4月 30, 2016 22:01 Asia/Tokyo
  • 水の危機
    水の危機

今回は自然環境の最も重要な危機の1つである、世界における水不足について考えていくことにいたしましょう。

宗教的にも強調されている水の重要性

水は、神の恩恵の1つであり、これに匹敵する恩恵はありません。水は、生命の源であり、水なしでの生活はありえません。生活の源としての水の重要性は、神の啓示宗教においても強調されています。宗教の教えでは、水、そして節水が強く奨励されています。例えば、イスラムの聖典コーランの数多くの節においても、水は人間に次いで最も価値のある神の創造物であり、また存在物に生命を与えるものであるとされています。

コーラン第77章、アル・ムルサラート章、「遣わされた者」、第27節では次のように述べられています。

“我々は、生きている全ての存在物を、水から創造した”

 

国際機関の統計に見る世界の水の危機の現状

しかし、残念ながら現代人は水を汚染し、浪費することで世界の水不足の危機に直面させてしまいました。スリランカに本部を置くIWMI・国際水管理研究所も、この事実を認めており、現代世界における水不足の98%が人為的な原因によるものであり、自然的な原因によるものはわずか2%だとしています。現代人は、水の汚染や浪費により、世界的な危機を引き起こしましたが、その結果を蒙ったのは特定の国だけではありません。地下水面は日々低下し、過去の時代に蓄積された水も、代替物で補われることなく急速に消費されています。しかも、そうした水の備蓄の代替物は存在しません。

統計調査によれば、1人につき利用可能な水の量の平均が1700立法メートル未満の国は、いずれも危険な状況にあります。仮に、この量が年間1000立方メートルを下回った場合には、その国は水不足の状態といえます。この指標に注目し、国連は1990年に世界各国の利用可能な水の状況を調査しました。その結果、世界各国のうち28カ国の合計3億3500万人が、水不足による圧力に直面していることが分かっています。現存する資料によれば、現在この数字はさらに増加し、2025年には世界の46カ国から50カ国が水不足に陥るだろうと予測されています。

 

このため、国際的なNGOである世界自然保護基金は、2006年に発表した報告において、世界のすべての国々に対し、節水を呼びかけています。この報告ではまた、裕福な国々でさえも水不足の状態にあり、オーストラリアのシドニーやアメリカ東部のボストンといった一部の都市においては、水の消費量が供給可能な量を上回っている、と強調されています。

さらに、この報告ではイギリス・ロンドンなどの大都市における水の浪費を指摘し、ロンドンでは配水管から漏れる水だけで1日当たり300のスイミングプールを一杯にできる、と報告しました。このため、世界自然保護基金は先進国に対し、老朽化した配水管を新しいものに取替え、また水質汚染対策により他国の模範となるよう求めています。

一方、国際的な調査機関や環境保護団体は、発展途上国における過去50年間の消費モデルは長続きせず、水の消費モデルを見直すべきだとしています。水を最大限に利用し、浪費がもっとも少ない発展途上国の灌漑方法に倣うこと、また耐久力の強い穀物を選ぶことは、水資源の復活の助けとなりうるものです。

 

水の危機の最大の原因-ダムの建設

自然環境の専門家によれば、水の危機に追い討ちをかける最も重要な要因の1つは、大規模なダムの建設だとされています。大型のダムとは、高さが15メートル以上に及ぶものを指します。世界では、これまでにこの種のダムが4万箇所以上建設されており、さらに4万5000箇所以上のダムが、現在設計あるいは建設中だということです。大型のダムの建設は、村落を破壊してその住民の住みかを奪うだけでなく、気候変動の原因にもなります。

複数の統計によりますと、過去50年間に郡部に居住する8000万人の人々が、ダム建設のために住む家を失いました。例えば、スーダンのメロエダムの建設により、ナイル川沿岸地域で農業を営んでいた5万人以上の人々が住む家を失っています。人権団体は、これらの人々が住処を負われることになった責任は、自分たちの利益のためにこのダムを建設した企業にあるとしています。また、100メートル以上の高さのある中国のダムも、世界における気候変動の要因となっています。このダムの建設により、農業用地や貴重な森林が水没したのみならず、このダムに大量の水が集められることにより、河川が枯渇してしまいました。このため、過去50年間にわたりこのダム建設プロジェクトにかけられていた期待は、実際に叶えられることはありませんでした。

 

世界自然保護基金は、自然環境保護に関する最も多くの経験を有する、世界最大規模の国際NGOであり、7つの水の移送プロジェクトに関する調査を行いました。その中でも最も長期間にわたるものは、スペインでのプロジェクトに関するものです。このプロジェクトでは、5つのダムに集められた水が、南に向かって300キロにわたり誘導されます。また、この調査にかけられたプロジェクトのうち、最も規模の小さいものはオーストラリアで100キロにわたり水を移送するというものでした。この報告では、これらのプロジェクトのいずれにおいても、その有効性が本格的に検討されず、スペインのプロジェクトでは水の移送経路に無駄が存在することから、事実上効果が得られていないとされています。この移送経路の流域にある地域は、2006年の干ばつにより緊急用に備蓄してあった水を使用するという事態に追い込まれました。

 

世界で自然環境難民が大発生

こうした状況により、現在自然災害の発生により自分の住み場所を離れなければならない人々は、戦争による難民よりも多くなっています。国際移住機関の報告では、気候条件の問題によりほかの土地への移住を余儀なくされた人々の数は日々増加しているということです。赤十字社も、世界の災害に関する報告の中で、現時点で世界にはおよそ2500万人に上る自然環境難民が存在していると発表しています。

国連のパン事務総長も、世界水の日に際しての演説の中でこの事実を指摘し、次のように述べています。

「自然災害による経済的な損失は、いまや年間3000億ドル以上に達しており、この数字はさらに大幅に増えると予想される。現在、世界の総人口の40%以上が、深刻な水不足に見舞われている地域に居住しており、2050年までに気候変動により難民となる人々の数は10億人に達すると見積もられている」

 

水不足対策の論理的な解決法とは?

それでは、現代の世界が水不足の問題に真剣に対処し、戦争や紛争なしに論理的な解決策を見出すにはどうしたらよいのでしょうか?専門家は、この目標を達成するためにいくつかの提案を出しています。第1に、各国の政府が、水が無尽蔵でいつでもどこでも得られるという考え方を見直すことです。世界の多くの国々では、水は貴重な資源ですが、多くの場合そのような制限が各国の政府の誤った経済政策によって生じています。農業や工業における能率的な技術の利用をはじめとする、水の合理的な利用により、こうした制限を緩和することができます。

こうした目的の追求に加えて、世界各国は水という共通の資源に関して一方的に決断すべきではありません。河川をはじめとする水源や地下水という共用の資源の不平等な利用をめぐる上流部の根本的な変化は必ず、権力の行使ではなく話し合いと合意により行われるべきものです。

さらに、各国の政府は、多国間的な捉え方により、水の問題における地域単位での協力を拡大する必要があります。河川などの共用の水源の利用に関する施設を設置することは、こうした協力を促進します。この点から、各国の政府首脳が水資源に関する協議に積極的に参加することも、近隣諸国の国際的な協力の拡大につながります。

おそらく、水の分野における国際協力への、資金的、政治的な投資の必要性を示す最も明確な理由は、コーランの節にある「我々は、水によって全ての存在物に命を与えた」という言葉にあるでしょう。国際社会は、世界的な捉え方や国際的なアプローチにより、人類の進歩がかかっている生態系システムを存続させるための措置を講じなければなりません。

 

次回は、現代世界における自然環境の別の側面についてお話する予定です。どうぞ、お楽しみに。