかなかったことを詫び、持ってきたこれらの食べ物を食べてほしいと告げました。隣人は、その食物の一部を食べました。それは、とても美味しいものでしたが、これは、セイエド・ジャヴァードの家の食物ではないと感じました。というのは、その食べ物が彼の家で調理したものではなかったからです。
このため、隣人はセイエド・ジャヴァードに向かって次のように告げました。
「これは、あなた様のお宅で調理したものではないですよね。これはどこで調理したものか教えてください。それを教えていただけるまで、この食物に手をつけることはできません」
セイエド・ジャヴァードがどれほど説得しても、隣人は食べ物に手をつけようとしませんでした。そこで、彼はやむなくこれまでのいきさつを話しました。すると、隣人は食物を食べたものの非常に驚き、セイエド・ジャヴァードに向かって次のように告げました。
「私は、自分の問題を誰にも話さず、自分にとって最も近しい隣人にさえも、このことを隠していました。いったい、あなた様の師匠であるセイエド・バフロルオルームが、どうしてこの事を知ったのか、まったくわかりません」
イスラムの預言者ムハンマドは、次のように述べています。
“自分は満腹でありながら、隣人が空腹にあえいでいるのを知っていながらそのままにしておくような人間は、私を預言者だと信じていないことに等しい”
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