モザイク
モザイクはイランの木工芸に属する非常に古い歴史を持つ伝統工芸です。今回はこのモザイクについてお話しすることにいたしましょう。
ペルシャ語でモザイクを意味する「モアッラグ」は、ばらばらの、つぎはぎの、という意味です。子どもの頃にコラージュという名の工作で遊んだことがあるのではないでしょうか。色のついた紙や布を様々な形に切って並べて貼り付けていき、最終的に木や家、花などの模様や図像が出来上がります。色のついた木で行うのが、モアッラグと呼ばれるモザイクです。
モアッラグは、木や黒色のポリエステル地の上で色のついた木の小片を寄せ合わせて形を作っていく美しい芸術です。モアッラグは様々な材料で作られ、タイル、皮、布、金属、木材が使用されます。
タイル産業が衰退すると、木のモザイクが拡大したと言われています。また、木のモザイクはタイル細工とは無関係で、木材のみで作業が行われていたという見解もあります。というのも、木の組み合わせやモザイクの技術は基本的にタイル細工のやり方とは異なるからです。
モザイクの最も古い作品は、イラン南東部の「消失した町」の発掘で見つかりました。この作品は木の櫛の小片で、その上に幾何学などの模様が彫られ、紀元前5000年期に属し、特別な条件のもとで残されていました。この櫛の模様を見てみると、そのデザインが完全にイランのものであることが分かります。これにより、イランがモザイクの発祥の地で、この地域から他の地域に広まったという説にたどり着きます。一方で、木材は通常の状態では早くに傷んでしまうため、モザイクの作品はおよそ80年前までのものしか残されていません。
二つの作品例は、1934年にアフマド・ラアナーによって、現代の方法で制作されたモザイク画で、二人の旗手が描かれています。この他の例としては、ガージャール朝時代の古い大きな扉を挙げることができ、現在、テヘランの教育省の敷地の北西部に展示されています。この扉の高さはおよそ4メートル半で、幅は3メートル、上部は半円形になっています。この扉は3つの部分に分かれており、一番上は四角形のガラスがはめ込まれ、下の二つは唐草模様のモザイクが施されています。
イランの文化遺産・観光庁の伝統工芸のカテゴリーでは、木のモザイクは木工細工に分類されています。木のモザイクは、図面どおりに色のついた木片を並べることで出来上がります。この芸術は唯一の材料が木であるものの、他の芸術と組み合わせたり、他の材料を使用いたりしたものも見られます。例えば、木のモザイク(モアッラグ)、木彫細工(モナッバト)はどちらも木材を使った工芸ですが、一つの作品に二つが使用されることが可能です。
モザイクに使用されている材料に、貝殻、金銀銅、黄銅などの金属、動物の骨や象牙などを挙げることができます。モザイクは絵画、テーブル、椅子、時計の枠、扉、装飾用の箱といった様々な木の作品に使用されており、このすべての目的は木材の作品に芸術的な豊かさを与えることとなっています。とはいえ、他の芸術と同様、時代の中でモザイクは様々な変化を遂げました。
ナーゾクカーリーと呼ばれるモザイクは、コルデスターン、ケルマーンシャー、西アーザルバイジャーンといったイラン西部の州に広まっています。この種のモザイクは多くが箱や写真の額縁などに施されています。この様式では通常、表図のような模様や幾何学模様などが使用されており、伝統的なデザイン、とくに市松模様が見られます。
この様式では、四角形、長方形といった幾何学模様が、連続した辺や角と共に使用されています。またときには伝統的な木彫や格子を伴っています。この様式ではモザイクが施される際に、そのモザイクの周りを一つ、あるいは複数の層が覆い、これらの層は最終的にモザイクの周りに一本の線を生じさせています。モザイクの厚さは3ミリ以下で、このため「綿密な、精巧な作業」を意味するナーゾクカーリーと呼ばれています。幾何学模様の秩序やモザイクの正確な角度、配置は、独自の技術が必要とされ、この様式では限定された色が使用され、細かな作業がよく分かるようになっています。
ポリエステル地のモザイクは、黒色の糊を組み合わせることで生み出されるモザイクの一種で、急速に広まりました。この種のモザイクは木をそれぞれの形に切った後、モザイクを作業面より上に施していきます。その後、下地をポリエステルの色彩で埋め、同じ面にモザイクの模様が現れるようにします。下地の色は多くに黒色が使用され、モザイクがその上で引き立つようになっています。
この様式では、色が重要性を帯びています。というのも温度や色彩の材料の加減で作品に損失が加わるからです。この種のモザイクは、ついたてやドア、テーブルの表面に多く見られます。
木のモザイクは、調度品などで見られるモザイクです。というのもこの様式の使用により、モザイクの部分と調度品の木材の部分が調和するようになるからです。この様式は最も古いモザイクで、表面や土台のすべてが木材で覆われるようになっています。
木のモザイクには基本的に二つの点が必要とされます。まず適切な色や模様、節などの特徴を持った木を選ぶことです。木はそれぞれ色が異なります。クルミの木は濃淡の茶色、桑の木は黄色、ナツメの木は赤となっています。またナツメの木などは二種類の色があり、外側は明るい色で、内側が暗い色のものは耐久性が強く、内側が明るい色の木よりも切るのが困難です。このため木材の選択は重要となっており、モザイク職人の熟練度の基準となっています。
木のモザイクにおいてもう一つ重要な点は木の切断であり、目的に応じて適した道具を使用し、切断の角度が合っていなければなりません。モザイクに使用される最適の木は、黒檀、ナシ、ホソバグミ、桑などとなっています。