イラン料理(107);ゴレスターン州のトルクメン民族
イラン北部ゴレスターン州に見られる特徴の1つは、民族の多様性です。
ゴレスターン州は、地域に昔から暮らす人々に加えて、外から来た多くの民族が住み着いてきました。その中で人口が多い民族には、トルクメン、スィースターニー、バルーチー、コサックが挙げられます。
トルクメン民族は、中央アジア圏のトルコ系民族のひとつにあたり、かつては遊牧民として生活していました。彼らは現在、トルクメニスタン以外でも、ロシア、ウズベキスタン、カザフスタンの一部、さらにイラン北東部にわたる広い地域に暮らしています。トルクメン語を母語とする彼らがイラン総人口で占める割合は2%、人数にして150万人です。トルクメン系イラン人のほとんどは、カスピ海の南東岸にあるゴレスターン州や、トルクメニスタンとの国境に広がる、ゴレスターン州のかなりの部分を占めるトルクメンサフラーと呼ばれる地域に住んでいます。
トルクメンの人々は今も自身の文化を色濃く保っています。その風習、衣装、手工芸、音楽、食文化は独特のものです。美しいトルクメン民族の衣装と手作りの装身具は他では見られないもので、人々の目を楽しませます。トルクメン音楽で用いられる主な楽器のひとつに、「タームディーレ(Tamdireh)」と呼ばれるものがあります。この楽器はイランの二弦リュート「ドタール(Dotar)」を小型にしたような形状をしており、胴部分の材料である桑の木を乾かす際、つぼ型の釜「タヌール(Tanur)」に入れることから、トルクメン語でこの種の釜を意味するタームディーレの名で呼ばれています。
トルクメンの人々はスンニー派を信仰し、イスラム教の伝統を忠実に守っています。彼らの貴重な習慣のひとつには、食卓やナンへの敬意が挙げられます。ナンには神の恵みがあるとされており、そのためイスラム教では、それに対する敬意が強く強調されていることが、その根拠となってます。トルクメン民族の人々は食事を摂る際、大抵の場合、「サーチャーグ(Sachagh)」と呼ばれる色鮮やかな大きな食布を床に広げてその周りに座ります。そして、食事を始める前に「べスメッラー(神の御名において)」と唱え、さらに食べ終わった後には、父親などの家族の長が、コーランの一節を読み上げ、ほかの家族は自分たちに与えられた恵みに感謝して、「アーメン(然り)」とつぶやくのを習慣としています。
主要なトルクメン料理には、羊肉とトマトを使った「チャクデルメ(Chakderme)」、炊き込み料理「バーステルメ(Basterme)」、具を生地で包む「ガートラメ(Qatlama)」「ブーレク(Börek)」「スームセ(Sumse)」、菓子の一種「チューレク(Çörek)」「ビーシュメ(Bishme)」などが挙げられます。