ヨーロッパに渡るシリアの遺産(画像)
シリアは文明の地として知られています。首都のダマスカスや北部アレッポ、中部パルミラは世界で最も古い都市であり、初めて農業社会が生まれ、大文明が築かれました。
内戦や、ISIS、ヌスラ戦線などのテロ組織の破壊行動により、シリアでは次世代に引き継ぐことのできる文化的、歴史的遺産が少なくなっています。
最近、危機遺産の保護に関する2日間の会合がアラブ首長国連邦のアブダビで行われ、これに40カ国の代表が参加しました。この会合は、テロ組織による歴史都市、特にイラクとシリアの文化遺産に対する攻撃の激化、破壊行為や略奪の深刻化の影響を受けて行われました。
この会合の開会式で、ユネスコのボコバ事務局長は、「現代において、これほど遺物の破壊や紛失が発生しているときはこれまでなかった。これらは現在、シリアやイラクで行われている」と語りました。ボコバ事務局長はまた、こういった破壊活動は戦争犯罪だとして、「このような行動は文化浄化活動であり、国際社会は協力してこの遺産の消失を停止すべきだ」と強調しました。
この会合の目的は、1億ドル規模の支援基金の設立であり、また、危機遺産を安全な場所で保護するための国際的なネットワークの構築といわれています。フランスのオランド大統領はこの基金の設立が急務であるとして、3000万ドルを支援しました。そのほか、ペルシャ湾岸の首長国や中国もこの基金への支援を行いたいとしました。この基金は、スイス・ジュネーブに設立されます。
表面的には文化遺産の保護に同情的な発言が行われている一方で、安全な地域によるネットワークの構築をめぐる懸念も存在します。たとえば一時的に保管された文化財をどのように破壊や盗難から守るか、あるいはどのようにそれを返還するか、といった事柄です。
このアブダビの会合に参加していた情報筋は、脅威にさらされている歴史遺産について、国の主権の問題により、このような文化財は、その国の政府がこのような要請を行う場合にのみ国外に持ち出せると語りました。この計画によりますと、それらははじめにその国内の安全な地域に移送され、その後近隣諸国に、そして最終目的地となる国に搬送されます。
しかし、少し現実的な見方をすれば、この言葉はスローガン的な色合いが強く、実際には別の問題が起きていることがわかります。ヨーロッパ諸国は文化遺産の保護の先駆者であるとともに、強奪・密輸された古代遺物が送られる最終目的地であり、欧米のコレクターはシリアの古代遺産を所有しているのです。
最近のロシアトゥデイの報告によりますと、ISISはシリアから略奪した文化遺産の売却を大々的に始めているということです。このテロ組織は欧米の大手のコレクターを知り、シリアの略奪品をトルコ経由で売却しています。略奪された多くの骨董品は、その前にインターネットにより、外国のコレクターに売却されているのです。しかし、最近、これらの遺物はトルコに移送され、トルコから欧米に送られています。
シリアの金融制裁研究センターのファーヌーシーエ所長は、「ISISはシリアの古代の遺物を売って、巨額の資金を手にしている。こういった骨董品や盗掘品は、彼らにとって重要な資金源となっている」として、ロシアトゥデイに対して、「明らかにISISはこれらの遺物を売る上で強力な仲介人を有している。なぜならこういったシリア中部・パルミラからの略奪品は簡単に、トルコを通じて欧米のコレクターに売られているからだ」と語りました。
ISISは現在、シリアで4000点以上の古代の遺物を手に入れ、毎年数百万ドルの収入を略奪により得ています。ロシアの調査員団は、これ以前にテロリストがパルミラの芸術的な古代遺産を売ることで2億ドル以上を稼いでいるとしました。
テロ組織によってブラックマーケットに供給された古代の遺物の中には、8000年前以上にさかのぼる遺物もあり、これらは、パルミラなどの中部ホムス、西部イドリブ、北部アレッポからの盗品で、テロ組織の占領下にあったものです。
研究者によりますと、2011年、シリア危機が発生した当初、数千点の古代の遺物がさまざまな組織によりシリア国外に持ち出され、アンティークのブラックマーケットで売却されていたということです。彼らはこの行動の目的は、シリア政府に対する戦争の資金とするため、またはこれらの組織の指導者による蓄財行為だとしています。自由シリア軍を自称する勢力の司令官は、古代の遺物を売ることで莫大な富を得て、スペインやドイツ、イギリス、アメリカの一等地を所有したり、豪邸を持つようになりました。
しかし、最近、スイスの検察も、テロリストがパルミラから略奪し、カタールに密輸された多くの古代遺産を発見・押収しています。これらの古代の遺物は課税されず、誰もその積荷が何かを監視することのできない、スイスのジュネーブに集積されています。
イギリスの新聞ガーディアンによりますと、発見された古代の遺物の中には、いくつかの石像の頭、王冠や2つの石版などがあるということです。また、5点のイエメンやリビアからの古代の遺物も、こういったもののなかに見られます。スイスの検事総長は、これらの発見された遺物は、もともとあった国に戻すという法的命令が出るまで、ジュネーブの歴史芸術博物館に保管されることになると発表しました。
およそ2年前、イラクとシリアのテロリストの攻撃が頂点に達していたとき、数人の外交官や専門家が、ユネスコによるイラクの古代遺産に関する会合で、テロ組織ISISは資金調達のために、現在イラクの古代遺産を売却していると警告を発しました。一部の目撃者によりますと、ISISはこれらの品々をイラク国外に持ち出すため、トンネルを作り、ヨーロッパやアジアに売りに出しているということです。
一方、一部のシリアの古代遺産が保護されるうえでの希望もあります。シリアのアブドルカリーム博物館・古代遺跡担当総局長は、テロリストの攻撃から古い遺物を守るために、一部の遺物を安全な場所に移送すると宣言しました。
アブドルカリーム総局長は新聞デイリー・テレグラフのインタビューで、次のように語りました。
「我々は古代遺産をISISの手に渡らないよう安全な場所に移送しなければならない。これらの古代遺産に危険が生じる場合、それらを24時間以内にレバノン・ベイルートの安全な場所に移送することができる」
確かに、シオニスト政権イスラエルがシリアの文化財の略奪に関与していることはおどろくことではありません。シリアはユネスコに対し、シオニスト政権がクネイトラ州のゴラン高原で違法な発掘作業を行っているとして抗議を行いました。ユネスコはこの抗議を受けて、シオニスト政権に対しこれに関する説明を求めました。
1954年に締結された武力紛争の際の文化財の保護に関するハーグ条約によれば、文化遺産の保護は衝突の当事者の責務による協力から行われ、シオニスト政権にはシリアの文化遺産を発掘、略奪する権利はないとされています。
興味深いのは、フランスのルーブル美術館が、シリアやイラクの紛争地域に残っている世界的な歴史的財産をフランス北部の安全な場所に保管すると提案したことです。フランスのオランド大統領も、こういった遺産をリヨンの機関に保管すると提案しました。
しかし、ルーブル美術館は、世界各国の文化遺産数千点に加えて、イランの歴史的遺産の多くを占有しているということを知っておいても悪いことではないでしょう。この美術館にはイランの歴史遺産2500点が収蔵されていますが、それらはさまざまな形で盗難された品々です。これらの一部は、運ぶのに大型のトレーラーが必要になりますが、どのようにイランからフランスに移されたのかはよくわかっていません。
しかし、これらはイラク経由でパリに運ばれたと考えられるといわれています。イラン国外に持ちだされた歴史遺産の大部分は、19世紀後半のガージャール朝の王、ナーセロッディーンとモザッファロッディーンの時代に移送されたのです。
現在、オランド大統領は終戦までシリアの遺産を預かりたいとしていますが、これは信用に値するものなのでしょうか。