May 07, 2016 18:48 Asia/Tokyo
  • 湿地帯
    湿地帯

今回は、主に水で形成されている地形の1つである湿地帯についてお話することにいたしましょう。

湿地帯とは

湿地帯は、英語でウェットランドと呼ばれ、広い範囲にわたり海水または淡水によって浅く冠水した低地を指します。世界では、湿地帯に関する様々な解釈や定義づけがなされていますが、そのうち最も一般的なものは、湿地の保存に関する国際条約・ラムサール条約による定義づけです。この条約によれば湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水や汽水、或いは鹹水(かんすい)であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを超えない海域を意味する、とされています。

この定義に注目すると、湿地帯には河川や湖沼の汽水域、沿岸域、河口域、マングローブの樹林、泥炭地、さらにはサンゴ礁も含まれます。統計によれば、現時点では世界で2億9000万ヘクタールに及ぶ2186の湿地帯が、ラムサール条約に登録されているということです。このうち、この条約に登録されている湿地帯の数が多い国は順に、イギリスの170箇所、メキシコが142箇所、スペインが74箇所、スウェーデンが66箇所、オーストラリアが65箇所となっています。また、湿地帯の総面積が最も大きいものはカナダで13万平方キロメートルとされています。因みに、イランからも22箇所の湿地帯がラムサール条約に登録されています。この条約への登録には、1年間に少なくとも2万羽の渡り鳥が飛来することが条件となっています。

 

湿地帯の役割と生物の多様性

湿地帯は、地球の表面積のおよそ6%を占めており、自然界が生み出す最も驚異的な現象の1つです。また、人間、水生生物や動植物の保護に独自の役割を果たしており、特に湿地帯に動植物が存在することは、美的な景観に加えて、そこに生じる様々な生態系の点からも極めて重要です。

湿地帯は、動植物が最も生まれやすい自然環境であり、生物の多様性の源泉とも呼ばれます。それは、動植物が生まれやすい適切な環境と水を有していることから、無数の動植物の存続に重要な役割を果たしているためです。湿地帯に多種多様な野鳥や哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物が集結していることから、湿地帯が独特の役割を果たしていることが分かります。その例として、全世界に生息する2万種の魚類のうち、40%以上が湿地帯の淡水に生息していることが指摘できます。

淡水湿地帯は、様々な種類の多数の魚の産卵や成育に重要な場所とされています。湿地帯は、孵化した稚魚が自然に成育する上で好都合な環境が整っています。一方で、湿地帯には、そこに存在する、或いは海洋につながる水路などを通じて入ってくる、春や秋に独特の食物が集まっていることから、多種多様な魚が集まってきます。

湿地帯における生物の多様性を示すもう1つの例は、水鳥の存在です。湿地帯に生息する水鳥にはアオサギ、シラサギ、コウノトリ、ペリカン、ツル、ウなどがおり、さらにはアヒル、オオバン、カモなども一般的に湿地帯に生息しています。

湿地帯は、一部の生物の生息地とされているほか、そのほかの一部の生物にとっては一時的な住処、或いは餌をとる場所でもあります。例えば、イランにある湿地帯の多くは、冬でも数多くの水鳥や渡り鳥が生息、或いは産卵しています。野鳥が湿地帯に滞留することで、自然の美的景観が生まれるとともに、経済的な利益にもつながります。

渡り鳥も、湿地帯の周辺に生息する植物への被害を防ぐ上で主要な役割を果たしています。湿地帯での鳥類の排泄物による肥料は、土中に存在する微生物を破壊する化学肥料の節約になるのみならず、土壌を肥沃にします。一方で、湿地帯に野鳥が存在することは、有害なげっ歯動物や害虫の駆除に大きな効果があり、環境衛生に一役買っているのです。

 

湿地帯は、植物の遺伝物質の重要な備蓄場所でもあり、自然環境の動脈とも評されます。湿地帯の最も重要な機能としては、水と空気の調整、洪水の抑制、沿岸地域の侵食の阻止などが挙げられます。自然環境の専門家の見解では、エコロジーの側面から見た湿地帯の値打ちは森林の10倍、畑作地の200倍とされています。

 

湿地帯の重要性

動植物の生息地としての価値に加え、湿地帯は世界で最も生物の繁殖が行われやすい場所とされています。例えば、湿地で最もよく栽培される作物に、世界の人々の多くの主食とされている米があります。その他の湿地の経済的な価値としては、水や水生生物を確保していることが指摘できます。世界の漁獲高の3分の2以上は、湿地帯の状況に左右されており、また農作物や木材の生産、エネルギーの確保、植物の生産、景勝地としての観光・娯楽面での利用や運輸業なども、湿地帯の経済的な価値とされます。

経済学者やその他の学者は、日増しに湿地帯をはじめとする自然環境のエコシステムの価値やサービスについて研究し、これらについて査定しています。最近の一部の研究からは、エコシステムが1年当たり、少なくとも33兆ドルに相当するサービスを生み出しており、そのうち5兆ドルは湿地帯によるものだということが分かっています。湿地帯について研究する一部の研究者は、湿地帯の値打ちは油田や鉱山に匹敵すると考えています。

 

生物多様性条約のブラウリオ・フェレイラ・デ・ソウザ・ジアス事務局長は、2015年2月2日の世界湿地の日に際し、「私たちの将来にとっての湿地帯」と題したメッセージにおいて、湿地帯の重要性を指摘し、次のように述べています。

「湿地帯は、最も価値のあるエコシステムの1つであり、それらの最も重要なメリットは、水の安全性を向上、或いは改善することである。淡水の確保に加え、有害な物質をろ過し、水を浄化するなど、湿地帯は人間社会にとっての多くの利益を有している。さらに、人間の食物源でもあるが、それは湿地帯が魚介類や食物を確保し、世界の栄養面での需要の20%を満たしているからである。しかも、湿地帯は、場合によっては洪水や干ばつの防止を助ける防護壁としても機能する。また、水や気候の条件が危機的な状態に陥るのを防ぎ、気候変動に対抗している。湿地帯は、森林の2倍以上の二酸化炭素を備蓄することが可能である」

 

誤った認識により破壊される湿地帯

このため、湿地帯は地球上で最も価値のある神の恩恵だといえます。しかし、残念ながら人類は常に一方的に湿地を利用し、これらを汚染して自然環境に乱入し、湿地の存続を危険に陥れています。歴史を通して常に、湿地帯は土地としては利用できないという誤った憶測のもとに、人類は湿地帯に最大限の被害を与えています。そうした行動の例として、湿地帯を干拓して農業用地や工業地帯にすることが挙げられます。

複数の統計によれば、1900年から現在までに、世界全体の湿地のおよそ64%が破壊されたと推測されており、数十もの様々な機能を有するこの類まれな自然のシステムの破壊の流れは止まっていません。現代における人間の自然界の侵害行為は、資源を破壊し、生命を危険に陥れ、貴重な動植物が失われる原因となり、地球上の生物同士の論理的なバランスを乱しているのです。

湿地帯の消滅は、発展途上国のみに限られず、先進国でも湿地帯の破壊により農業用地の拡大が進められています。この点において、先進国と発展途上国は、共通の特質を有しています。もっとも、一部の国は学術的なアプローチにより湿地帯の重要性について検討しており、湿地帯の大切さに気づき、その復活と保護に乗り出しています。その例として、日本は近年、農業用地に転換されていた釧路湿原を再生させ、その近辺に国際センターを設置して釧路湿原を国際的な価値のあるものに一変させています。

 

湿地帯の破壊が世界の自然環境に数多くの弊害をもたらしたことは、紛れもない事実だといえます。

 

 

 

タグ