エナメル細工
今回はエナメル細工についてお話します。
エナメル細工は人類の創造における革新の一つとみなすことができます。この芸術は複雑な化学的作用によって生まれるもので、エナメル細工は実験的な芸術とみなされています。エナメル細工はおよそ5千年の歴史があります。この芸術は火と土の組み合わせで、絵画と融合し、美しい模様を作り出します。
一部の専門家によれば、ビザンツのエナメル細工とイランの作品を比較してみると、この芸術はイランで形作られ、その後各国に広まったことがわかっています。今日、この芸術は多くが銅の上に施されていますが、金や銀、青銅の上でも可能です。金はエナメルを溶解した時に酸化しない唯一の金属であるため、エナメルの上に細かいデザインを施すことができますが、銅や銀はこうはいきません。アメリカのイラン学者アーサー・ポープは「イラン芸術の調査」という本の中で、エナメル細工についてこのように記しています。
「エナメル細工は火と土の輝かしい芸術であり、きらきらした円熟した色を伴い、その歴史は紀元前にさかのぼり、紀元前600年から400年の間、紀元前500年以降の金属の上に見られる。イランのエナメル細工は、他の地域より明らかで、サファヴィー朝時代のその古い例の一つが、フランスの旅行家ジャン・シャルダンによって言及されている。イスファハーンのエナメル細工の破片には、薄い青と緑、赤、黄色で描かれた花と草の下地に鳥獣の模様が描かれている」
エナメル細工は真鍮のエナメル細工の器作りが行われていたセルジューク朝時代にピークを迎え、国内のみならず近隣諸国にも輸出されていました。この時代の貴重な作品の一つは銀の上に施されたエナメル細工で、アメリカのボストン博物館に収蔵されています。この作品はハサン・カーシャーニーという名の職人によって作られ、その名前はクーフィック体で上に刻まれています。さらにベルリンのイスラム芸術博物館とニューヨークのメトロポリタン博物館に収蔵されているサーサーン朝の皿は古代イランのエナメル細工の作品例となっています。
イランのエナメル細工の歴史はパルティア帝国とサーサーン朝時代に遡りますが、その使用については、モンゴルのイルハン朝時代以前は明らかになっていません。モンゴル人の時代には、イランの金属器とエナメル細工が変化し、イランの宮廷人の装いを表す絵がアラブのものにとって代わりました。
サファヴィー朝時代には宮廷の祝宴、狩り、乗馬といった絵が多く描かれ、エナメル細工は銀の上に施されていました。さらに唐草模様や契丹(中国)の模様がデザインに加えられ、赤い色もまたどの時代にも増してエナメル細工に使用されました。ガージャール朝時代には、エナメル細工はわずかしか存在せず、この王朝の水タバコをたしなむ王であったナーセロッディーンシャーをはじめとする王の宮殿には貴重なエナメル細工の水タバコがありました。さらに当時の貴族や有力者の邸宅にも、エナメル細工の施された品が存在しました。
エナメルは生産方法の点で二つのグループに分けられます。一つは針金を使ったエナメル細工です。このエナメル細工は非常に細い針金を使用します。まず初めに針金を好みの形にし、素地の上に貼り付け、硝子の釉薬をかけます。その後それをおよそ1000度の窯に入れて、針金と素地を溶接します。次にエナメル細工の特別な色を表面に一様につけていきます。これらの色は粉末状となっています。その後エナメル細工が施された作品を3分間、1000度の窯の中に入れます。針金は黒くなり、その色を酸化させることで最初の状態に戻します。
もう一つのエナメル細工は、現在イラン中部のイスファハーンで行われている方法で、透明な釉薬の上にエナメルの模様が描かれているものです。この方法ではまず銅細工師がデザインに基づいて銅器を作り、その後エナメル細工師がその上に白色の釉薬をかけます。釉薬は3,4回かけられ、そのたびに700度の窯に入れ、釉薬の色を定着させます。その後この白色の地の上に模様を描いていき、再び400度から500度の窯で焼いて、好みの色を出していきます。
エナメル細工に使用されている色は植物性、鉱物性、金属性の3つの色彩があります。化学物質で構成された色は異なったものが出来上がります。現在、化学的な色彩が模様に使用されていますが、かつては植物や鉱物の色が使用されていました。
通常、エナメル細工の下地には、純粋な金属、あるいは正確な配合の合金を使用しなければなりません。金属の厚みは8ミリ以上で、これによりあらゆる圧力に対する下地の耐久性を増し、その結果、釉薬の腐敗や形の変化を防ぐことができます。
エナメルの釉薬をしっかりとくっつけるためには、金属の表面を完全にきれいにする必要があります。職人の指の跡が残っているだけで、その脂が本体と釉薬の接着を妨げ、釉薬の表面に亀裂を生じさせます。エナメルの色彩には白色はありません。もしこの色が必要であれば、白色の釉薬の下地を使用するか、あるいは模様を描いた後、先の尖ったペンで下地から色を取り除き、釉薬の白色を出していきます。
今日イランでのエナメル細工の中心地は、中部のイスファハーン、そして南部のシーラーズであり、これらの都市のエナメル細工の製造において、巨匠たちが活動を行っています。エナメル細工の器には、昔から様々な模様が施されてきましたが、その一部は非常に繊細で困難であるため、今ではもう描かれていません。しかしレリーフや、格子、エナメル修飾、ミニアチュール、歴史的建造物などの絵柄が今でもエナメル細工の器に見られます。
エナメル細工の職人は、様々な作品を作っています。皿、花瓶、お椀、写真の額縁、絵画などが、金細工や寄木細工などと組み合わせて作られています。さらに特にイマームの聖廟にある扉や窓、鉄柵などがエナメル細工で装飾されています。この他、女性の化粧箱や様々な用途の寄木細工の箱、ティーカップやコップ、鏡、筆箱、ベルト、アルバム、装飾品などにエナメル細工が多く見られます。
エナメルの器を購入する際には次の点に注意すべきです。それは、透明性、艶、輝き、色使い、焼き具合などです。また器を触ってみて滑らかさを感じなければ、それは品質があまりよくないということです。デザインや模様は優美で、規律がとれているべきです。さらに器の裏側に良質の釉薬がかけられており、ひびがないのが好ましいです。器の内側も色や釉薬にひびの入っていない方がよいでしょう。非常に薄い銅板から作られた器は軽く、たいてい彫金が脆弱なものとなっています。