目の健康と視力の強化
今回はまず、イスラムの教えにおける目の健康と視力の強化についてお話し、後半では心の健康について考えることにいたしましょう。
イスラムの指導者たちは、常に人間の心と体の健康に注目してきました。シーア派8代目イマーム・レザーは、当時の世界で最大級の医学書を著した人物の1人です。彼は、医学に関する書物を執筆し、当時の為政者マアムーンに献上しました。マアムーンは、この書物を黄金を溶かした水で書くよう命じており、そのためこの書物は『金箔の書』と呼ばれています。
イマーム・レザーが著した『金箔の書』は、医学や学術に関するこの偉人の価値ある名言の数々が収められており、各種の食物や飲料の特質、保健衛生を維持する方法を教示しています。また、心の病気や障害に対処する方法に注目し、このテーマについて論評しています。ここからは、衛生観念の遵守と体の健康の維持に関するイマーム・レザーの名言の一部をご紹介してまいりましょう。
イマーム・レザーは、人間の体を完全な小国に例えた初めての人物とされており、次のように述べています。
“人間の体の構造は、1人の国王が治める領土に似た構造をもとに造られている。体における国王は心臓であり、その側近とも言えるのは血管を初め、脳神経系のシステムである。心臓は、国王がいる宮殿に相当し、肉体は国王が治める領地や政治体制に当たる。そして、国王を助ける側近や軍隊は、手足や口舌、目や耳などの各部位だといえる”
イマーム・レザーは、人間の体の各部位やそれらが生きていることの重要性について、目を初めとする体のそれぞれの部位に関する例えを用いています。彼は、人間の目を灯りにたとえ、耳を外部からの情報を受け入れる重要な源だとし、口舌は歯や唇の助けにより言葉や考えていることを物語る手段であるとしています。
イスラムの教えや伝承においては、目の健康の増進や視力の維持強化に関する多くの事柄が述べられています。イマーム・レザーは、目の健康の維持には爪を短く切ることが効果的であるとしています。イマーム・レザーに関しては、次のような伝承があります。目の痛みを抱えているある人物が、イラン北東部ホラーサーン地方でイマーム・レザーに遭遇した際、イマーム・レザーはその人に対し、この状態から抜け出せる方法を教えて欲しいかとたずねました。その人が、はい、と答えると、イマーム・レザーは、では毎週木曜日に爪を切るがよい、と告げました。その人は、毎週このことを実行し、遂に一生涯にわたって目の痛みから解放されたということです。
シーア派6代目イマーム・サーデグも、次のように述べています。
“毎週爪を切る人は、目の痛みに悩まされることはなく、それぞれの指の爪の下から痛みが流出する。また、アンチモンの粉末は目の輝きを増し、まつげを太く豊かにする”
イスラムの教えによれば、歯を磨くことも視力の強化に効果があるとされています。イマーム・レザーは、歯を磨くことを視力の強化の源であるとし、次のように述べています。
“歯を磨くことは目の輝きと毛髪の成長を促し、流涙症(なみだ目)を解消する”
イマーム・サーデグは、次のように述べています。
アンチモンで眉毛やまつげを染めることで口の匂いがよくなり、また歯を磨くことで目の輝きが増す”
アンチモンで眉毛やまつげを染めることは、イマームたちの間で大きく注目されています。これについて、イマーム・レザーは次のように述べています。
“まつげを染めることを忘れてはならない。なぜなら、それによって目の輝きが増し、まつげの成長が促進されるとともに、口の匂いもよくなるからである”
さらに、イマーム・サーデグは伝承において次のように述べています。
“アンチモンは育毛を促し、涙目を解消すると共に、目の輝きを増やすものである”
それではここからは、心の健康についてお話することにいたしましょう。
前回もお話したように、健康は心と体の、そして社会的に完全な幸福が確保されているという、全体的な概念を指します。WHO・世界保健機関の定義づけによれば、健康とは単に体に異常や病気がないことではなく、精神的、社会的、経済的な問題がないことをも意味し、体の健康は社会の全ての構成員のためになる、とされています。心の健康は、これらの全ての要素に加えて、希望や喜び、満足感、革新、心の安らぎに加えて、その人が現世と来世で救われることになります。
イスラムの教えでは、健康は完全であることとされ、色々な意味で完全の極致を極めるための前段階とされています。このため、イスラム教徒に対しては、常に、そしてどこにあっても健康を求めることが奨励されています。人間が、物的、精神的な2つの側面を持つことから、人間の健康も身体面と精神面の2つに分類されます。物理的な健康は、身体や表面上の健康を指し、精神面での健康は心の内面の健康を意味します。即ち、人間の体がいくつもの病気や弊害にさらされると、その人の心や精神も様々な病気や脅威に直面することになり、その予防と治療は、神の預言者たちや心の病気を専門とする医師たちが担っています。
何かを考える際に心の健康と強い関係を持つ要素の1つは、神秘主義です。イスラム神秘主義者の見解では、幸福になるための第1の基本原則は、神への信仰心とされており、神とその預言者たちを信じていない人は幸せになれないとされています。信仰心に次いで重要とされるのは、神の預言者やイマームたちに従うことにより、倫理面で卑劣とされる要素を、心や精神の中から吹き払うことです。
また、幸せになるためには、自分についてよく知ることも最も重要な条件の1つとされています。神秘主義的な世界観では、自分について認識している人は神をも認識すると見なされています。人間が神を認識した時にはどのような状態にあっても、その人の人生には喜びが伴い、心の健康に恵まれることになります。
神の存在の真髄を認識した人は、神の方向に向かって行動し、その言動は宗教的で神に好まれるものとなります。神も、その人が寝ている時も起きているときも、その人に真実を理解させます。それにより、その人には信仰心や敬虔さが増し、罪となる言動を遠ざけるようになり、いつでも神を思い起こすようになります。神もその人に対し、精神面での真理を理解する扉を開き、真理をよりよく理解できるよう助けてくれるのです。
このため、心の健康は神秘主義や神を知ることに根源があると言えます。本当の神秘主義者は、神や現世での命が終わった後の永遠の命に関して持っている信条や信仰心により、心の健康の基本とされる安らぎや希望、喜び、満足を得るのです。また、人々同士の交流や社会活動への参加も神秘主義的なものとなり、それにより他の人々もその人が持っている精神面での健康や恩恵にあずかろうとします。
それではここで、10世紀後半にイラン北東部のホラーサーン地方に生まれた神秘主義者、アブーサイード・アボルヘイルにまつわる伝承をご紹介し、今夜の番組を締めくくることにいたしましょう。
当時、この偉大な神秘主義者の表面にしか注目しない一部の人々が、自分たちも奇跡を起こしたいと考えていました。ある日のこと、彼らはアボルヘイルに対し、ある男性は沈まないで水面を歩けるそうだが、と告げました。すると、アボルヘイルは次のように答えました。「それは簡単なことだ。なぜなら、それはヒキガエルにもできることだからだ」
これに対し、人々が今度は、空を飛べる人を知っている、と次げると、アボルヘイルは次のように述べました。
「それもたやすいことである。なぜなら、蚊やハエでも空中を飛べるからだ」
すると、今度は別の人々が、片目を瞑るだけである町から別の町に行ける人物を知っている、と告げました。これに対し、アボルヘイルは微笑んで答えました。
「それは、他のことよりもっと簡単なことだ。なぜなら、悪魔も片目を積もるだけでアジアから西の地域に行けるからだ。でも、このようなことには何の価値もない」 この時、アボルヘイルはその場から立ち上がり、全ての人々に聞こえるように語り掛けました。「真の男とは、自分の仲間の間に座り、立ち上がり、寝食を共にし、市場では仲間同士で取引をし、人々と交流し、片時も神を忘れない人である」