精神性への扉(2)【音声】
イスラム教徒は今、ラマザーン・断食月を迎えています。
前回の番組では、全ての人間の心には、本質的に神を求める傾向があることをお話しました。神の預言者たちの導きにより、このような人間の傾向は、多くの共同体の神への崇拝につながっています。しかし時には、無知や逸脱、頑なさにより、偶像などを崇拝する人々もいます。歴史にあるように、様々な時代に、魂のない無力な偶像、太陽、月、火、牛などの動物への崇拝が行われてきました。イスラムをはじめとする啓示宗教は、ものや創造物への崇拝を否定し、唯一の神のみが、崇拝に値するとしています。
宗教を建物にたとえるなら、そのいしずえは唯一神の信仰です。神の宗教を論理的に理解したり、そのひとつを信じようとするなら、そのいしずえである唯一神を信仰することから始めるべきでしょう。イスラムの預言者ムハンマドは、その導きを、「唯一の神の他に神はいないと唱えれば幸福になる」という言葉で始めました。この言葉は、イスラム文明という名の壮大な文明と大きな共同体の結成の始まりとなりました。
唯一神への信仰とは、これほど美しく秩序だった偉大な世界を創造し、管理する神を信じることです。神は唯一無二の存在です。なぜなら、コーランの節によれば、世界に数多くの神が存在し、それぞれが特定の地域に影響力を持っていれば、その力は制限され、いずれの神も、完全で全能な存在ではなくなるからです。言い換えれば、もし2人、あるいはそれ以上の神が、世界の創造と管理にかかわり、互いの管轄する地域に干渉したりすれば、世界は混乱に陥っていたでしょう。
このように、神の唯一性を信じるイスラム教徒は、生活上の全ての事柄において、その人の行動を監視する創造主に注目します。そのため、神に助けを求め、神のことを思い起こすことによって、心の平穏を得るのです。
唯一神信仰について、多くの人は、唯一神の姿を見ることはできないのに、どうしたら、神のことを知ることができるのか、という疑問を抱くでしょう。
17世紀の物理学者、ニュートンは、大小の球体を使って太陽系の模型を作りました。この模型は、歯車とベルトの働きで、各惑星が動くようになっていました。ある日、神を信じないニュートンの友人が遊びに来て、その模型を目にし、驚いて、その模型を誰が作ったのかと尋ねました。ニュートンは、「誰かが作ったのではない、自然に生まれたのだ」と答えました。友人は、そんなことがあるはずがない、その模型を作った人は天才だと言いました。するとニュートンは言いました。「この模型は、惑星のほんの小さな例にすぎない。そのような小さな模型の製作者を天才だというのに、なぜ君は、これほど美しく偉大な世界がおのずと作られたなどと信じるのか?」 ニュートンの友人は、その論理によって目覚めたのです。
そう、神を知る最良の方法は、広大な創造世界について研究することです。コーランは、世界全体と存在物の創造を、神のしるしとして挙げ、真理を探究する人間に、創造物を目にし、それについて深く考えるよう呼びかけ、それによって、この広大な世界の創造主である神について悟り、神の無限の力と偉大さを理解するようにとしています。
秩序が見られるところには、その秩序を与えた存在が確認され、その秩序が複雑な集合体であればあるほど、それはより賢明な創造者の存在を証明しています。学者たちによれば、創造世界のすべての存在の中には、驚くべき秩序が保たれています。太陽系においては、水星、金星、地球、火星が、太陽の周りを決まった軌道に沿って順番に回転しています。これらの惑星の動きや地球との距離は、地球上の生命との関連性を持ち、その秩序がわずかでも乱れれば、それが危険にさらされます。
動物の世界を見てみましょう。ハチの巣は、真ん中に通路があり、その両側にハチが入る穴があります。これらの距離は、すべて11ミリメートルで、それが変わることはありません。それらの距離が保たれていなければ、ハチミツができることも、またハチが暮らすことも不可能でした。
人間の体の構造を見てみましょう。体の各器官の構造は、緻密な計画に従って定められており、それぞれの部分が特定の場所に位置しています。例えば、目。目を構成する様々な部分は非常に正確に置かれており、光の反射などの物理的な法則を完全に把握している存在によって、それが作られていることが分かります。さらに詳しくみると、食べ物が胃に入っていく仕組みもまた、緻密な計画によるものであることが分かるでしょう。
これらの例は、創造世界に存在する驚異的ないくつもの現象と共に、この秩序には、優れた創造主、管理者が存在することを示しています。その創造主とは誰かと考えると、それは私たちが神と呼ぶ、非常に優れた存在であることが分かるでしょう。
これまでに、海や川、あるいはプールで泳いでいるときに、溺れそうになった経験はあるでしょうか? また、荒れ狂った海で船やボートに乗っているとき、恐怖を感じたことはありますか?これまで、大きな地震がきたとき、自分を助けることは誰にもできないと感じたことがあるでしょうか?そのようなとき、心の中で、あなたの叫びを聞くことのできる唯一の存在を拠り所としたことがあるでしょう。その心の拠り所が、神です。コーランは、第29章アンキャブート章蜘蛛の第65節で、これについて次のように述べています。
エ「船に乗り、海の真ん中で恐ろしい問題に直面したとき、彼らは心の底から神を求める。だが、その問題を無事にくぐりぬけて陸に着いたとき、再び多神教徒に戻る」
シーア派6代目イマーム、サーデグは、このように話しています。ある日、神は、預言者ダーヴードに、ある女性のもとに行き、彼女に天国に行くと知らせ、天国でダーヴードの話し相手になると伝えるよう啓示を下しました。ダーヴードは女性の家に行き、その扉を叩きました。女性は出て来ると、ダーヴードに言いました。『なぜ私の家に来たのですか?』」
ダーヴードは言いました。「あなたへの恩恵について、神から啓示が下りました」 女性は驚いて言いました。「その女性は私ではないかもしれません。私と同じ名前の女性である可能性があります。神に誓って、私はそのような高い地位につけるようなことは何もしていません」 すると預言者ダーヴードは言いました。「間違いなく、その女性とはあなたのことです。あなたの人生について少し私に話してくれませんか?」 女性は言いました。「私は多くの苦労をしてきました。そのたびに、耐え忍び、神に感謝をし、その苦しみを和らげてきました。私は神に、苦痛を遠ざけてほしいと願ったことはありません。ただ、私に困難に耐える力を与えてくださいと求めています」
ダーヴードはその言葉に対し、このように答えました。「そのために、あなたはそのような高い地位を手に入れたのだ」