自然環境と子どもの関係
これまで何回かにわたり、自然環境の維持の助けとなる要素として、女性が果たすことの出来る役割や持続可能な開発などについてお話しました。今回は、自然環境と子どもの関係、そして自然環境の保護に子どもがどのような役割を果たせるかについてお話することにいたしましょう。
子どもは、人間のグループの中でも最大のグループであり、世界の総人口の30%以上、発展途上国では50%を占めています。子どもも、未来の世代を構成しているとともに、現在の世代と未来の世代とをつなぐ責務を担っています。しかし、彼らは決して、環境汚染につながる、将来に関する現在の物事の決定には参加していません。もっとも、子どもは環境や天然資源の汚染には全く関係がないものの、その最大の被害を受けています。
UNEP国連環境計画は、「子どもと自然環境」と題した報告において、この事実を指摘するとともに、次のように述べています。
「自然環境の破壊が、子どもを滅ぼすことになる」
この衝撃的な報告の一部においては、環境破壊とそれが子供の健康や保健衛生に及ぼす影響について言及しています。
発展途上国における農業用地の過剰な利用や森林破壊、そして砂漠化は農産物の生産の減少を伴うものであり、今やこれらの地域における子どもの栄養の摂取を阻害する最も重要な要因となっています。
例えば、ユニセフの最近の報告や統計から、東南アジアをはじめ、インドやバングラデシュ、パキスタンやアフガニスタンといったアジア諸国では食糧危機や子どもの栄養不良が一大惨事となりつつあることが分かっています。ユニセフの専門家は、インドにおいては子どもの半数が栄養不良により発育不全に陥っていると考えています。複数の統計においても、インドで5歳以下の子どもの48%が、栄養不良による発育不全に陥っていることが認められています。さらに、バングラデシュでは子ども全体の43%、パキスタンでは37%が栄養不良に苦しんでいます。
ユニセフのアンソニー・レーク事務局長は2015年、フランス・パリでの国連気候変動枠組条約・第21回締約国会議の開催前に発表された報告において、苦い現実を明らかにしています。
「現在、世界でおよそ6億9000万人の子どもたちが、気候変動の危険にさらされている。この数は、世界の子ども全体のおよそ3分の1に当たる」
ユニセフ事務局長の報告によれば、洪水の発生する可能性が高い地域には5億人以上、そして干ばつが発生する可能性が高い地域には1億6000万人以上の子どもが生活しているということです。
「この統計は、私たちが今すぐに対策を講じなければならない必要性を示している。現代の子どもは、気候の変動に影響を与えていないが、彼らと次の世代の子どもたちは確実にその影響を受けながら生活し、貧困層の多い社会が気候変動の最大の被害を受けることになる。気候の変動は、洪水や干ばつ、熱波や異常気象を引き起こし、栄養不良やマラリヤといった、子どもにとって致命的な要素に追い討ちをかけることになる。また、そうした現象の収束には長期間を要する可能性が高い」
気候変動の破壊的な影響に加えて、大気汚染も多くの社会における子どもの健康を直接脅かしている要素の1つです。科学者による調査からは、成人よりも子供や乳幼児の呼吸回数が多いことから、大気中に存在する毒物の多くが、子どもや乳幼児の肺に吸い込まれることが判明しています。
一方で、子どもや乳幼児は口で呼吸することが多いため、呼吸を通じて危険にさらされることになります。彼らはまた、特に大気汚染の度合いが高い夏の暑い時期を戸外で過ごす時間が、大人よりも長くなっています。例えば、環境汚染の要素の1つである銅などの汚染物質は、発育の途中段階にある子どもの骨格に破壊的な影響を及ぼします。大気汚染にさらされている子どもや乳幼児は、呼吸器系や消化器系、さらには神経系にまで至る様々な病気に苦しんでいます。
これまでに発表されている数多くの統計も、このことを証明しています。
WHO世界保健機関の発表によりますと、世界で1年間に5歳以下の子どもの400万人以上が、自然環境の様々な汚染により死亡しており、そうした要因としては食中毒、呼吸器官の感染症、水質汚染による嘔吐や下痢、マラリアなどを挙げることができます。5歳以下の子どもの死亡や重病のおよそ30%は、環境汚染によるものです。清潔な水と空気を確保することで、発展途上国を中心とする世界の5歳以下の子どもを、1年当たり400万人も救うことが出来るのです。
このような大惨事が発生している一方で、各国の法律や国際法の多くにおいては、子どもが健全な環境で暮らす権利が強調されています。例えば、国際的に最も重要な人権規約の1つとされている「子どもの権利条約」の第24条では、「健全な自然環境は、特に被害を受けやすい子どものために、特別な方法で考慮されるべきである」と強調されています。
子どもは、現在の大気汚染の発生には全く関与していません。しかし、現在の子どもは、人類社会の未来を担う世代であり、彼らに正しい教育を施すことで、自然環境の維持を促すことが可能です。このため、今日多くの社会において、特に子どもを初めとする一般市民向けの、自然環境に関する教育の権利が優先されています。
人々は、子ども時代から動植物の多様性や環境汚染、希少な動植物の生息地の破壊といった問題にどのように対処すべきかを学ばなければ、人間や動物の生活環境は今後数十年以内に、現在よりも憂うべき事態に陥ることを覚悟すべきでしょう。このため、各国の政府やNGO、公的機関は子どもに対し、地球の資源が限られたものであること、そして地球の自然環境が日増しに更なる被害を受けていることを教える必要があります。
子どもは、自然環境の破壊の継続を食い止める上で、自分に何が出来るかを知り、人間が環境破壊を阻止できるとともに、いつの日か地球全体の環境条件を底上げできる可能性があることを確信する必要があります。
子どもが環境破壊の最大の犠牲者であることは確かですが、その一方で子どもは、社会で環境保護に関する教育の最大の効果があるグループでもあります。このため、現在国際機関は各国の政府は、未成年の女子の教育に特に注目した上で、環境や発展に対する責務の教育を初めとした、児童青少年向けの教育の機会を拡大する必要があります。
こうした教育においては、子どもを良く考え、問題を把握しそのための解決策を見出せるようなレベルに到達させることが必要です。自然環境の保護は、子ども時代から教育されれば、1つの意識として定着しうる習癖です。こうした信条により、子どもは自分の暮らす生活体系を出来る限り守ることを義務付けられます。
このことから、子どもにとって助けとなりうる事柄の1つは、自分たちの生活する地域や地球環境の現状に対する彼らの認識だといえます。このため、各国の政府はこうした情報を子どもに提供するための十分な便宜手段を整える義務があります。子どもは、こうした情報の活用により、地球上における自分の立場や自分の身の周りの現状を、より正確に把握し、将来において環境分野における一般的な決定を下す上で、より効果的な役割を果たせると思われます。
これまでお話してきたように、子どもは明日を担う世代として、健全な環境の恩恵にあずかる最大の権利を有しています。私たちが、現代の子どもたちのために、環境保護と持続可能な開発の実現の下地を整えたとしても、経済や産業の発展が人間や動物の生活環境の破壊と引き換えになれば、人権の中核をなす未来の世代の権利が蹂躙され、人類の文化遺産や地球上の生物という遺産を彼らに引き継ぐことができなくなります。持続可能な開発の実現のための義務を取り決めることは、現代の世代である私たちが、自然環境を未来の世代のために預かるという責務を示しています。