May 20, 2017 18:21 Asia/Tokyo
  • 預言者イドリースとその民の物語
    預言者イドリースとその民の物語

今回は預言者イドリースとその民の物語をお届いたします。イドリースは、アーダムの子孫の一人で、偉大なる神の預言者です。コーランでは、彼の名が称賛されています。

イドリースは、人々に静かに耳を傾けるよういざないながら、神のメッセージを彼らに伝えようとしていました。

「人々よ、神の恩恵に対する最高の感謝とは、神の僕たちに善を行うことである。偽りの誓いを立ててはならない。神に対して、純粋な目的を持ちなさい。また、卑しい方法によって金儲けをしてはならない」

 

イドリースの言葉がまだ終わっていないというのに、人々はそれぞれ、思い思いの方向へと散っていき、イドリースの言葉に耳を傾けようとはしませんでした。イドリースは、人々を導く任務をつかさどっていました。しかし、人々は、彼の言葉を聞こうとはしませんでした。圧政的な王が人々の間に恐怖を植え付けており、王の言葉が、人々の財産と命に影響を及ぼしていたのです。王は自分の思うがまま、傍若無人に振舞っていました。

 

その日、王は気分転換のために、統治の拠点を離れていました。王は道の途中で、緑豊かな草原を見つけました。そこで、家来たちにそこを占有するよう命じました。事の成り行きに驚いた、その草原の持ち主が王の許にやって来て言いました。

「王様よ、この土地は、私と家族の生活の手段になっております」 

王は平然と言葉を返しました。

「それならば、この土地を私に売りなさい」 

土地の持ち主は必死に答えました。

「もしこの土地を売ってしまったら、私は一生、他人の世話になって貧しく暮らさなければならなくなります。お売りすることは叶いません。」

 

男の言葉に憤慨した王は、王妃に向かって言いました。

「この土地は非常に美しい。だから私のものになるべきだ。だがこの男が土地を手放そうとしない。何とも忌々しいことだ。」 

王妃は言いました。

「それならことは簡単です。私たちの側近を判事の許に送り、嘘の証言をさせるのです。この男があなたの宗教に背き、迷った人々の仲間になっていると。そうすれば、あなたの悩みはたちまち解決するでしょう」 

そうして、王と王妃の高らかな笑い声が辺りに響き渡ったのでした。

 

王の側近の偽りの証言により、土地の持ち主は捕らえられ、無残にも殺されてしまいました。そのとき、神の怒りの海が沸き起こり、預言者イドリースにこのような啓示が下されたのです。

「この圧制者の許に行き、伝えるがよい。『あなたは偽りによって、一人の僕の命を奪った。彼を殺しただけではない。それによって、その家族は保護者を失い、路頭に迷うこととなった。覚えておくがよい。神は厳しい報復をあなたに与えるだろう』」

 

イドリースは神からのメッセージを王に伝えました。しかし、神の存在など否定していた王は、神の言葉に心を動かすどころか、怒り狂って言い放ちました。

「私の手で殺される前に、ここから出て行くのだ!」

 

策略家の王妃が、王をなだめて言いました。

「神の言葉など恐れることはありません。今すぐに家来たちを遣わして、イドリースを捕らえ殺してしまいましょう」

 

しかし神は、いち早く預言者イドリースに王の策略を知らせました。イドリースは神の命によって町を離れ、洞窟に身を隠しました。神は、天使をイドリースの許に送り、毎晩彼に食事を届けさせました。自分の民の頑なな心や無関心な態度に心を痛めていたイドリースは、神に祈りを捧げました。

「神よ、私があなたに求めるまでは、どうかこの町に慈悲の雨を降らせないでください」

そして、このイドリースの祈りは神に聞き入れられたのです。

 

人々の間からざわざわとどよめきが起こりました。一人の人物が慌てた様子で市場に入ってくると、言いました。

「何があったか知っているか? 本当に、あれほどの権力と威厳を誇っていた王様が、重い病にかかり、死に掛かっているというではないか。王妃も犬に食べられてしまったそうだ」 

それを聞いた群衆の中から声があがりました。

「では、世界の創造主である神の約束が果たされたということだ。これは、あの罪のない男の、圧政的な王への報復に違いない」 

すると、別の所からも誰かが叫びました。

「いや、責め苦を受けるのは王たちだけではないのかもしれない。既にこの町は荒廃し、干ばつに襲われつつある。」

 

こうしてどれほどの時が流れたでしょう。人々は生活の余りの苦しさに、長老の許に集まり、口ぐちに言い合いました。

「イドリースが姿を消してから、20年が過ぎた。この間、一滴の雨も降っていない。人々の生活は非常に苦しくなっている。畑は荒れ果て、果樹園も乾ききってしまった。どうにかして対策を立てなければならない」 

皆の話に聴き入っていた長老が声を上げました。

「そろそろ、我々も気づくべき時がやってきた。これほど多くの災厄は、イドリースの呪いに違いない。我々は彼の導きを受け入れなかった。イドリースが、私たちの上に雨を降らせないようにと、神に求めたのだ」

 

長老は続けて言いました。「だが、イドリースの神は、彼よりもずっと慈悲深く、その慈悲はより広大である。さあ、神に祈り、我々の罪の許しを請い求めよう」

 

人々は皆で集まり、謙虚な気持ちで神に祈りを捧げ、心から助けを求めました。慈悲深い神もまた、彼らの罪の悔悟を受け入れ、イドリースを町へと帰還させました。人々はイドリースの許にやって来て、自分のたちの行いの罪を認め、詫び、それを悔い改めました。そのとき、預言者イドリースは、神に慈悲の雨を求めました。それから間もなくして、空が一面厚い雲に覆われ、神の慈悲の雨が人々の上に降り注ぎました。

 

こうして長い年月が過ぎました。イドリースはなおも、自分の民を導き続け、神はイドリースに非常に高い地位を授けました。コーラン第19章マルヤム章マリア、第56節と57節には次のようにあります。

 

「また、この書物の中で、イドリースのことを想い起こしなさい。彼は真実を語る預言者であった。我々は、彼を高いところへと上らせた」

                         

 

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