May 17, 2017 17:33 Asia/Tokyo
  • 預言者ムーサーの物語
    預言者ムーサーの物語

それでは、コーランの物語、第一話預言者ムーサーを始めることにいたしましょう。

コーランはイスラムの啓典です。幾世紀もの間、建設的な教えによって、人々の心を魅了し、多くの人を暗闇や迷いから救ってきました。この書物はまず人々を導き、創造世界と唯一の神のしるしについて深く考えるよういざなっています。コーランの中には、教訓に満ちた物語も存在します。コーランの表現を借りれば、それらの中には、賢い人々への教訓や忠告が隠されています。コーランは、驚くべき芸術的な形で、先人たちの物語を用いながら、人々を導いています。これらの物語の美しく簡潔な表現は、完全に事実に沿ったもので、人々に向かって、それらを読み、耳を傾けるよう勧めています。

 

ただし、コーランそのものはあくまでも導きの書であり、物語ではありません。先人たちの辿った運命を物語によって語りながら、様々な教訓を与えているのです。

 

預言者ムーサーは、これまで捜し求めてきたもののために、自分がどれほど長い道を歩んできたかについて考えていました。目的を成し遂げるまでは、その努力を放棄するつもりなど微塵もありませんでした。ムーサーは自分に問いかけました。

「私は神の預言者だ。多くの知識や秘密を神から教えられてきた。今、私の主は、豊かな知識によって、新たな真理と英知を私に教えることのできる僕について語っている。その人は一体誰で、どこにいるのだろうか?」

 

大きな海のうねり、波の轟く音に、ムーサーは我に返りました。彼は2つの海がぶつかる場所に座って考えにふけっていたのでした。そのとき、突然、そばに一人の男が立っていることに気づきました。その男が持つ様々なしるし、ムーサーは、彼こそが自分が探し求めてきた人物であることを知ったのです。ムーサーは立ち上がって、その男に向かって話しかけました。

「わたしは、ぜひともあなたの知識の泉の恩恵に授かりたい。そして、あなたの導きの明かりを灯したいのです」

 

しかし、男は答えました。

「あなたは私と一緒にいることはできないだろう。何より、私の行動に耐えることができない。なぜなら、あなたはその秘密を知らないのだから」

 ムーサーはそれでも言いました。

「どんなことがあっても、あなたに反対することなど致しません。私が忍耐強い人間であることはすぐにもお分かりいただけるでしょう」

 

男は、自分がヘズルという名の神の預言者であると名乗り、こう告げました。

「もし、どうしても私に付いて来たいと言うのなら、私がその真理について説明するまで、一切質問をしてはならない」

 

こうして2人は行動を共にし始めました。しばらく歩みを進めたのち、彼らは船に乗りました。船員たちは彼らを温かく迎えてくれました。少し経つと、突然、ムーサーはある一点を見つめたまま、動けなくなりました。全く信じられません。ヘズルが折れた木を使って、船に穴を開けているではありませんか。ムーサーは預言者として、圧制にも等しいこのような所業を見て見ぬふりをすることはできませんでした。ムーサーはヘズルとの約束もすっかり忘れて、声を上げました。

「私たちに親切にしてくれた船員たちの船を壊して、彼らを危険に晒すおつもりですか?何という酷い仕打ちでしょう」 

ヘズルは答えました。

「あなたは私と一緒にいることに耐えられないと申し上げたはずだ」

ムーサーはそこで我に返り、ヘズルに謝罪しました。しかし、まもなくして、ヘズルが行った次の行動は、さらにムーサーを驚かせることになったのです。

                         

まだいくらも進まないうちに、彼らは一人の若者に出会いました。ヘズルは何かを言う前に、この若者を殺してしまいました。ムーサーは信じられない思いで、大きな声を上げてヘズルに抗議しました。

「あなたは、罪も犯していない清らかな人間を殺してしまったのですか?何という酷いことをなさるのでしょう」

ヘズルはムーサーを見つめて言いました。

「あなたは私のすることに耐えられない」 

ムーサーはそれでもなお、強く懇願して言いました。

「これからは、もし私があなたのすることに何か言っても、一切私と話をしないでください」

 

ムーサーとヘズルは、小さな村落にたどり着きました。しかし、食料を買うお金がありません。その上、その土地の人々は、彼らを温かくもてなしてはくれませんでした。彼らが歩いていると、途中で壁が崩れかかった場所がありました。ヘズルは丁寧にそれを直してやりました。ムーサーはまたしても、ヘズルに抗議の声を上げました。

「こんなに大変なことをしたのですから、人々から賃金をもらえば良いではありませんか」 ヘズルは答えました。

「さて、どうやら私たちが別れなければならないときが来たようだ。その前に、あなたが耐えられなかった事柄についての秘密を教えよう。まず、私が穴を開けた船は、貧しい人たちの持ち物だった。だが、圧制的な王が、船と見れば手当たり次第に持ち主から強奪しようとしていた。そこで私は、その船が王に奪われてしまわないよう、船に穴を開けたのだ」

 

ヘズルは続けて、若者を殺した理由について、そして壁を誰にも告げることなく修理した理由について語りはじめました。

「あの若者は反抗的な人物で、両親も、彼の不信心や反逆に成す術もなく苦しんでいた。そしてそれがもとで、両親は今しも道を踏みはずし迷いに陥るところだった。そこで神は、その反抗的な息子の代わりに、善を行う清らかな子供をその両親に授けることを決められた。さらに、私が修理した壁について申し上げよう。あの壁は2人の孤児のものだった。壁の下には2人の孤児のための宝が隠されていた。神は彼らが成人に達したとき、その宝を手にできるように望まれた。だから、私は壁を元通りに直して、宝が守られるようにしたのだ。これは神からの慈悲であった」

 

ムーサーはヘズルの口から語られる真実に対し、一言も発することができませんでした。そして、ヘズルの深い知識にただただ驚いていました。そのとき、ムーサーとヘズルの前に一羽の鳥が現れ、くちばしで水を一滴、すくい上げました。ヘズルはムーサーに語りかけました。

「今、この鳥がどのようなメッセージを伝えたか、分かるだろうか? どれほど多くの知識を持ってしても、あなたたちの知識は、神の英知を前にしては、私がくちばしですくった一滴の水ほどのものに過ぎない、こう言いたかったのだ」  

                          

 

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