11月 07, 2016 16:40 Asia/Tokyo
  • 大統領選に見るアメリカ人の怒り

アメリカの人々は、8日火曜、大統領選挙の共和党候補トランプ氏か民主党候補のクリントン氏のどちらかに投票し、オバマ大統領の後継者として選ぶことになります。今年のアメリカ大統領選挙では、伝統に反して、権力の引継ぎの過程における粗暴な様子を示しています。

アメリカ大統領選挙の中で、アメリカ社会の政治家に対する激しい怒りが示され、以前にはまったく見られなかった攻撃や行動により、怒りがあらわになっています。

少し前、ノースカロライナ州の共和党事務所が襲撃を受けました。また、ロサンゼルスのウォーク・オブ・フェイムにあるトランプ氏の星型プレートが何者かに破壊されました。さらに、一部の選挙集会では、共和党と民主党の支持者の間で衝突が発生し、流血沙汰となりました。

党内部でも、2人の候補者の支持者が互いに対峙し、候補者が互いに人格を貶めたり、言葉の暴力をふるったりすることも惜しみませんでした。アメリカの人々の怒りは、この数十年のアメリカの社会状況や政治状況の動向により蓄積され、現在、大統領選挙の中で現れたと考えられます。

アメリカの社会学者の調査によれば、アメリカの人々は20世紀末まで、生活状況に対して、相対的に満足していたことがわかっています。この時期、いわゆる「アメリカンドリーム」はまだ生きており、アメリカ市民は一部の問題がありながら、将来を希望的に観測していました。アメリカの経済はこの時期は繁栄しており、経済成長は通年高い水準にありました。人々の納税額は今より少なく、また雇用機会にも恵まれていたのです。

このアメリカの黄金時代、アメリカは人種差別の苦難の時代を乗り越えていました。冷戦が終結し、アメリカは政治的、道徳的な勝利を収め、アメリカの人々はほかの国の人々とよりも自身は優れていると考えていたのです。

言い換えれば、21世紀以前、アメリカの人々は経済的な福祉や社会的な安定、国民の自尊心を持っていました。偏った政党の支持者を除く、多くのアメリカ人にとって、共和党、あるいは民主党のいずれが政権を掌握し、議会で過半数を占めても、それほど違いはありませんでした。2000年の大統領選挙が法的な係争に変わっても、アメリカ社会は政治的な緊張を体験することはなかったのです。

アメリカの人々にとっての20世紀のすばらしい時代は、21世紀に入ってすぐに終わりを迎えました。2001年9月11日の同時多発テロでは、アメリカは軍事的な攻撃を受けました。ニューヨークの世界貿易センタービルの崩壊とともに、アメリカの人々が感じていた安心感は崩れ去り、恐怖が広がりました。アメリカの人々は、突然、アメリカ政府は莫大な予算を軍事費や防衛費に投じているのにもかかわらず、ワシントンやニューヨークの市民の安全を守ることができないと感じるようになりました。

アメリカ政府はテロ事件の再発に対する人々の恐怖に反応し、警察国家的なやり方を推進しました。国内では、人々は絶えず情報機関の監視を受けるようになりました。また、電話は盗聴され、すべての疑わしい行動がテロリストへの協力行為とみなされました。アメリカ国外においても、莫大な費用のかかるアフガニスタンとイラクの戦争がアメリカの人々に強要されました。国民の税金から、衛生や教育、インフラプロジェクトに使われるはずの1兆ドル以上が、イラクとアフガニスタンの戦争に消えたのです。この2つの戦争の結果が、アメリカ市民により大きな安全をもたらすことはありませんでした。

2001年の同時多発テロによる治安上の危機と同時に、アメリカの経済も不動産バブルの崩壊により、2007年から下降傾向にありました。銀行は次々に倒産し、銀行やクレジット会社の倒産により、一方でアメリカの人々の莫大な貯蓄が失われ、もう一方で数百万人のアメリカ人が、不動産ローンを返済できないことにより、住む家を手放しました。

アメリカの金融危機は、生産にも影響を及ぼしました。工場は労働者を解雇せざるを得なくなり、失業率は10%を上回りました。アメリカ政府は危機を抑制するため、数千億ドルの資金を経済に注入しましたが、これにより、政府の負債は2倍に膨れ上がりました。アメリカの国の資金がそこをつき、緊縮政策が進められ、そのはじめとして、福祉計画が修正されました。この計画は、多くの貧しい人々や低収入の人々を対象としたものでした。

福祉計画が弱体化すると、多くのアメリカ人が貧困化しました。アメリカンドリームは過去のものとなったのです。アメリカの政治や治安、経済が混乱すると、再び人種差別が復活しました。社会的な福祉と繁栄の時代、有色人種の存在は、経済的繁栄と労働力の需要を解消するため、好ましいことだと見られていました。しかし、治安の悪化と金融危機の時代が到来すると、一部の白人は少数派や不法移民にその責任があるかのように見せようとしました。不法移民は白人の雇用機会を奪い、またイスラム教徒などの宗教団体はテロリストに加担したとして非難されました。

アメリカは数十年間の人種的に寛容だった時代のあと、市民権運動の緊張をはらんだ粗暴な時代に戻りました。今回、警察や司法機関の人種差別は物議をかもしました。警官の人種差別的な行動を受けて、アメリカの多くの都市は暴力的な抗議の場となりました。人種主義者は、怒りを感じている黒人に対して断固とした政策を採るよう求め、一方で黒人側も、武器を使用した抵抗運動を進めています。不法移民は退去しろという叫びは、移民出身のアメリカ人の多くの抗議に直面しています。

現在、アメリカ社会は3つの抗議運動が抱えています。アメリカの市民団体はオバマ政権が社会主義的な社会経済システムを構築しようとしているとして非難してます。彼らは安価な保険制度のオバマケアなどの法により、自由市場経済の価値が失われてしまうと考えています。このような団体は、保守的な理想を守るため、ティーパーティーによる抗議運動を組織しました。

同時に、経済格差や富裕層の貪欲さに対抗するための運動も形成されています。ウォールストリート占拠運動は、アメリカの金融寡頭制を脅かし、体制の浄化を求めています。

この政治的、経済的な本質を持つ2つの運動とともに、「黒人の命は大切だ」とする社会運動は、アメリカの人種差別的な雰囲気に変化を起こしています。この運動は、アメリカを構成するすべての人種や宗教を持つ人が、法の平等を享受できるようなかたちで、アメリカの治安と法に関する構造における根本的な変化を作り出そうとしています。

アメリカでは社会が現状に大きな不満を抱える中で、大統領選が行われようとしています。民主党のサンダース上院議員と、共和党の大統領候補トランプ氏は、アメリカの人々の大きな不満と怒りの波に乗り、選挙戦に勝利しようとしました。

サンダース上院議員は、アメリカ民主党の首脳陣の非難に直面し、大統領選の出馬を取り下げました。一方でトランプ氏は、アメリカに再び繁栄をといったスローガンで、アメリカ社会で不満を感じている人々、特に共和党支持者のおおくの支持を集めました。こういった人々は、トランプ氏がスーパーマンのように問題を解決し、アメリカが過去の栄光の時代に戻ることを希望しています。

トランプ氏は、2016年の大統領選挙が、アメリカが救済される最後の機会だとしています。このため、アメリカにおける社会、経済、アイデンティティの危機で被害を受けた人々が、自身とアメリカのために暴力に訴えるのは、驚くようなことではないのです。

民主党候補のクリントン氏も、2016年の選挙がアメリカの民主主義が救済される最後の機会だとしています。クリントン氏の支持者も、民主主義の救済のためなら、暴力に訴えることを拒むことはないでしょう。このため、アメリカの人々の怒りは、2016年のアメリカ大統領選挙を言葉の、そして物理的な暴力の点でこれまでには見られなかった選挙に変えたのです。

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