人権擁護の点で好ましくない状況にあるアメリカ
西側諸国、特にアメリカは、人権擁護に関して多くの宣伝を行っています。そのため、これらの国は、人権擁護に関して何の問題もないと考えられているかもしれません。しかし、実際はそうではありません。
さまざまな報告は、アメリカや一部のヨーロッパ諸国が、人権擁護の点で好ましくない状況にあることを示しています。西側の人権侵害の明らかな例と見なされるのが、西側社会におけるイスラム排斥の懸念すべき風潮です。
近年、西側世界で、イスラム教徒に対する暴力的な対応についての数多くの報告が発表されています。イスラム排斥への対策は、常に、イランとEUの間の人権に関する協議の中で提起されてきた問題です。こうした中、この問題に対する西側の対応は政治的なものであり、西側の思想の支持が、人権を政治的なものに変えています。実際、イスラム排斥は、西側社会の多くに共通して見られる行動となっています。
西側のイスラム恐怖症を広める動きの中で、イスラム教徒は何の根拠もなく、古い考え方を持つ暴力的な人間として描かれています。イスラム恐怖症を広める流れは、実際、特に欧米諸国の過激派や若者たちの間で、日常生活の一部となっています。
ヨーロッパがイスラムに対して敵意を抱く理由のひとつは、イスラムを、西側の文明を脅かす存在であり、また共産主義、ファシズム、ナチズムに代わる現代の思想でもあり、好戦的で拡張主義的な目的を含むものだとする、新たな見解が発表されたことにあります。こうした考え方を持つ思想家には、サミュエル・ハンティントンやフランシス・フクヤマがいます。こうした根拠のない、人道に反する考え方に基づき、西側のイスラムに対する人種差別的な戦争が拡大しました。西側のイスラム排斥者は、なおも、イスラム教徒に対する敵対的な行動を続けています。
欧州議会は、2015年の報告の中で、イスラム教徒に対する人種差別についてフランスに警告を与えると共に、フランス政府に対し、イスラム恐怖症を終わらせ、他者への嫌悪や人種差別の拡大に真剣に対処するよう求めました。この報告では、フランスでのイスラム恐怖症の高まりの中で、イスラム教徒を標的にした攻撃の80%が、女性に対するものだったとされています。この報告によれば、女性に対する暴力は、その程度や質の点で異なっており、人種差別主義者が、女性のイスラム的な装い・ヘジャーブを引っ張る、破る、動物の糞を投げつける、侮辱的な言葉を浴びせる、つばをかける、といった行動を挙げることができます。
フランス・イスラム宗教評議会は、この2年にパリで起こったテロ事件の後、シャルリエブド襲撃事件をはじめ、イスラム教徒が襲撃された147件の事例を挙げ、「シャルリエブドの襲撃から1週間のうちに、フランス全土で26箇所のモスクが攻撃された」と語りました。
こうした人種差別的な行為が拡大している一方で、人権擁護を主張するフランスの政治家らは、利己的で人種差別的な考え方を示す発言を行いました。フランスのヴァルス首相は、ファシストのイスラムという侮辱的な言葉を用い、サルコジ元大統領は、ヘジャーブを着用した女性やヘジャーブに対して新たな戦争を仕掛けました。サルコジ元大統領は、人種差別的で脅迫的な発言の中で、「我々はヘジャーブを着用した女性がフランスに存在するのを望まない」と語りました。
イギリスでも、イスラム教徒の人権侵害が大規模に続けられています。イスラム恐怖症の犠牲者の多くは、イスラム教徒の女性たちです。さまざまな報告によれば、イスラム教徒に対する襲撃の被害者の5分の4を女性が占めています。また、イギリスのイスラム教徒に対する暴力の半数が、女性、特にヘジャーブを着用した女性に対するものだということです。
明らかに、西側諸国のイスラム教徒の増加が、政治的、文化的、社会的な要素と共に、イスラムやイスラム教徒に対する敵対の拡大に大きく影響しています。アメリカの統計によれば、現在、この国のイスラム教徒の数は、ユダヤ教徒に匹敵するということです。特にデトロイト、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスといった大都市で、イスラム教徒の数が増加しています。
ヨーロッパでも、イスラム教徒の人口が増えています。現在、ヨーロッパには、1500万人から20000万人のイスラム教徒が暮らしており、今後、トルコがEUに加われば、その数は1億人に増えるでしょう。これは、ヨーロッパ社会の戦略家にとって、簡単に見過ごすことのできない問題です。
ヨーロッパの中で、イスラム教徒の人口が最も多いのはフランスで、イスラムはこの国で、キリスト教に次ぐ宗教となっています。報告によれば、ヨーロッパの歴史において、民主主義の発祥地とされるフランスで、人権侵害が日常的な問題になっています。イスラム教徒のような宗教少数派、アラブ系や黒人などの民族少数派は、正式な市民とは見なされず、議会をはじめとする決定機関に議席を有していません。それどころか、過激で人種差別的な暴力の標的になっています。
フランスのイスラム教徒の研究者で哲学者のロジェ・ガロディは、国際的なシオニズムに疑念を投げかけ、歴史的な書物を記したために逮捕、収容されました。また、ヘジャーブの着用禁止法の施行により、ヘジャーブを着用した女子学生は、学校や大学に通うことができなくなっています。
人権擁護を主張するフランスの社会で、アフリカ系の15歳と17歳の2人の若者が、フランスの警官によって殺害される事件ありました。これをきっかけに、フランスの二級市民は、自分たちの当然の権利を手にするために立ち上がりました。専門家らは、宗教的な差別や人種差別が、こうした混乱の主な原因だとしています。パリのイスラム教徒の怒りは、生活状況に対するものに加え、宗教的な差別によるものでした。
フランスのイスラム教徒は、現在、いつの時代にも増して、フランスのメディアによるイスラムへの傾倒の危険に関するプロパガンダ、イスラム関連の出版物の発禁、イスラムの戒律、特にヘジャーブの禁止、過激派とイスラムの関連付けを懸念しています。
2004年3月にフランスの公立学校でのヘジャーブ着用を禁止する法律が可決された後、人権擁護団体、イスラム団体、ヘジャーブ支持団体が、それに抗議しました。しかし、フランス政府が、この法を可決して以来、ヘジャーブを着用した生徒は学校に通えなくなっています。
統計により、ヨーロッパ、アメリカ、カナダでは、イスラム恐怖症、イスラム排斥、移民や難民への敵対が、懸念すべき現象になっていることが分かっています。これらの現象は、残念ながら、9.11アメリカ同時多発テロ事件後、一部のヨーロッパ諸国で危険なものになっています。
イギリスの兵士によるイラク人の権利侵害、キューバ・グアンタナモやイラク・アブーゴライブでの収監者に対するアメリカ軍兵士の虐待、バルカン危機でのセルビア人の行動は、イスラム教徒に対する人権侵害や嫌悪に端を発しています。
イギリスのブレア元首相は、ロンドンでの爆弾テロ事件後、問題をはぐらかし、この爆発をイスラムの過激派に関連付けることで、アメリカのイラク占領への追従政策を正当化しようとしました。つまり、9.11後のブッシュ大統領とほぼ同じ行動を取ったことになります。この行動を受け、アメリカ自由人権協会は、アメリカのイスラム教徒の移民を支持し、国連に提訴しました。この訴えは、9.11後、アメリカのイスラム教徒の移民は不公平に刑務所に収監されたり、国外に退去させられている、としています。
さまざまな文化の尊重を原則としたフランスやイギリスの植民地主義では、社会に明らかな矛盾が見られます。これらの社会では、表現の自由が民主主義の基本を形成していますが、イスラムの預言者を冒涜した風刺画の掲載は、世界の全ての国が従うべきとされる、世界人権宣言に相反するものでです。
国際法によれば、世界人権宣言の内容に反する行為は、人権侵害と見なされ、それに違反すれば、好ましくない結果に直面します。アメリカやヨーロッパで、イスラムの預言者を冒涜する風刺画の発表など、表現の自由を名目に行われるイスラム教徒に敵対する行動は、人権侵害にはあたらないのでしょうか?
EUに加盟するおよそ10カ国のメディアで、イスラムの預言者ムハンマドを冒涜するイラストや風刺画が発表されたことは、ヨーロッパでの組織的なイスラム排斥の流れを示しています。西側諸国は、表現の自由により、こうした風刺画の出版を妨げることはできないとしています。このような反応は、誰も、他者を侮辱する権利はないものの、他者の神聖を冒涜することはできるということを意味しています。このような明らかな冒涜は、西側の人権のダブルスタンダードを示しており、実際、人種差別的な思想を支えにしたものです。それは、東洋、特にイスラム教徒に対する差別的な考え方に基づいて成長しています。こうした中、アメリカやヨーロッパ諸国は、自分たちを人権擁護者であるように見せようとしています。
過去の植民地主義と彼らによって世界が分割されていた時代、先住民の排除や人種に基づく分割が、植民地主義国の決定に従って行われていました。しかし今日、世界は文明と発展を主張している中で、帝国主義の優位性の考え方の中に、植民地主義時代の名残りが見られます。
このような状況の中で、社会をよいものと悪いものに分ける差別が生まれています。そこでは、他者を支配し、人種主義や帝国主義を目指す政府や社会を作る努力が行われています。このような破壊的な思想の影響は、アメリカや一部のヨーロッパ諸国で、特定の人種のグループが別のグループよりも優位に立つというセオリーに基づく、現代的な人種差別の思想の再生の中に見ることができます。これらは、人権擁護を主張する国での人道に反する思想の根深さを物語っています。