1日1冊、本の紹介(15)
イランの著名な医学者ブー・アリースィーナーはイブンスィーナーとも呼ばれ、西暦980年、現在はウズベキスタン領となっているブハラーの町に生まれ、1037年にイラン西部ハマダーンで没しました。
ブーアリー・スィーナーは、イランが誇る偉大な医学者であると同時に、詩人、哲学者でもありました。彼は、アリストテレス哲学や医学の分野で数多くの名作を残したことから、全世界で名声を博しています。この偉人の著作の1つである『治癒の書』は、包括的な科学書、そして哲学書ですが、なんと言っても彼の最大傑作の1つは『医学典範』だといえるでしょう。
科学史の父ジョージ・サートンは、自らの著作においてブーアリー・スィーナーを、人類史上、そして世界や全ての民族の中で最も偉大な医学における思想家であると評しています。この偉大な科学者は、最も激しい動乱の時代を生き抜き、その生涯は個人的、社会的な様々な出来事をはじめとする紆余曲折、そして数多くの旅にあふれています。彼の生涯の興味深い一面は、『イラン中部イスファハーンへの旅路でのイブン・スィーナー』という著作に垣間見られ、彼の人生に起こった出来事を別の角度から捉えることができます。
この著作は、フランスの小説家ジルベール・シヌエにより執筆され、イラン人のネダー・ファラーハーニーによりフランス語からペルシャ語に翻訳、出版されました。ジルベール・シヌエは、この著作の序文において次のように述べています。「この作品は、ブーアリー・スィーナーの弟子の1人、アブー・ウバイドジュズジャーニーにより筆録された、アラビア語による信憑性の高い手書きの写本に基づいて編集されている。ジュズジャーニーは、25年間にわたりブーアリースィーナーに師事するという栄誉を得た人物である」
『イスファハーンへの旅路でのイブン・スィーナー』では、思想家や知識人により興味深い教訓的な物語が見られます。
この著作では、ブーアリー・スィーナーが生きていた時代のイランの状況について、次のように述べられています。「当時、イランは世界の一大帝国として知られており、地元の王朝政権による行政が行われ、次第に縮小していった。ブーアリー・スィーナーはこうした動乱の時代にこの世に生を受け、その生涯を学問とその伝播にささげるとともに、後世にまで語り継がれる作品を残した」
フランスの小説家ジルベール・シヌエは、1947年エジプトに生まれ、この著作のほかにも、複数の歴史上の人物に関する著作を著しています。シヌエは、1989年に『イスファハーンの旅路でのイブン・スィーナー』を出版しており、そのペルシャ語への翻訳版はテヘランにあるクーシェシュ出版社により出版されています。