アボルヘイル(3)
アボルヘイルは11世紀の神秘主義思想家で、現在の中央アジアに位置するミーハナ村に出生し、多くの弟子たちを教育した後、故郷ミーハナ村で81歳の生涯を閉じました。また、研究者は彼をイラン初の神秘主義詩人で、サナーイーやアッタールなどの先人としています。
彼の生涯や残した言葉に関するペルシャ語の短い著作『アブーサイード言行録』は、アボルヘイルの死後からおよそ100年後に、ジャマーロッディーン・アブールーフによって編集されました。この本は、西暦1146年ごろにあたるイスラム暦541年まで、神秘主義思想家がペルシャ語で本を執筆していなかったため、このようなジャンルの本の中で最も古いものです。この本の内容から、アブールーフはアラビア語とペルシャ語に大変通じていたことがうかがえます。ペルシャ文学研究者のキャドキャニー教授は、この本について、「もしこの著作の完全な手稿が手に入れられれば、アブールーフのペルシャ語とアラビア語の巧みさ、そして当時の文化が、よりよく現代に伝えられる」と述べています。この本は、ペルシャ語とイラン・イスラム神秘主義思想、歴史的、言語的、形式的な一部の特性を知るという点でも大変重要です。また、大変信頼性があり、これ以前の書物には殆ど見られない、また一部の事例においては特に価値のあると思われる、神秘主義哲学者の言動が記録されています。
『神の唯一性の秘密』のより詳細な内容は、『アブーサイード言行録』に基づき、彼の子孫の1人であるムハンマド・ビン・モナッヴァル・ミーハニーにより執筆されました。この本はおそらく、より個人的な形で、西暦1178年にあたるイスラム暦574年に記されたと思われます。この年、ホラーサーンはセルジューク朝による戦争と腐敗により、困難に巻き込まれており、アボルヘイルの子孫たちもミーハナで虐殺され、彼らの痕跡はアボルヘイルの墓以外何も残りませんでした。この本は実際、アボルヘイルについて説明しており、ペルシャ語文学の中でこのレベルの自伝が希少であるという点は、注目に値します。
古い散文形式のペルシャ語文学の中で、『神の唯一性の秘密』は、神秘主義哲学者の生涯について記した、初の著作です。この本はアボルヘイルの栄誉と彼の生涯、彼の弟子たちについて書かれており、11世紀のホラーサーン地方の人々の宗教的な生活と歴史という点で、非常に価値ある内容を私たちにつたえています。この本を編纂し、アボルヘイルについて語った人物が、アボルヘイルの5世代後の子孫、ムハンマド・ビン・モナッヴァルだったとはいえ、口頭で伝えられた物語はイスラム的な形式が含まれているため、格言や個人の言説がほとんど手を加えられず後の世代に伝えられています。もし、アボルヘイルが直接的に語った言葉が子孫によって伝えられなくとも、その内容や要旨は彼に近かった人物から、後の世代に伝わっている、と確信を持って言うことができます。これらの言葉や記述の真偽については、ほかの文献を調べてみてもほとんどわからないでしょう。スイスの研究者メイヤーは、アボルヘイルや彼の弟子たちに関して、自著『アボルヘイルの真偽』の中で信頼しうる記述を行っています。しかし、アボルヘイルの行動や周囲の人々の反応は、心理学や宗教的な病理学の研究において分析されるべきだと考えられます。
『神の唯一性の秘密』には、アボルヘイルの残した言葉が集められ、彼の生涯について述べられています。この本は当時のイランの社会史や、イランにおける神秘主義思想の歴史の変遷、イランの神秘主義の大家の生涯に関する最高の史料のひとつとみなされています。この本は、間違いなくイランの神秘主義文学の最も重要な散文作品のひとつであり、神秘主義者の思想や行動、慣習、神秘主義者のグループの内外の社会関係について語られており、文学的な点からも高い重要性を有しています。また、語り口や語彙の選択、古い時代のオリジナルな語彙や、イランの無名詩人の詩の断片が維持されていることなどから、この著作はイスラム神秘主義思想やペルシャ語文学における最も重要な史料のひとつとされています。この本はアボルヘイルの子孫であるムハンマド・ビン・モナッヴァルにより記されました。
ムハンマド・ビン・モナッヴァルが、『神の唯一性の秘密』の編纂と記述を始めたのは西暦1178年、即ちアボルヘイルの死後134年後に当たります。この長い年月においても、アボルヘイルの言葉は、簡潔さ、親しみやすさから、当時のホラーサーン地方で忘れ去られることなく残り、神秘主義者や彼を支持する人々、特に彼と親しかった人々によって、口承で伝えられていました。
『神の唯一性の秘密』を読むと、アボルヘイルの行動と言説は、当時の神秘主義者が盛んに口にしていたほど、それを記録しておく必要がないと考えられていたことがわかります。つまり、ムハンマド・ビン・モナッヴァルがアボルヘイルの言動として語った内容のほとんどは、真にアボルヘイルのものであり、もしこの内容が偽のものであれば、それは英知ある神秘主義者のメッセージの類ではないでしょう。
卓越した人物に従う人々や、とりわけその人物に会ったことがなく、人づてに聞いた内容からその人物のイメージを作る人が、その人物の位置づけを高めるために伝説を作ってしまうのは、自然なことです。アボルヘイルの言葉として言い伝えの中に出てくる言葉は、形式、単語、構造の点から、アボルヘイルの言葉と一致しています。これを確認するためには、次の点の注意する必要があります。それは、彼の時代の後に彼に従う現代の神秘主義者に対して語られたこれらの言説が、ハディースのような価値をもち、修辞学的、精神的な魅力により、アボルヘイルの言葉がそのまま口承で語り継がれたということです。また、『神の唯一性の秘密』からも、この点を語るために根拠が提示されています。
『神の唯一性の秘密』はペルシャ語の散文作品の中で、もっとも甘美で価値ある作品とみなされており、文学的な点からも非常に流麗な作品です。ムハンマド・ビン・モナッヴァルの著述形式は、簡潔さを基本としており、装飾的な語法を極力控えています。モナッヴァルの飾りのない明確な表現は、会話における簡潔な言葉や親しい者同士の会話を思い出させます。文中の動詞すべては、正確かつ明確です。
『神の唯一性の秘密』のその他の特徴は、アボルヘイルに関する詩が挿入されていることです。アボルヘイルの著作の研究者はみな、この本はペルシャ語の一種・ダリー語の詩の創成期におけるペルシャ語の詩を伝える最高の史料と考えています。これらの詩のほとんどは、『神の唯一性の秘密』にしか出てこない無名の作者に詠まれたものであり、語彙や表現形式が非常に古いとされ、いずれの詩も、10世紀から11世紀よりも後の時代のものではないとされています。
アボルヘイルについて記された3つ目の本は、アボルヘイルの作品のうちの古い、または新たに発見された伝承です。キャドキャニー教授はこの伝承の題名を『時の味わい』と名づけ、この本の序文で次のように記しています。「この本は『アブーサイード言行録』でもなく、『神の唯一性の秘密』でもなく、それは、アボルヘイルの作品の古い、或いは新たに見つかった伝承とみなされる。この本は、これまでに、時の経過の中で散逸したと考えられていた」 キャドキャニー教授は、神秘主義哲学でいうところの「時」という単語などについて説明したあと、アボルヘイルの思想にある合法性、神秘主義の道、思想の基盤としての真理について説明しています。
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