シュール旋法(音声)
イラン音楽最大の旋法体系、シュール旋法についてお話しすることにしましょう。
シュール旋法は、イラン古典音楽だけでなく、イランの地方音楽でも頻繁に使われる旋法です。これに関して、神戸大学の谷正人準教授は、著書『イラン音楽 声の文化と即興』で、「シュール系の旋法は、地方の民俗音楽の中でも最も多くの割合で見られ、そうした民俗音楽からのフィードバックを少なからず受けている芸術音楽にとっても、イラン音楽の基幹を成す代表的とされる旋法である」としています。
また、これまで、シュール旋法以外の体系についてお話してきましたが、マーフール、ナヴァー、ホマーユーン、バヤーテ・エスファハーン、ラーストパンジガー、セガーなど、多くの体系はシュール旋法につながる要素を持つ曲を含んでおり、シュール旋法に転調することができます。
さらに、バヤーテトルク、ダシュティ、アフシャーリー、アブーアター、バヤーテコルドなど、シュール旋法の派生形に当たる旋法体系は数多く存在します。
シュール旋法は、音階の一例を挙げると、ソ、4分の1低いラの微分音、シ♭、ド、4分の1低いレの微分音、ミ♭、ファです。基本的には、4分の3音、4分の3音、半音の間隔を持つ4つの音のまとまり、テトラコルドが2つ組み合わさり、構成されています。シュール旋法も、他の旋法体系と同じように、展開により使われる音が変化します。
それでは、シュール旋法の中に含まれる曲を、順を追いながらかいつまんでお話しましょう。シュール旋法の序曲、ダルアーマドは、ケレシュメ、ロハーブ、オウジ、モッラーナーズィーなどの名前を持つ、いくつかパターンが存在しますが、この中で、オウジという曲では、序曲の中での盛り上がりを見せます。
そして、ジールケシュ・サルマクやサルマクといった曲に入ると、雰囲気が少し変わります。ここでは、5番目の音、先ほど挙げた音階では、レの微分音が4分の1音上がり、レのナチュラルになります。また、フレーズの中でド、レ、ミの音が強調され、それが高い音から低い音へと落ちていくという形で展開します。
また、その後、マジュレス・アフルーズという、少し勢いのある曲が演奏されることもあります。この名前を持つ曲は、前にお話したマーフール旋法にも含まれています。
そして、オッザールという曲では、序曲のダルアーマドと同じ音階を持つフレーズとなるものの、1オクターブ高くなります。序曲のダルアーマドからオッザールの流れについて、元ハーバード大学教授のホルモズ・ファルハート氏は、ボーカルが低い音から始め声を暖めておき、そして高い音によるクライマックスを歌い易くするためではないか、としています。また、オッザールは以前の番組でお話したホマーユーン旋法と共通する曲です。
そのほか、ボゾルグやガージャールなどといった重要な曲がありますが、そのうち最も重要とされる曲のひとつが、シャハナーズです。短いながらも、この重要な小曲は、ホルモズ・ファルハート氏いわく、シャハナーズの即興演奏は、よりダイナミックで、よりエモーショナルだとしています。また、ナヴァー旋法で紹介したホセイニーも、シュール旋法の重要な曲です。
以上、シュール旋法をかいつまんで紹介してまいりましたが、他にもシュール旋法のレパートリーはここですべてを紹介できないほど多く、また旋法体系の中で盛んに音が上下する旋法体系です。なお、イラン音楽の重要な規範である、ミールザー・アブドッラーのラディーフでは、シャラーシューブという8分の6拍子の曲がありますが、これは全て演奏すると15分近くかかるという、異例の大曲です。