カメとサソリ
昔々のこと。カメとサソリが仲良く暮らしておりました。
昔々のこと。カメとサソリが仲良く暮らしておりました。
そんなある日、彼らが住む場所に異変が起こり、別の場所に移住しなくてはならない事態が起こりました。カメとサソリは新しい住まいを求めて出発しました。しばらく歩いていくと、彼らの前に大きな川が行く手をふさいで流れていました。
サソリは川を見ると、その場に足を止めてカメに言いました。
「ほらね、僕はなんて運が悪いんだろう」
カメはサソリに聞き返しました。
「運が悪いって?どういうことだい?」
サソリの答はこうでした。
「ここからは、前にも後ろにも進めない。前に進めば川で溺れてしまうし、後ろに戻れば君と別れることになる」
カメは言いました。
「心配することはない。僕たちは友達じゃないか。喜びも悲しみも一緒に分かち合うんだ。川を渡ることは僕にとってわけのないことだから、君を背中に乗せて、一緒に川を渡ろう。こんな偉人の言葉を聞いたことがないかい?『友が落ち込んだり、困ったりしているときには手を差し伸べる。それこそが友だ』」
サソリは言いました。
「君はなんてすばらしい友人なんだ。いつかこの親切にお返ししなきゃいけない」
こうしてカメは、サソリを背中に乗せて川を渡りはじめました。しばらくすると、カメは背中をひっかかれているように感じました。カメはサソリに尋ねました。
「何かしているのかい?」
サソリは答えました。
「何でもないよ。君の背中で、針を刺せる場所を探しているだけだ」。
思いもかけない言葉に、カメは憤って言いました。
「君はなんて残忍な生き物なんだ!君を助けるために僕がこんなに一生懸命に頑張っているというのに、僕を刺そうとしていただって?まあ、僕の甲羅は固いから、刺されたって何ともないが。しかし、君は友達を装いながら、僕の命を奪おうとするのか?どうしてそんな悪意を抱いたり、裏切りを働いたりするんだ?」
サソリは慌てて答えました。
「そんなことを言われるとは思わなかった。僕は君を裏切った覚えもないし、悪意を抱いたこともない。ほら、火と同じさ。火は燃えているのが本来の姿で、最も親しい友人だろうとすべてのものを燃やしてしまうだろう?それと同じで、針で刺すことは僕の持って生まれた性質なんだ。僕は君の敵じゃない。それどころか、君の友人で、これからもそうあり続けるつもりだ。こんな言葉を聞いたことはないか?『サソリの針は恨みからではない、もともと備わった本質である』」
カメはサソリの言葉に頷いて言いました。
「なるほど。そもそもこうなったのは自分のせいだ。これほどたくさんの生き物がいるなかで、君を友人に選んだのは僕だ。でもいくら愛情を注いでも君の本質はこんなにも恐ろしい。だから僕はもう、これ以上、君と友達でいるのはやめることにした。一人でいた方がよっぽどましだ」
カメはそう言うと、サソリを背中から振り落とし、一人でゆうゆうと川を渡っていきました。