ラマザーン月の食文化(1)
今回は、イラン各地のラマザーン・断食月の食文化について、お話しすることに致しましょう。
神の宴の月である、ラマザーン月に、イスラム教徒は特別な宗教的義務を行います。
この宗教的義務のひとつに断食があり、日の出から日の入りまで一切の飲食を断ちます。イスラム教徒の伝統と慣習の中には、断食する人は、断食明けの食事の際に、食卓をみんなで囲むという習慣があり、その日の断食が神に受け入れられるよう祈祷を捧げた後、イスラム法に適った清らかな食べ物とともに、自らの断食を解きます。
イランの断食明けの食卓には、ナツメヤシやクルミをはじめ、栄養価の高いさまざまな料理が用意されます。通常、ナンやチーズ、ハーブも断食明けの食卓に添えられます。ラマザーン月には、寒い季節であれば、さまざまな種類のお菓子が、暑い季節であれば、スイカやメロンといった水分を多く含む果物が並べられます。ラマザーン月の食文化は、イラン全土で似たようなものですが、ところどころ異なる点もあります。
ナンはイラン人の食卓の基本です。イランの煮込み料理は、通常ご飯と一緒に食べられますが、その場合でもナンは食卓に並べられ、家族が好みで、煮込み料理と組み合わせて食べられるようにしてあります。アーブグーシュト(壷煮込み料理)といった一部の料理は、必ずナンと一緒に食べられます。
イランのナンは、たいてい小麦粉から作られています。小麦粉の種類や焼き方によっても、さまざまな種類があり、主に、ラバーシュ、ターフトゥーン、サンギャク、バルバリーの5種類のナンがあります。ナン屋で焼かれるナンの他、家庭で作られるナンもあります。
ラマザーン月には特に、断食明けの食事のためのお菓子と共に、イラン各地でさまざまな種類のナンが作られます。例えば、東アゼルバイジャン州のマラーゲでは、ラマザーン月を迎えるために、「ファティール」と呼ばれる特別なナンを焼きます。ファティールの作り方は、次の通りです。フライパンに油を温め、ターメリック少量を加えます。用意しておいた生地を麺棒で薄くのばし、その上に先ほどの油を塗って二つ折りにしたら、それをさらにのばして、手や専用の道具で模様をつけます。卵黄を上に塗って、釜に入れたら、あとはもう焼きあがるのを待つだけです。これらのナンは、たいてい断食明けの食事のために用意されます。
イラン南部のバンダル・デイラムでは、ラマザーン月に、「ターベ」という名前のナンが食べられています。このナンは、小麦粉の生地を小さく丸め、油で焼いたものです。この生地は、酸味が出てくる前に使用します。また、「タクーン」も、この地域でラマザーン月に食べられているナンの一種です。これは、小麦粉の生地を小さく丸めてのばし、ゴマを散らして、釜で焼いたものです。
イラン西部のチャハールマハール・バフティヤーリー州で、ラマザーン月に作られるのは、「カークーリー」と呼ばれるナンです。このナンは、ミルクパンの一種で、小麦粉に、水の代わりに牛乳や羊の乳を加え、そこに油と砂糖を混ぜ込んで生地を作ります。お好みで、クルミや干しブドウを加えてもよいでしょう。生地を小さく丸めて、薄くのばし、その上に模様をつけます。卵黄、ヨーグルト、カミツレ、ゴマ、サフランを混ぜたものをナンの上に塗り、釜で焼きます。
イラン東部のビールジャンドの人々は、ラマザーン月に、「ガーグ」と呼ばれるナンを食べます。小麦粉の生地に、油、しょうが、塩、そしてお湯に溶かした砂糖を加え、生地を幾つかに分けて麺棒でのばします。それをさらに小さく丸めて手で伸ばし、釜で焼きます。
ラマザーン月の間、聖地ゴムの巡礼者たちは、「ファティール」という名の、その土地特有のナンを食べます。生地には、小麦粉に、牛乳、桑の実の絞り汁、ターメリック、しょうが、卵を加えます。このナンは、三角形や楕円形に整えられて、焼かれます。
イラン中部のマルキャズィー州のサーヴェの人々は、「マグズィー」と呼ばれるナンを、断食明けの食事に用意します。このナンは、クルミ、ゴマを潰したもの、パセリなどの乾燥ハーブ、または、おろした玉ねぎ、ターメリックを混ぜたものを、パン種に混ぜます。そして、丸めた生地を掌の上で薄くのばして、焼きます。
このように、イラン各地で作られているナンは多岐に渡り、とてもここですべてをご紹介することは出来ません。他にも、ラマザーン月には、さまざまな種類のお菓子が用意されます。