視点
イラン最高指導者が強調する「ウクライナ戦争での米の漁夫の利」
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イランイスラム革命最高指導者のアリー・ハーメネイー師
イランイスラム革命最高指導者のアリー・ハーメネイー師は今月4日、「アメリカはウクライナ紛争を開戦させたが、この戦争によりアメリカとそのヨーロッパ同盟国との間に溝が生じた。事実上、この戦争のとばっちりを受けたのはヨーロッパ諸国だが、アメリカは漁夫の利を得ている」と語りました。
ハーメネイー師による、ウクライナ戦争の開戦やこれによるアメリカの利益への指摘は、これに関する否定できない現実に照らしてなされたものです。ウクライナ戦争は、ロシアに対しアメリカを筆頭とするNATO北大西洋条約機構による悪しき意図や侵略的行為の結果だと言えます。
現実に、ロシアによる対ウクライナ特殊軍事作戦は、ウクライナへのNATO加盟奨励による西側の侵略行為や、ロシアの国家安全保障に対する深刻な危険の発生に対するロシアの反応以外の何物でもありません。 ロシアのこの行動は、ウクライナのNATO加盟断念および1997年当時の国境へのNATO軍の撤退、というロシアの合理的な要求に対し米国とNATOが否定的な反応を示した後に行われたものです。
複数の証拠から、冷戦後の時代に次第にロシアと敵対関係に陥り、ロシアの弱体化を狙っていたNATOと米国は、ウクライナ戦争を、ロシアの軍事・経済、政治的体制をを粉砕し、また同国のプーチン大統領の合法性を低下させる千載一遇のチャンスとみなしています。アメリカは長い間、ロシアの崩壊とその分裂までをも望んでいました。
アメリカの政治家らがロシアの戦略的核兵器、そして世界各地でのアメリカの政策と行動へのプーチン氏の抵抗、そしてこれらよりさらに重要なこととして、西側の自由主義的な国際体制からほかのシステムへの代替を目指してのロシアと中国の連携を懸念していることから、アメリカはあらゆる機会を利用し、ロシアの弱体化を画策してきました。
米の著名な思想家ノーム・チョムスキー氏は、「米国の現在の政策は、ウクライナでのさらなる惨劇を阻止する方法を予見せずに、最後の1人のウクライナ市民まで戦うことである。しかし実際には、この苦境からの脱却にはたった2つの方法しかないことをプーチン氏に提示しています。その2つの選択肢とは、オランダ・ハーグの国際法廷で彼を戦犯として裁くか、もしくはウクライナの完全破壊されるまでこの状況を続けるか、ということである」と語っています。
ジョー・バイデン米現大統領と彼が率いる米現政権の軍事・治安当局幹部の観点から、この戦争は可能な限りロシアに対抗するまたとない稀な機会をもたらしたと同時に、米軍事産業界は莫大な利益を獲得しています。これに関して、イランの最高指導者ハーメネイー師は「ウクライナでの戦争は、米国がNATOの東方拡大を目的に始めたものであり、現在ウクライナの人々が困難に苦しんでいる間、米国とその兵器工場は戦争から最も多くの利益を得ている。このために、戦争終結のために必要な行動・措置が妨害されている」と述べています。
さらに、アメリカの観点からすると、NATO圏近隣でのウクライナ戦争におけるロシアの勝利は、この軍事組織の信用の失墜、さらにはロシアの地域・国際的な影響力や権力の拡大を意味するとともに、ヨーロッパにおける安全保障、軍事・政治的方程式が西側に不利な形に変化すると見られています。したがって、彼らは何としてでもロシアの勝利を阻止しようと固く心に決めているのです。
重要な問題は、米国がロシアとの対決を目的としてウクライナに軍事・武器支援を提供することで、ヨーロッパの同盟国に政治・経済的、軍事・武器面での莫大な出費を強いたことです。
実際にアメリカは、大西洋を越えての同調の延長や、欧米諸国連携の必要性という口実の下、ウクライナを支援する一方で、アメリカの利益のために特に石油・ガスの分野および通商分野でのすべての対ロシア関係を断絶させるべく、ヨーロッパ諸国の悪用に全力を挙げてきました。また、アメリカはウクライナ戦争を種として利用しヨーロッパでの自らの地位を強化してきましたが、現在、ヨーロッパ各国政府がこぞってアメリカ追従政策を踏襲していることから、ヨーロッパ諸国の市民や政治家の間ではウクライナ戦争を巡る欧州諸国のアプローチ方法に対する抗議が増大しているのです。