北海道大学、大学院、経済学研究員、地域経済経営ネットワーク、研究センター研究員、村上明子さん
北海道大学、大学院、経済学研究員、地域経済経営ネットワーク、研究センター研究員、村上明子さん
1.今回のイランご訪問の経緯についてお聞かせください。
今回、イランに参りましたのは「イラン-日本女性起業家比較研究」の仕事で参りました。この事業は、笹川平和財団の中東イスラム基金事業室が進めております「イランと国際社会の関係構築支援」事業の中の一つです。この「イラン-日本女性起業家比較研究」には、この10月から参加しております。
ところで!「この10月から参加している」という経緯には、実は不思議なご縁があります。実は今年の10月は、モハッラム月ということでちょうど私はイランを旅行していたんです。アーシュラーの日に、アルダビールのエマーム・ザーデ・サーレで清掃ボランティアに参加して、その後、テヘランやガズヴィーン、カーシャーンなどを回ったのですが、各地でエマーム・ザーデ参りをしました。「またイランに来れますように、研究費を獲得できますように」と。そしたら、すぐに笹川平和財団から共同研究事業参加の打診があったのです。これ幸いと参加させて頂くことにしたのですが、本当に不思議なご縁を感じています。
2.笹川中東イスラム基金の「日本とイランの関係構築支援」プロジェクトと
は、どのようなものなのでしょうか。(笹川中東イスラム基金の「日本とイランの関係構築支援プロジェクト」に参加されることになったきっかけを中心に、お話されやすい方向でご自由に)
笹川平和財団の中東イスラム基金は、特にここ数年、イランと日本との関係をさらに緊密にしていくための協力事業に力を入れているということで、文化、芸術などの分野にも光をあてた様々な試みを進めています。
今回のお話は、私がイランのNGOや社会貢献活動の研究をしているということで、イランを研究されている方から紹介して頂いたんです。
私が参加している「イランと日本の女性起業家の比較研究」プロジェクトは、女性起業家の活動、実態と課題、制約について、イランと日本の経験を共有して政策的支援の方法を考えていこうという試みです。
日本とイランは社会背景がずいぶん違うようにも思われますが、女性に関して共通する部分も実は少なくないと思われます。特に家庭の中での役割などは、お互い共感する部分が大きいのではないでしょうか。
ちなみに日本からの事例としては「ビジネス経験に乏しく家庭責任を負う『ママ起業家(Mompreneur)』にフォーカス」することを考えています。日本では、ベンチャーや規模の大きな事業を興す女性起業家は一般的な創業支援政策をすでに活用できていますが、女性特有の課題、例えば育児、介護等家庭責任との両立や、それからビジネスやマネジメント経験の不足など、問題を抱えている創業希望者向けの政策が不足しています。こうした女性の政策ニーズや有効な支援策を把握するために、専修大学の鹿住倫世先生が中心となってアンケート調査を進めています。
イランでもこちらのカウンターパートの財団に同様のアンケートを行って頂いて、イランの女性起業家の特徴や支援の方法について議論していく予定です。これらの成果は5月にこちらで開かれるワークショップで、報告する予定です。
イランからは外務省の国際問題研究所:IPISと女性・家庭環境担当副大統領府、
そして女性省と連携する NGO の一つである「女性と若者のための社会起業家開発財団」が参加しています。
「近代経済学の考え方では経済活動が活発化すると分業が進む。それに伴って職場の領域と家庭の領域もくっきりと分かれて、それぞれの領域での分業も進む」というふうに考えられています。
3.現在、ご研究されているテーマについてお聞かせください)。
私個人の研究テーマといいますか、問題関心はイラン女性の仕事や働き方についてです。それは「外でお仕事をされている方」という意味だけでなくて、家庭や地域社会も含めた広い意味での働き方に大変惹かれるものがあったんですね。
それで、「イラン女性の社会貢献活動」という視点から、女性の皆さんがどのように活躍されているか、色々とお話を伺ってきました。こちらでは、ボランティア活動や慈善活動が本当に活発ですし、それが宗教行事など伝統的な行動様式や、例えば環境問題など社会全体で共有されている問題意識と結びついて、個人個人の行動が「社会貢献活動」として本当に大きな役割を担っていると感じました。個人個人の行動というのは、例えば寄付行為であるとか、ボランティア活動や病院訪問などですが、こういった活動が本当に普通の日常行為として浸透しているんですね。また、こういった活動をNGOとして効果的に進めていこうという取り組みも活発化しているようです。社会的課題の共有と解決へ向けての行動力には、色々と考えさせられます。
それと、これは将来的な希望なのですが、コミュニティ開発といった方向も含めて、研究を発展させられないかと考えています。例えば、イラン各地で歴史的な建造物をリノベーションして観光産業に活用していこうという動きが活発化していますが、地域開発計画や文化資産の保護活動など、様々な方面からアプローチが進められているようです。伝統を守りながら付加価値を高めて地域に即した開発を進めていこうという試みについても、議論を重ねていきたいと考えています。最近の日本でも、地域の個性を生かした開発が注目を集めていますし。お互いに学び合う部分が少なくないと考えています。
4.日本は今後、イランからどのような考え方などを学ぶことができると思わ
れますでしょうか。
こちらの皆さんの柔軟な発想と積極的な行動力にはいつも圧倒されます。今回の私の訪問目的である「イランと日本の女性起業家比較研究」プロジェクトにしても、イラン方々の起業家精神に学ぶところが大きいと感じています。
例えば日本では、新卒一括採用という独特の雇用慣行があって、「就職活動シーズン」があります。「決まった時期に就職活動をして雇用される」という前提で学生時代を過ごす人が多いので、学生の頃から起業することを具体的に考えている方は相対的にそれほど多くないでしょうし、そもそも起業する「リスク」を好まない傾向があると思います。
対して、イランの方は起業に対して非常に積極的です。もちろん、経済構造の違いもありますが、常にアンテナを張り巡らせて、市場のニーズや人々の好み、これから人気が高まりそうな新たなサービスの可能性など、常に議論しているようですね。
例えば私自身、イランの皆さんに、日本関係のビジネスチャンスについて、色々な方面から質問されます。私の専門が経済学ということもあるのでしょうが、日本人の買い物の頻度であるとか生活上の細かな好みなど、私自身が意識していないようなことまで質問されます。イランの方々がどのようにマーケットを掘り起こしていくのか、身をもって実感しています。
既に存在している市場だけではなくて、これから自分自身が新たな市場を創造していこうという、熱意を持っている方が本当に非常に多いですね。こういった「市場」に対する鋭い嗅覚や積極性は、昔から商業が活発だったことも関係あるのかもしれませんね。