8月 13, 2016 14:26 Asia/Tokyo
  • 化粧タイル
    化粧タイル

今回は、イランの重要な伝統産業、つまり陶器やセラミックの伝統工芸の一部である化粧タイルについてお話しすることにいたしましょう。

イスファハーンにあるモスクの壁の七色のタイル

 

イランはタイルの母国です。タイルはイランで様々な歴史の中で、製造方法の点でも、形成の点でも、多くの変化に直面しました。例えば、イルハン朝、ティムール朝、サファヴィー朝にはタイル細工がピークに達しましたが、繁栄が見られなかった時代もありました。タイルは、セラミックの産物で、決まった温度で焼くことで、半ガラス状のものが生まれ、水をほとんど吸収せず、割れにくく磨耗、圧力に対しても耐久性があります。

 

イランのタイルの歴史は有史以前に遡ります。イラン建築の装飾芸術におけるタイル細工は特別な地位を有しており、遠い昔から、歴史的建造物を装飾するためにそれが使用されてきました。タイルの材質はセラミック、石、さらには金属といったもので、天井や床、あるいは壁を覆うためにそれが使用されていました。多くのタイルをシンプルな四角形や複雑なモザイクの形で目にすることができます。通常タイルはセラミックから作られていますが、時にガラスや大理石、花崗岩などからも作られています。

 

イランにおけるこの伝統芸術は長い歴史を有し、色つきの釉薬がかけられたレンガの使用は、イラン建築の重要な要素の一つとして、イスラム後に、イランから世界各地へと広まりました。その注目に値する例は、トルコのイズニックの町の陶器です。イランの宮殿、公共施設、数多くのモスクには化粧タイルが使用され、その最も重要で有名なものはイスファハーンにあり、この町のあちこちでタイル細工の痕跡を見ることができます。

イスファハーンにあるモスクの壁の七色のタイル

 

イスラムのタイル細工の最古の例は、12世紀から13世紀のものです。タイルに使用されている最も基本的な色はターコイズブルーです。セルジューク朝時代には歴史的建造物におけるシンプルなレンガを装飾するために、ターコイズブルーの釉薬が使用されていました。時にこれらのレンガはクーフィック体の文字を作り出すために並べられていたり、通常のレンガの間に散らされていたりしています。

 

ターコイズブルーのレンガの上に書かれた最も古いクーフィック体の例は、イランの考古学博物館に収蔵されており、11世紀のものです。その中にターコイズブルーのタイルが使用された古い宗教的な建物には、イスファハーンのセイイェドモスク、マラーゲの赤いドーム、ゴナーバードのジャーメモスクがあります。

イスファハーンのセイイェドモスク

 

タイル細工の歴史については、13世紀が始まる前のセルジューク朝時代に、イランでタイルの製造が大きく発展しました。その生産の主な拠点は、イラン中部のカーシャーンで、形や技術の点で異なる様々な種類の非常に多くの数のタイルがこの町で作られていました。八角、六角の星型、十字架、六角形などが互いに組み合わされ、驚くべき美しさを建物の内部にもたらしていました。この時代、単色の釉薬、釉薬の上に多色のエナメルで上絵が描かれたミーナーイー、釉薬の上に金色の上絵が描かれたザッリーンファームという3つのテクニックが使用されていました。

 

サファヴィー朝に入ると、タイル細工に新たな技術が出現し、当時の経済や政治の状況により、七色のタイルが製造されるようになりました。この技術が人気を博した理由は、このタイルが経済的であること、短期間で製造できること、職人が以前の装飾の方法を用いて、それを新たな創造と組み合わせることができることなどとなっています。この手法では、四角形のタイルが使用されており、それぞれが個別に焼かれ、より大きなタイルを作るために並べられていました。

 

この時代の唐草模様や文字は急速に広がり、ガージャール朝時代まで続きました。多くの文字がクーフィック体で書かれ、預言者ムハンマドやイマームたちの言行録や祈祷に関するもので、イラン北東部のネイシャーブールやホラーサーンで見つかっています。この手法では黄色や明るいオレンジが優先的に使用されていました。

 

伝統工芸の多くの分野、とくにタイル細工の歴史に注目すると、タイル細工のテクニックとその技術が、父から息子へ、師匠から弟子へと口頭で伝えられてきたことがわかります。このため、技術やデザインの詳細に関して、一定の例を見出すことはほとんどできません。

 

タイル細工は、いくつかのカテゴリーに分けることができます。その中に様々な小さな破片を組み合わせて作られたモザイクタイルがあります。この種のタイルは、主なデザインに基づいて破片を一つずつ削り、所定の位置にそれらを張り付けていくというものです。また幾何学デザインのタイルもあり、これは幾何学図形を組み合わせて作られています。この他に、格子状のタイルもあります。

化粧タイル

 

七色のタイルはイランの重要なタイルの一種で、釉薬のかかった繊細なレンガを調和させることで作られ、そのそれぞれが全体のデザインの一部となっています。この手法では、職人の趣向やその土地の特徴に基づいた規則的な形のタイルが使用されています。このタイルは四角形、長方形、六角形で、通常15×15センチあるいは20×20センチ、大抵白色で隣り合って並べられ、その後酸化マグネシウムが塗られ、様々な色がつけられています。これらのタイルに使われている色は、黒、白、瑠璃色、ターコイズブルー、赤、黄色、海老茶色の七色となっています。この種のタイルは多くの聖地や史跡で使用されています。

 

タイルの重要な部分は釉薬です。釉薬は硝子のような表面を作り出し、装飾と実用の二つの効用があります。釉薬タイルはタイルで装飾された建物の表面を美しく見せるだけでなく、湿気や水から建物の壁を守ります。イランのタイル細工における単色の釉薬を使用した技術は、伝統を継承したものでしたが、セルジューク朝時代に、クリーム色、ターコイズブルー、コバルトブルーが加えられました。イルハン朝の歴史家アボルガーセム・アブドッラー・イブン・モハンマドは、釉薬の上にエナメルで描く彩色のテクニックに七色を意味する「ハフト・ラング」という名前をつけました。このテクニックは、12世紀の半ばから13世紀の初めにかけての短期間に瞬く間に広まりました。

 

金の釉薬もタイルの装飾において最も知られた技術でした。この技術は最初8世紀にエジプトで硝子を装飾するために使用されていました。この手法では、タイルの母体に白色の釉薬をかけて焼いた後に、銅や銀を含んだ色素で色付けし、再度窯で焼くと、最後に金属のような輝きを放つ作品が出来上がります。

 

タイルはイランの歴史において繁栄し、イランの優れた伝統工芸となっていました。しかしながら今日セメントや石といった材質が入ってきたことにより、タイル芸術の市場は衰退し、タイルは建物の装飾にわずかに使用されるのみとなっている、ということを付け加えておきましょう。とはいえ、イランの歴史的建造物におけるタイルの美しさは見るものすべてを引き付け、過去から現在までのイランの職人たちの他にない芸術を表すものとなっています。