映画『セールスマン』のアカデミー賞受賞
イランの著名な映画監督、アスガル・ファルハーディーの作品「セールスマン」が、今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞しました。
この大きな出来事により、イランや世界各地で大きな、そして様々な反応が見られました。
スペインの新聞エル・パイスは、アカデミー賞の授賞式の前に、「セールスマン」がもしアカデミー賞を取れば、トランプ大統領の頬をたたくことになる、このような出来事が起きるのは驚くべきことではない、なぜなら、セールスマンは国際的に権威ある賞を受賞しているからだと記していました。
ファルハーディー監督も先週、「この賞は、団結や理解のために戦った人々によるものだ。イランの映画は文化的な外交官であるだけでなく、アメリカの人種差別や侮蔑的な行為と戦い、勝利した」と語りました。
ファルハーディー監督は、イスラム圏7カ国の出身者のアメリカ入国を禁じたトランプ氏の大統領令に抗議する中で、アカデミー賞の授賞式の参加をボイコットし、もし例外として彼の入国が認められても、アカデミー賞の授賞式には参加しないと述べました。また、イラン人のNASAの幹部、フィールーズ・ナーデリー氏と、初めて宇宙に行った女性飛行士のアヌーシェ・アンサーリー氏を自身の代理に指名しました。
アンサーリー氏はアカデミー賞の授賞式で、ファルハーディー監督の代理として、彼のメッセージを読み上げました。ファルハーディー監督は、メッセージの中でトランプ大統領の過激な政策を批判し、自身の欠席はイランの人々や不当な形でアメリカの入国を制限されたすべての人々に対する敬意のためだとしました。
ファルハーディー監督は2度目のアカデミー賞受賞は大きな栄誉だとしましたが、「過激な政府によって私たちと私たちの敵の間に線を引くことは、恐怖の原因となる。この恐怖は戦争や暴力にむけた偽りの正当化だ」と述べました。また、映画は、様々な人々や宗教に関するステレオタイプを壊し、世界の人々の共感と連帯の下地を作り出すことができるとしました。このため、ファルハーディー監督とこの会に参加したすべてのイラン人の功績とは、映画における成功だけでなく、アメリカ政府の敵対政策に対する強い抗議の声を伝えたことです。ファルハーディー監督は、国際社会の複雑な状況を理解することができる能力と、世界の人々が団結する必要性を示すために、アカデミー賞を利用したのです。
アカデミー賞外国語映画賞では「セールスマン」のほかに、各国の85の作品から選ばれた9つの作品がノミネートされていました。この中で、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、スイスの作品が見られました。映画「セールスマン」は、カンヌ国際映画祭でも脚本賞と主演男優賞の2つの賞を受賞しました。また、アムステルダム国際映画祭でも、一般投票により最優秀映画賞を獲得しました。さらに、シカゴ国際映画祭でも審査員特別賞を受賞しました。
ファルハーディー監督は2012年、映画「別離」でもアカデミー賞を受賞しました。さらに、ベルリン国際映画祭では、彼の作品、「彼女が消えた浜辺」が銀熊賞を受賞しました。「セールスマン」はアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を元にした作品で、不快な出来事が起きた後の夫婦の共同生活が危機に見舞われる話です。この映画は、アカデミー賞の授賞式の前夜、ロンドンのトラファルガー広場にて無料で上映されました。およそ1万人の観客が、2月26日日曜午後、この作品を見るために集まりました。ロンドン市長は前から、この映画を見るようロンドン市民に呼びかけており、ファルハーディー監督の映画の上映を賞賛しました。
ファルハーディー監督の映画のロンドンでの上映
アカデミー賞の授賞式を、別の角度から見てみることにしましょう。1964年、シドニー・ポワチエが黒人として初めてアカデミー男優賞を獲得しました。これまでのアカデミー賞の授賞式で、黒人はアメリカ映画における人種差別に対して、毎回授賞式の場で抗議を広めてきました。、たとえば、2016年のアカデミー賞が発表されたとき、黒人の映画関係者の名はありませんでした。こういった人種差別的な流れが続いており、アカデミー賞の授賞式と同時に、市民活動家アル・シャープトンに導かれた黒人がアメリカの映画産業やアカデミー賞における人種差別への抗議集会を開いています。
アカデミー賞も、抗議の後、この緊張した雰囲気を緩めると決定しました。1月24日、アカデミー賞の候補が発表され、「アカデミー賞は真っ白」というキャンペーンは、成功したように見えました。
今年のアカデミー賞は黒人や、少数派の人々のノミネート数が増え、黒人が主演する3つの作品がアカデミー賞候補となりました。また、アカデミー俳優賞においては、20人のうち、5人の黒人俳優が候補となり、また、黒人のバリー・ジェンキンズ監督の作品「ムーンライト」がアカデミー作品賞を受賞しました。
これほどまでに黒人の映画関係者がノミネートされたのは、2006年以来でした。もしドキュメンタリーなども考慮した場合、今年は2006年よりもよい状態にあるでしょう。このことから、アカデミー賞における反人種差別キャンペーンは重要な運動だったことが示されていますが、現在、ハリウッドはすべてがよい状態にあり、また差別は行われていないのでしょうか。
週刊誌エンターテインメント・ウィークリーは、今回のアカデミー賞特別号で、興味深い発表を行っており、これは大変悲劇的な状況を示しています。アメリカの全人口のうち、黒人が占める割合は12.6%ですが、4つの部門の俳優賞にノミネートされている黒人は、9.3%のみです。また、4部門の俳優賞を受賞した黒人は、わずか4.4%です。しかし、少数派という点では、黒人は最もよい状況にあります。非ヨーロッパのラテン系はアメリカの人口の3.16%を占めているものの、アカデミー賞にノミネートしているのは3.1%だけで、2.1%のみが受賞しています。ロサンゼルスタイムズも、アカデミー賞の投票者の94%は白人が占めており、ほかの人種は6%のみで、黒人は2%だとしています。
アカデミー賞における人種差別
有名俳優、マット・デイモンもインタビューで、アメリカでは、女性や様々な人種に関する不公平が極めて大きく、今年のアカデミー賞の候補者が白人で占められていたという事実を、私たちはよく知るべきだと強調しています。
アメリカの社会問題専門家ルツ・グランダーソンは、アメリカの人種差別の根絶は、大きな主張にすぎない、もし、今日のアメリカ社会の実情に注目すれば、人種差別がいまだに根強く残っていることがわかるとしています。グランダーソンはまた、CNNのインタビューで、いまだに人種差別の名残と、有色人種に対する否定的な見方はアメリカ社会に残っていると語りました。
ハリウッドの映画産業は人種差別に見舞われており、多くの作品にはある国民や宗教、民族への侮辱がふんだんに含まれており、自身もその人種的、性的、宗教的暴力を広めています。ハリウッドは長年、イスラム教徒やアジア人など、アメリカ人でない人々を、映画の中で可能な限り過激に、明確な差別を用いて描いています。アメリカ大統領がその言動のためにこの授賞式の中で非難されたとしても、何が変わると言うのでしょうか。