4月 10, 2024 21:31 Asia/Tokyo
  • イラク戦争に関する米の情報操作:「イラクと日本での殺戮は忘れて、ウクライナのことを報じろ」

米軍のイラク駐留は、ベトナム戦争および第二次世界大戦後の日本に関する教訓を踏まえ、イラク国民と米国民の「心をつかむ」ことを勝利につながる目標として定めました。

この目的のためメディアは、第5部隊(スパイ)と見なされていたベトナム戦争とは異なり、ソフトパワーの行使における増援部隊として利用されるようになりました。

ベトナム戦争では、アメリカ市民にとってはもはや、軍事面で劣るはずの敵が世界最強の軍隊を疲弊させたのは国民の支持があったからだということは明らかでした。したがって、イラクでは「情報操作」が戦略的な一大優先事項となりました。太平洋戦争中のアメリカによる爆撃の日本人犠牲者の声を無視した経験は、イラクのメディア空間を管理する上で、アメリカに重要なテクニックを示すことになりました。

軍隊にジャーナリストを同伴させることは、アメリカ国民が紛争を見る視点を制御する上での助けとなりました。

アメリカ兵の苦痛が紛争に対するアメリカ国民の記憶の中で際立っている一方で、イラク国民の憂うべき状況はほぼ完全に無視された形となっています。これは決して偶然ではありません。この矛盾は当初から形成されていました。アメリカ兵の死と精神的トラウマに世間を注目させることは、イラクでの非人道的な任務に関する国民の疑問に取って代わったのです。

こうして、アメリカ国民は不公正な戦争への派兵に疑問を抱くのではなく、兵士たちの苦しみに同情と関心を向けるようになっていきました。

一方、ソフトパワーにはネガティブな報道の抑制が義務付けられました。侵略や占領からの祖国防衛という動機を持っていたイラク武装勢力の攻撃により命を落とした米兵の数は、非常に少ないものとして報道されました。

2004年の春、米国はイラク武装勢力の定義を「旧バアス党支持者」の組み合わせから「暴徒」に変更しました。この用語選択により、イラク武装勢力は合法的な立場を剥奪されました。米軍は言葉選びの管理により、既存の事実に対する米国民の思い込みを変えさせることに成功したのです。

実際、多くのイラク国民は、2004年から2011年までの期間が本物の占領だったと考えています。彼らは、米国主導の軍事作戦の負の遺産の全てを、自分たちに課されたのと同様に簡単になきものに出来たらと願っています。

国際法に照らし侵略が違法であるということは、西側の主要メディアではほとんど言及されませんでした。イラクの主権侵害、さらには同国ファルージャなどでアメリカが引き起こした数多くの戦争犯罪は、メディア報道や政治的議論からいとも単純に排除されました。それはまさに、日本人の苦しみに関するニュース報道と同じ扱いを受けたのです。

もっとも、イラク国民にとって米軍の侵略は単なる1つの過ちではなく、彼らの社会に悲惨な結果をもたらした一大犯罪でした。

しかし、イラク侵攻やロシアの対ウクライナ特殊軍事作戦に対する米世論の捉え方と、日本人の大量虐殺に対するそれの明らかな違いは、通常の偽善よりもっと深刻なものを示しています。

ウクライナ紛争に関するアメリカの報道は、プーチン露大統領を非難する声と、国際法に対するロシアの責任を問う声がほとんどです。

しかし、2002年から2003年にかけては、イラクの旧独裁者サッダーム・フセインの危険性を誇張し、イラクでの大量破壊兵器の存在に関する世論を欺こうとする、当時のブッシュ米政権の工作には、ほとんど注目しませんでした。「もし我々が数十万人の日本の一般市民を殺さなかったら第二次世界大戦はさらに数年も続いていただろう」という有名なアメリカ側の正当化と同様に、それは真剣に批判されることはありませんでした。

米国のメディアがロシアのウクライナ特殊軍事作戦をめぐる法的な疑問を巧みにクローズアップした一方で、米国のプロパガンダ機関はイラク侵攻をめぐる同様の疑問の提起から世論の関心を外させました。第二次大戦後、アメリカは日本に対して同様のことを行っていたのです。

多くの主流メディアにとって、イラクは忘れられた国の1つであり、イラク戦争は日本の複数都市の市民の大虐殺と同様、過去の歴史上の出来事とされています。

平和活動家や反戦協力者の間でもイラク戦争について語ろうとする意欲は存在せず、場合によっては記念式典への参加を公然と拒否するケースも見られます。

この悲痛な沈黙は困難な事実を示しています。それは、日本に関するプロパガンダで勝利を収めたのと同様に、イラク戦争から20年を経てアメリカの情報管理が決定的に勝利を収めたということなのです。

 


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