4月 10, 2018 20:13 Asia/Tokyo
  • カスピカイアザラシ
    カスピカイアザラシ

今回は、水生哺乳動物の中で最も珍しいとされる、カスピカイアザラシの生態についてご紹介することにいたしましょう。

カスピ海

 

イラン北部に横たわるカスピ海は、世界で最も大きい湖であり、この湖に注ぐ河川はカスピカイアザラシの生息地となっています。しかし、残念ながら現在、様々な理由により、この稀少動物の存続が脅かされ、この数十年でその個体数が激減しています。このため、2008年にカスピカイアザラシはIUCN・国際自然保護連合で定める、絶滅が危惧される生物のレッドリストに掲載されました。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシは、カスピ海に生息する唯一の哺乳動物です。この動物は非常に活発的ですが、陸地に上がるとそれほど動かず、時折休息したり、或いは出産のときのみ海岸にやってきます。カスピカイアザラシは、水中での生活に適応するため、体の一部が進化しました。例えば、手足の指の間には幕のような水かきがついており、これにより手足は泳ぎやすいようになっています。また、後ろ足が尾に近い、体の最も後ろの部分についているため、この動物にとって地上を歩くのは非常に困難です。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシは、体の形が流線型になっています。また、瞳は比較的大きく、耳は非常に小さく、太く長いヒゲがはえています。この動物の上あごには10対、下あごには8対の歯が生えています。体の表面は短い毛で覆われており,生まれたときには羊毛のように柔らかく白い毛が沢山生えています。体毛は、年齢や季節ごとに変化しますが、灰色であることが多くなっています。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシの背中には、比較的大きく、色の濃い斑点があります。この動物の体色は、年齢が上がるにつれて明るい色になり、斑点は色が濃くなり数が増え、メスの斑点の方が明るい色をしています。オスは体長がおよそ150センチ、メスはおよそ140センチで、体重は60キロから80キロです。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシの体は流線型であることから、水の抵抗力を受けることなく、魚のように自由自在に水中を泳ぎ回り、必要な獲物をとることが出来ます。また、頭と胴体の間にくびれがないことから、首を大きく回すことはできません。このため、カスピカイアザラシは陸地に上がった時には、危険が襲ってきたときにすぐ水中にもぐれるよう、水の方向を向いて横たわります。

 

 

カスピ海の環境は、カスピカイアザラシにとって全てが都合よくできています。彼らは水より体重が重いため、楽に潜水でき、湖の深いところに容易にもぐることが出来ます。また、体の表面に沢山の毛が生えていることから、水温が氷点下にまで下がり、海面が凍結するような寒さにも耐えられます。ちなみに、カスピカイアザラシの体の表皮1平方センチメートルあたり、およそ300本から500本の毛が生えています。また、この動物が寒さに強いもう1つの理由として、彼らの皮下脂肪が挙げられます。これは、気候が比較的温暖な夏の間に、エサが少なく寒い冬に備えて、体内に蓄えられます。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシは、カスピ海全域に生息しており、交尾・出産、繁殖期、脱毛期、そしてエサを捉えて栄養を蓄える時期を、広大なカスピ海で過ごしています。交尾、出産、繁殖期、そして脱毛期まではおよそ1,2ヶ月で、この時期はロシアやカザフスタンの沿岸部の分厚い氷に囲まれて過ごします。そして、自由に動き回ってエサをとり、栄養を蓄えるために、春、夏、そして秋にはカスピ海南部の水深が深く温暖な海域、即ちイランの沿岸部にやってきます。それは、この海域にカスピカイアザラシの主要なエサとなる、カスピカイニシンの群れが生息しているからです。また、カスピカイアザラシはボラ、軟体動物、甲殻類、そのほかの魚も食べます。

カスピカイアザラシ

 

11月の初めから12月の終わりごろの時期は、カスピカイアザラシが他の海域に移動し、妊娠する時期に当たります。ただし、このときに出産できる状態にない場合には、移動せずにカスピ海の南部や中部の海域に残留し、その冬一杯を過ごします。氷点下という気候条件や大きな氷の塊に覆われた環境は、交尾や繁殖に最も都合の良い場所といえます。それは、陸上よりも天敵が少なく、安心して子どもが動き回れるとともに、1日のうち数時間は日光浴ができるからです。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシのメスは、オスよりも早めに移動し、出産場所を確保するため、本格的な寒さが到来し十分な量の氷が出来る前に目的地に到着します。出産や子育てに都合の良い、十分な大きさの氷の集まりが見つかると、巣穴に似たような住処を作り出します。妊娠中のメスは、夏の間に十分な栄養をつけ、脂肪を蓄えた状態で出産します。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシのメスは、9ヶ月から11ヶ月間の妊娠期間を経て、1月の終わりから2月の初めにかけて出産します。子どもの体重は3キロから4キログラムで、身長はおよそ65センチほどです。カスピカイアザラシの子どもは当初、白く柔らかい毛が生えていますが、2週間後には体毛が抜けて、濃い灰色の毛に生え変わります。

カスピカイアザラシ

 

2月の中ごろになって春が近づくと、カスピカイアザラシの子どもは少しずつ住処から出てきて、数百キロ離れた海域への移動の準備を始めます。この段階で、母親は何回かに渡り、子どもを海水に突き落としますが、子どもたちはすぐに氷の上に戻ります。もっとも、その後生き残るためには、彼らにとってカスピ海に飛び込むしか道はありません。最終的に、母親が海水に飛び込み、水の中に入るのをためらっていた子どもたちが氷の端に取り残されます。カスピカイアザラシの子どもたちは、思い切って海水に飛び込むまでに数時間、あるいは1日、2日かかる可能性もありますが、最終的には空腹に耐えられず、彼らもカスピ海の大海原に向かうことになります。

 

この期間中に、再び交尾が始まり、2,3匹のオスが1匹のメスをめぐって争い、メスは最終的な勝利を収めたオスを配偶者に選びます。子どもたちは気性の荒い親に踏み潰されることを恐れ、水に飛び込んで、初めて自分でエサをとるという行動を開始するのです。

カスピカイアザラシ

 

カスピカイアザラシには、厳しい自然環境の中で生き残るために、その後も数多くの困難が待ち受けています。